第一章18 Awaking《アウェイキング》


 (2874年7月30日)


 ドリスの表情はさっきまでと違って、どこか余裕がない。


 「け、権能者だと! しかしさっきまで、なぜ?」


 「すまないが、我ながら演技していたんだよ。大根じゃなかったか?」


 「どうしてそんなことを……!」


 「早々に勝負ついちゃったら、情報聞き出せないじゃん」


 「くそっ! 舐めあがって…… しかし権能者という情報は耳にしていないぞ」


 「だって、つい先日受け継いだんだからな」


 ******


 (レイクビワ村までの道中)


 「あんたはもう権能者なのよ。権能力者じゃなくて」


 「その2つの何が違うんだ?」


 「そんなことも知らないわけ! まあいい、教えてあげる」


 いつも通りの高圧的な態度でサラは話を続ける。


 「権能者はその権能を司る本体、そして権能力者は権能を与えられて、能力の使用のみができる存在のことよ。平たく言えば権能者の従者ということになるわね。そして本来、権能者同士の戦闘によって発生する権能はその効力を発揮する。ただ権能力者が使用した権能については権能者には無効となるのよ。もちろんその逆は有効だけどね。つまり権能力者は権能者に逆らえないというわけね」


 「そうなのか」


 「そして無知のあんたにもう1つだけ良いこと教えてあげる」


 「なんだ?」


 「加護についてよ。権能以外にも加護という能力がこの世界には存在しているのよ。細かい分類は面倒だから省くけど、加護は権能とは違って100種類以上存在すると言われているわ。ちなみに私は”神速の加護”を身につけているわ。その名の通り尋常じゃない速度で移動できる。加護は特定の人物に認められることで身につけることができるわ」


 ******


 「残念だが、お前の”精神的病”の権能はオレには通じないのさ」


 「くっ……! 貴様っ!」


 ドリスはやけになってオレに突っ込んできた。

 すごい速さでオレの目は追いつかなかった。

 そもそもオレはこういった形の戦闘で勝負つもりは毛頭なかった。

 オレは与えられた恩恵を惜しみなく使う。そう心に決めた。

 明らかにこのスピードとパワーではオレに勝ち目はない。

 しかしオレの権能は使いようによるところがある……


 「”グラビティレスポンス”!」


 オレは大気中の重力を利用してドリスの速度を急速に落とした。

 ドリスの速さはオレの足の速さと同等かそれ以下のものだった。

 そしてオレはその間にドリスと十分の距離を取り、テキトーにシャドーボクシングを始めた。

 あくまでオレの想像上なので、非常に様にはなっていなかったと思う。

 オレの鈍いパンチが空気を1つ1つ切る。

 当然ながらドリスは疑問の表情を見せる。


 「貴様っ、何をやっているんだ? 舐めるのもいい加減にしろ!」


 シャドーボクシングをするオレに向かって、ドリスが突っ込む。

 あいにく重力の力は解除していたので、ドリスの速度は元に戻った。


 「ふっ、もらった!!」


 「”ウインドレスポンス”!」


 シャドーボクシングで空気をきっていただけのように見えた、オレの空パンチがここにきて光る。

 少しラグがあったのちに空パンチで出た空気の流れに風の力が乗っかり、急激に風力を増し、爆風となった。

 パンチ1つ1つの風にドリスが押し返される。

 終いには『ブォーーーン! ブォーーーン!』という風音と共にドリスは風で吹き飛ばされ、急激に宙を舞う。


 「う、うわっ! な、なんだと!」


 ドリスは高度100mほど飛ばされる。

 それを見てオレも風の力を利用して、ドリス以上の高度まで急上昇した。

 ドリスの上にオレは到達し、軽く頭をチョップする。


 「じゃあな。”グラビティレスポンス”!」


 その合図とともに、ドリスは重力の力で急降下、たちまち地面と激突し、物凄い衝撃が生まれた。

 砂煙の中からボロボロのドリスが気絶状態で発見された。

 戦闘終了後、オレはある大事なことに気が付く。


 「あ…… やべっ。資金貰うの、忘れてた……」


 戦闘を終え、オレが地上に降りると、その衝撃音で目が覚めたのかサラが意識を取り戻した。


 「はぁーっ。良く寝たわ……って何この状況! 一体何が起こったわけ?」


 サラは目の前に広がる、一部の廃墟同然の光景を見て、驚いた様子であった。


 「そ、それはだな……」


 ここはどう説明すべきか…… いや素直に話すとするか。


 「あの後村役場に行ったら、呪縛師団の奴と鉢合わせちまって、戦ったらこうなったんだ」


 「あんた、にしてもやり過ぎよ! この村を破壊するき! 少しは加減をしなさいよ!」


 そんな力使ったつもりじゃないんだけどな……


 「ごめんごめん」


 「私じゃなくて村の人に謝るのが筋よ!」


 「そ、そうだよな……」


 「で、資金援助交渉はどうなったのよ」


 ギクッ、という定番の反応を心の中で見せたわけだが、これこそどう説明するべきか。

 どうって、オレが忘れてました、で済む話なんだが、そんなこと言ったら……


 「そ、それはだな……」


 オレがその後を話そうとした瞬間、村にクレデリア王国軍の兵士たち、総勢100人ほどが隊列を組んでやって来た。

 軍の代表とみられる人物が声をかけてくる。

 オレはこの時、九死に一生を得るとはこういうことかと痛感した。


 「これはサラ様、そしてソウタ様」


 どういう訳かオレの名前を知っていた。


 「あんたたち何よ?」


 「我々は国王の御命令でやって参りました。そしてソウタ様、この度は呪縛師団”病”担当最高補佐、ドリス・マインド討伐、誠にありがとうございます。そのお礼と言ったらなんですが、ウェイト村への援助資金を国から出させていただこうかなと思います」


 「ほ、本当か!!」


 予想外の待遇にオレは驚きと安堵感を覚えた。

 その対応を不審に思ったのかサラが軍の代表者に詰め寄る。


 「どういう風の吹き回しかしら? 王国が村に資金援助なんて信じられないわ!」


 「これも国王陛下の御命令ですから」


 「まあまあ、国のご厚意だし、ありがたく受け取っておこうぜ」


 オレの立場的にはここでご厚意を受けなければ、正直困る……

 サラはやや不満といった表情を浮かべながら、その場の空気を読み、引き下がった。


 (2874年7月31日)


 翌日、任務を無事達成したオレたちは今後の方針について話し合う。


 「エルさんはこの後どうするんですか?」


 「私は国からの援助資金を乗せて、ウェイト村に戻ります。やることはたくさんあると思いますから」


 「サラは?」


 「私はひとまず首都のクレデリア村に向かうわ。国王に謁見して報告しに行くわ」


 「そうか。オレはとりあえずキー村に向かうぜ。短い間だったけど、ありがとう!」


 「はい。こちらこそありがとうございました!」


 「まあ、礼は言うわ。またね」


 サラはそう言い残してさっさと転送石で行ってしまった。


 「最後まで愛想のないやつだなぁ」


 「それがサラさんですよ。それでは私もそろそろ」


 「はい! また! 村の皆さんによろしくお伝えください!」


 「はい。それでは」


 オレはエルとも別れを告げた。

 2人と別れたオレは1人となり、次なる町、キー村を目指した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る