第一章14 怪調な交渉
(2874年7月30日)
オレたちは30分ほど村を歩き、ようやく村役場へと辿り着いた。
「ここが村役場か…… 大きさはウェイト村のと大して変わらないな」
「そんなもんよ。役場が大きいのは大都市くらいよ」
オレたちは早速役場に入り、受付の人に尋ねた。
「すいません。この村の村長の方とお話ししたいのですが……」
「お客様。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「オレはソウタという者です。ウェイト村からやって来ました」
「ソウタさん…… かしこまりました。村長室まで案内いたします」
受付のお姉さんはオレの名前を聞くだけにとどまり、快く村長室まで案内してくれた。やけにスムーズすぎるが故の違和感がどうにもぬぐえそうにない。
「やけに、スムーズに交渉までもっていけそうですね。もしかしてエルさん、事前に連絡とかしておいてくれました?」
「いえ、そういったアポイントメントは取っておりません。当初の計画では村長の予定に暇が出るまで待つ心構えでしたから、幸いなことかもしれませんね」
「そう、でしたか」
オレのちょっとした不安とは裏腹にエルは鋭い視線からほんのりとした笑みを浮かべる。
もしかしたらこれがギャップ萌えってやつなのかもしれない。
オレたちはようやく村長室まで辿り着いたようだ。
「こちらのお部屋でございます」
案内され、オレたちは村長室の扉を開けた。
「失礼します!」
そこには50代半ばの少し若めの村長がソファに腰を掛けており、その両脇にはその秘書と思しき人物が2人立っていた。
「これはこれは、この度の来村歓迎いたします。私はレイクビワ村の村長を務めております、ノーステリアと申します。どうぞよろしく。そして後ろに立っている2人は私の秘書兼警護役のバイとトルです」
「は、はあ。その様子だと我々のことをご存じで?」
「存じ上げております。なんでも先頃の人喰いの悪魔の撃退は大きな話題となっておりましたから。そして風の噂でこちらに資金援助に来られるとかいうことを耳にしまして」
「そうでしたか」
しかしなぜ彼らが今日この場にオレたちが来ることを知っているのかは不明である。
オレはこのノーステリアとかいう男及びこの村のことをどうも信用しきれない。
「今この辺りに呪縛師団の連中がいるって噂はあんたたちも知っているわよね? あんたたちは逃げなくても平気なわけ?」
「御心配には及びません。常日頃から厳重な警戒はしておりますから」
「警戒って、あんたたちねぇ……」
少し呆れた表情で語るサラを遮るように秘書のバイが初めて口を開いた。
「話の途中申し訳ありませんが、お三方に依頼したいことがございまして」
「なんですか? 聞きましょう」
「実は先日からこの村の湖の主である大鯰の様子がどうもおかしくてですね…… 様子を見ていただきたいのです。何でもサラさんに至っては権能者ということもあり、何かその原因がわかるのではないかと…… もちろん報酬としてはウェイト村への資金援助を致しましょう」
オレは今の話の確認の意味もあってノーステリアを見た。
「そういうことです。あなた方にお任せしたい」
オレはどうにも話の流れがうまくいきすぎているような気がしてならない。
まあ目標達成なら何でもいいのだが……
「わかりました。オレたちがその依頼引き受けましょう!」
そうしてオレたちは村役場を後にして、早速サンソ湖へと向かった。
「なんだか怪しいわね。この村」
「そうだな。話の進みがスムーズすぎる。まるで台本があるみたいだ」
どうやらサラもオレと同じようなことを考えていたらしい。
すると突然オレのお腹が『グ―――』という悲鳴を上げた。
「何よあんた。お腹すいているの? あそこにコンビニがあるから何か買ってきなさい」
サラの指さした先には確かに1軒のコンビニがあった。
オレはこの時代でも”Fマート”が存在していることに若干の動揺を見せながらも、おもむろにコンビニへと向かった。
「いらっしゃいませー!」
オレはわずかな所持金約1000円とにらめっこしながら商品を吟味していた。
うーんと、これと、これと、これも買っておくか。
オレは入店から5分ほどたった頃レジに足を向けた。
「ありがとうございます。『ピッ! ピッ! ピッ!』 3点でお会計が460円でございます。こちらのポイントカードはお持ちですか?」
「持ってないで……」
「このカードからよろしく頼むわ」
会計途中にサラが割り込んできた。正直その気配は一切分からなかった。
「お前、割とマメなんだな」
「うっさいわね! いちいち」
「か、かしこまりました! ポイントカードをお預かりいたします」
店員は少し動揺しつつも、きちんとサラのポイントカードにポイントを貯めていく。
オレたちは会計を済ませ、店を後にしようとしていた。
その時、オレは全身黒ずくめの男とすれ違い、話しかけられた。
「ねえ。君たちはどこから来たのかな? ここらでは見ない顔だ……」
「…………」
オレは何となく面倒なことに巻き込まれると思い、スルーした。
ヤンキーに声かけられたり、目が合ってしまいそうなときはオレは率先してスルーをする。
「無視かい? まあいい。突然すまなかったね。サンソ湖の大鯰には気を付けたまえ…… また会おう、ソウタ君」
「……なぜオレの名前を」
反応したときにはもう遅く、コンビニのドアは閉まり、男の姿は消えてしまった……
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