第一章19 ぼっちの道草


 (2874年7月31日)

 (クレデリア村 国王宮殿)


 重厚な装飾を施した椅子に腰を掛けている国王の前には中央の赤い絨毯を挟み、多くの皇族、貴族が列をなして並んでいる。その中で椅子に鎮座する国王の隣に起立している皇族代表が声を上げる。


 「国王様! 只今権能者のサラ殿が謁見に参りました!」


 宮殿の門が開くと、サラは堂々とした足取りで赤い絨毯を踏みしめてく。

 やがて国王の前に辿り着くと、片膝をつき、顔を下に向け、国王に謁見する。


 「国王、クレデリア15世様! ウェイト村での調査の報告に参りましたわ」


 「顔を上げたまえ。サラ殿」


 そう言われ、サラは国王に顔を合わせる。

 国王は50代半ばで少々白髪交じりだが、4大国の国王の中では最年少である。

 頭にはそれ相応の王冠を乗せ、服装もたいそうで重そうである。


 「ところで、報告をお聞きしても良いかね?」


 「はい。国王様の予言通り、ウェイト村に権能の逸材がおりましたわ。名はソウタ。年は20ほどの一般的な男でしたわ」


 「そうかい。報告ご苦労。ちなみに彼の行き先や目的などの情報を聞いても良いかね?」


 「はい。彼は家族を救うため、サンリ村に向かっている模様ですわ。どうやら過去から来た異端児のようで、呪縛師団からもマークされていると思われますわ。今は争いに巻き込まれないためにも、我が国は今後彼に関わらない方が良いかと」


 「なるほど。助言ありがとう。しかしそういう訳にもいかないのだよ……」


 国王はこの一瞬少し真剣な表情を見せたかと思いきや、次のとたん普段通りの笑みを浮かべた。


 「それでは引き続きこの国のためによろしく頼むよ。サラ殿」


 「はい!」


 サラははっきりとした返事でその場を後にした。


 宮殿から出た後もサラのモヤモヤは晴れる様子がない。


 「……この国は一体何を考えているのかしら?」


 ウェイト村への無償援助のことと言い、ソウタへの関与の示唆といい、この国が裏で何かを企んでいるに違いない。サラの疑問は深まる一方である。

 考えながら歩いていると、廊下でふとサラは2人組の貴族とすれ違った。

 そこでサラは貴族たちのたわいもない話を耳にした。


 「この国も下剋上をするのは時間の問題ですかね」


 「そうですな。エルファ様たち強硬派が動き出すとのことですしね」


 「駒を増やす…… 楽しみですね、ふふふ」


 サラは耳を疑った。なんせ下剋上なんて言葉を未だかつて聞いたことがなかったからだ。

 長きにわたる戦争が終わって、数百年が経とうというのに、また大戦を犯そうとしている、その事実を受け入れられなかった。

 確かに戦後処理によってこのクレデリア王国が最下位になったのは事実であるが、まさか、そんな考えがサラの頭をよぎった。

 下剋上とソウタの関係はイマイチ分からないが、サラは私的にソウタのあとを追うことにした。

 そこでサラはある人物に電話をかけた。


 「あ、もしもし、おつかれ」


 「なんだサラか。どうした?」


 「確かあんたキー村で働いていたわよね。頼みたいことがあって、実は―――」


 「わかった。やってみるよ」


 「よろしく頼むわ」


 ******


 (2874年7月31日)


 「さてと、これからどうしたものかな」


 オレにはこれといった交通手段がなかった。歩いていくか、誰かに乗っけてってもらうか、ぐらいしか方法はなかった。

 ただこの辺りはまだ田舎で車通りもなく、タクシー会社は先日の戦闘のせいで潰してしまった。

 オレはそこであることに思いつく。


 「そうだ! 権能を使えば…… ”ウインドレスポンス”」


 オレは案の定、風の力で空を飛ぶことに成功する。

 風の力は自在に操ることができ、全速力で飛ぼうと思えば、目が開けられなくなる程度まで加速することができる。

 ただ強風を生もうとすればするほど、意識の集中が必要となってくるため、他のことは何もできなくなる。


 「うっひょ~! すげー時短だ!」


 オレは調子に乗って、そこそこのスピードを出す。

 それは忽ち地上の人たちの注目の的になる。オレは重ね重ね行きかう人に指をさされる。


 「ひ、人が飛んでる!?」


 「何なんだ、あいつ?」


 「うわー! お母さん、見てみて! 空に飛んでる! あれ写真撮ってー!」


 オレは少し、いやかなり恥ずかしい思いをした。

 そういえばオレは人の目を気にしまくって、注目されるのを嫌う陰キャ大学生だったはず……

 オレはもう一度自分の状況に対する周りの視線を想像してみた。


 「飛ぶのやめよ……」


 オレはその光景を思い浮かべ、嫌悪し、すぐさま地上に降りた。


 「た、助けて!! 強盗だ!!」


 どうやらオレがたまたま降り立った所の近くのコンビニで強盗が発生していた。


 「うるさい!! 黙れ! さもないと殺すぞ!」


 その声と共に店内は静まった。

 覆面の強盗は定番通り要求を口にする。


 「金を出せ! 出せば命だけは助けてやる。出さなければ、撃つぞ!」


 そう言い放った直後、強盗は地面に向けて1発発砲した。

 『パーン!』という銃声が響き渡った。

 もう打っちゃってるじゃん、と心の中で突っ込みつつ、中の様子を窺っていた。

 以前なら黙ってこういった場を立ち去っていたが、今のオレは違う…… オレは一応の権能者なのだ。

 そこから出てくる謎の自信がこの強盗事件を防ぐことに足を向けていた。


 コンビニの店内には、店員が2人、お客が1人、強盗犯が1人の計4人。配置はレジのところに店員と強盗犯、出口に比較的近いコミックスペースにお客が1人という感じである。

 強盗犯の武器は右手に握られている銃のみである。その右手はわずかに震えているように見えた。これは恐らく初犯に近しい、少なくとも常習犯の震えではない。そこにオレは少しの可能性を見出していた。

 そういったことを考えながら、2~3分店内の様子を外から観察していた。

 おそらく強盗犯には気づかれていない。


 オレはタイミングを見て、駐車場に落ちていた石をコンビニの窓に投げつけた。

 オレはその際に風の力を利用しつつ、石を超加速させた。

 風に乗った石は『パリーン』と勢いよく窓ガラスをぶち破る。


 「な、なんだ!!」


 突然の出来事に動揺したのか強盗犯は声を上げ、割れた窓の方に目をやる。

 窓の方に目をやっている隙にオレは正面入り口からコンビニに入り、惜しみなく権能を使う。


 「”グラビティレスポンス”」


 オレは強盗犯の天井に局地的な重力をかけ、天井を強盗犯の頭に落とした。

 『ドーン』と音を立て崩れると、コンビニの天井にすっぽりと穴ができた。


 「店員さん! 早く警察に通報してください!」


 「は、はい…… わかりました」


 店員は唖然とした表情で警察に通報した。

 強盗犯は息をしているものの、体中の至る所で骨折していた。

 危うく、というか確実にオレの方が悪者になりかねないのでオレはさっさとその場を後にした。

 その後犯人は連行され、事件は一件落着?した。


 ******


 オレは引き続きキー村に向けて歩いていた。

 すると後ろから1台の車がやって来て、オレの目の前で停車する。

 運転席の窓から1人の青年が顔を出し、話しかけてきた。


 「先ほどは助けてもらってありがとうございました」


 「君は確か、コミックスペースにいた……」


 「はい。私の名前はゴースキンと言います」


 「オレはソウタ。よろしく」


 オレが急遽自己紹介を交わした通りすがりの青年は、さわやかな笑顔で真っすぐとオレの方を見つめていた。

 まるでオレに何か用でもあるかのように。


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