第一章11 ひと段落とその後


 (2874年7月29日)


 悪魔との戦いから一夜明けた。

 何とかオレたちは悪魔から村を守り、村の人々を救うことに成功した。

 そんな翌日、村の集会所で村の今後についての会議が行われることになった。

 会議の出席者は、村長のニッカ、居酒屋のジル、オレ、サラの4人で行われた。


 秘書のエル曰く、招集理由は、みんな村の人たちからの支持が厚い面々だからだそうだ。ちなみにオレは悪魔退治の功績、ニッカは村長として、ジルは村一番の居酒屋の経営者として、サラは武闘大会の優勝者として、らしい。

 まずジルが話し始めた。


 「ニッカ様、また今度いつ奴が来るかわからない。人工生命体である以上、また生み出されれば、危機がやって来る。俺たちは村の外堀を今以上に強くしていく必要があると思うぜ」


 「そうだな。そういった対策や運営について話し合おうと思う。今、我々の村に足りないのはそれだけのものを造る資金だ。なにか提案はないか?」


 「資金援助なら、私が他の村に頼んであげないこともないわ」


 少しトゲのある言い方でサラが応える。


 「本当かね、サラ君」


 「何よ! その呼び方キモイんですけど!」


 サラは相変わらず見た目にそぐわない高圧的な口調で村長にも容赦ない。

 その言葉を聞いたジルの表情が少し強張った。

 オレはそれを見て少し口をはさむ。


 「村長に向かって、その言い方はないだろ」


 「何よ変態! また気絶させてあげようか?」


 オレはその返しに心が折れた。

 オレは彼女の中でいつの間にか”変態”になっており、彼女の真っすぐとした目は非常に恐ろしい。このままでは本当に気絶させられる、とオレは悟った。

 今度はジルが会話に入って来る。


 「ところで嬢ちゃん。資金援助って、一体何処から頼むんだ? そんなあてあるのか?」


 「レイクビワ村よ」


 「レイクビワ村か…… 確かに近くて、早急な資金が見込めるが、タダで資金援助ってのもちょっと難しいんじゃねえか?」


 「バッカじゃないの! モノは試し、やってみなきゃ分からないじゃない!」


 「ま、まあそれもそうだな……」


 ジルの表情はやや引きつり、どうやらサラの態度に物おじしてしまったようである。

 するとその話を聞いていたニッカが口を開いた。


 「それでは明日より、ソウタとサラの2人にはレイクビワ村に資金援助交渉に行ってもらう。まずはそこからだ。2人とも頼んだぞ。そして資金供給があり次第、村の者たちは防衛施設の製作に取り掛かる。異論はあるかね?」


 「ちょっと待ちなさいよ! なんでソウタも一緒に行くのよ!?」


 「ソウタには私的事情でサンリ村に行く予定があるそうだ。行く方向が一緒ゆえに交渉に同行させても良いだろう」


 「サンリ村って…… そういうことね。わかったわ」


 サラは何かを察し、引き下がった。

 会議は一応の方針が決まったため、解散となった。

 オレはその内容を伝えようとヘル師の家に向うことにした。


 集会所の外に出ると、腰にあった意志の剣が突然光りだし、そして消えた。

 この瞬間、何か嫌な予感がした。

 オレは走ってヘル師の家へと行った。


 ******


 薄暗い部屋の中に2人、1人は目の前の机に肘を置き、椅子に腰を掛けている。もう1人はその人物を前に姿勢よく立っている。


 「デザイア様、ご報告があります」


 「なんだね? ネクロス」


 「かねてより監視を続けていましたソウタという者が人喰いの悪魔の討伐に関係したとの情報が入ってきました」


 「本当か? それは我々の脅威になり得るかもしれんな…… ネクロスよ。ソウタを監視対象から討伐対象へと切り替え、いずれの手段でも構わんが、討伐任務を”病”に命ずる!」


 「はっ! この呪縛師団”病”担当ネクロス・ディーズにお任せを!」



 話し合いが終わると、ネクロスは自らの拠点に戻り、部下に報告をした。


 「この度デザイア様が我々”病”に任務を命じてくださった。この意味が分かるわよね、ドリス」


 「もちろんです。ネクロス様。この私、”病”担当最高補佐ドリス・マインドが”病”の名に恥じぬよう、任務を遂行したく思います」


 「ドリス、あなたがまともで良かったわ。”老”の奴らみたいに話が通じなかったら、どうしようかと思っていたわ…… さあこっちに来なさい」


 ドリスは椅子に腰かけるネクロスに近づき、片膝をついて応じた。

 するとネクロスは右手でドリスの顎をくいっと持ち、自らと向き合わせるとこう言った。


 「頑張るのよ…… 褒美は、貴方の望むものにするわ」


 そう言うとネクロスは唇をペロリと舐めた。


 ******


 『ゴンゴンゴン! ゴンゴンゴン!』


 オレはヘル師の家のドアを勢いよく叩く。なぜなら、声をかけても応答せず、鍵も開いていないからだ。

 オレは仕方なく、思い切って体当たりしてみることにした。


 『ドーーーン!』


 ぶつかっただけで、ドアは壊れなかった。オレの体がむしろ壊れたかもしれない。

 そこにふとサラが現れた。


 「何してんのよあんた」


 「ここのドアが開かないんだ。力を貸してくれ」


 「ここは…… 良いわよ。開けてあげる」


 意外にもサラは気前よくヘル師の家のドアを開けてくれるようだ。

 サラは右手を前に出し、こう唱えた。


 「”サウンド・インパクト”」


 するとキーンという高音が鳴り響き、ドアは吹き飛んだ。


 「は、はぁ…… やっぱすげぇな」


 「…………」


 サラは終始無言だった。

 オレはその理由に部屋の中に入ってから気づくことになる。

 ヘル師の家のベッドには呼吸をしていないヘル師が寝ていた。

 オレは現実が受け入れられなかった。


 「ヘル師! ヘル師! 起きてください!」


 「無駄よ…… 残念だけどヘル師はもう生きていないわ……」


 「死んだってことか……」


 「死ぬとは少し違うわよ。抜け殻になるの方が正しいかもしれないわ」


 「抜け殻?」


 「そうよ。ヘル師は権能者だった。つまり人ではないのよ。権能が受け継がれるとき、それは何らかの形で受け継がれ、自らの命は消滅するという訳ね」


 「オレに受け継がれたってことか?」


 「そうよ。あんたはもう人じゃないわ。キャラだわ。お腹もすかないし、眠くもならないのよ」


 「そうか…… 意志の剣か」


 「そう。それが継承のソースなのよ」


 「お前はこうなることを知ってたのか?」


 「ええ、まあ…… でもどうしようもないことなのよ。継承は師の意志によって行われるものだから……」


 「……………………」



 オレは静かに泣いた。


 この瞬間、オレはヘル師の意志を受け継ぎ、権能者となった。


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