第一章10 意志の輝き

 

 (2874年7月28日)


 ヘル師の背後からの一撃は悪魔の首を飛ばした。

 悪魔は首と胴体の2つに分かれて、地面へと落っこちた。

 ヘル師はニッカを抱え、地上へと降りる。

 依然としてヘル師の顔には余裕が見られない。


 「助かりました。ヘル師」


 「うむ。じゃがまだじゃ。戦いは終わっとらん…… というかむしろ厄介になってしまったのう」


 「なぜです?」


 ニッカは疑問を示すが、その答えはおのずと見えてきた。

 悪魔の胴体が切断部から複製し始めた。

 瞬く間に顔へと形作られていくその光景は、異様そのものであった。

 そして複製途中の悪魔は顔部分が半分出来たあたりで再び立ち上がる。


 「なん、だと……!」


 ニッカがその台詞を口にした時、オレも内心同じ気持ちであった。

 そして、やがて悪魔は原型を取り戻した。


 「イマノハイタカッタ。オレ、オコッタ」


 すると悪魔は自分の左腕をもぎ取り、その左腕を大きな大剣に変形させた。

 その大きさというと、悪魔の背丈と同じほどの木くらいの大きさである。


 「おぬしたちは逃げておれ。ここはワシが何とかする」


 「しかし、ヘル師……」


 「いいから早く!」


 ニッカはヘル師の指示通り、オレと一緒に逃げようとした。

 ニッカは少し離れたオレのもとへとやって来る。


 「ソウタ。俺たちは一旦逃げるぞ」


 「は、はい」


 オレたちが逃げようとしたその瞬間、後ろに大きな影が現れる。


 「な、なぜだ……」


 ニッカは後ろを振り向いて茫然とする。


 そこにいたのは、悪魔であったから。

 その場にいた悪魔は合計で2体となった。

 その瞬間オレとニッカは死を覚悟した。


 「”アースレスポンス”!」


 ヘル師は瞬時に悪魔の足元に地割れを起こした。

 2体の悪魔の両足は地面に引きずり込まれていく。

 オレたちはその隙にその場から離れる。


 少し離れたところまで逃げてきたオレたちはその場に座り、一息つく。

 ニッカの容態は安全なものではなかった。先ほど悪魔に拘束された際の傷が少し残っている。

 そのためか息づかいが少々荒い。


 「大丈夫ですか?」


 「あ、ああ。なんとかな」


 そんな中、怪しい視線がオレたちを見ていた。


 ******


 「おぬしたちの相手はワシじゃ!」


 「ジジイ。ウザイ」


 「ウザくて結構じゃ」


 ヘル師がそう喋っているうちに、黙っていたもう片方が右手から襲い掛かる。


 「”グラビティレスポンス”!」


 襲い掛かる悪魔の動きは重力に逆らうものの、とても遅かった。

 ヘル師は腰から太刀を取り出し、動きの鈍くなっている悪魔に向かって刺し向ける。

 ヘル師の太刀は悪魔の胸に突き刺さり、そこからは先ほどとは違い、青色の血が噴出した。


 「おぬしらの胸にあるコアを潰せば、二度と複製できまい」


 1体は完全に消滅させたものの、もう1体の悪魔の姿が見当たらない。


 「くそっ! 逃がしたか」


 ヘル師は風の力を利用して、空からの探索に努めた。


 ******


 一休みしたオレたちは急いで村へと戻っていた。

 上空から黒い影が飛んでくる。


 「あれは……」


 オレたちはすぐに分かった。

 あの黒い翼、人型の獣とあの体格。

 間違いなくあれは、人喰いの悪魔であった。


 オレたちを見つけるや否や、オレたち目掛けて急降下してくる。

 『ドーン』という着地と共に、地面が少しへこんだ。


 「コンニチワ。サヨウナラ」


 その後すぐにこちらに向かってきた。

 オレは持ち歩いていた”意志”の剣を取り出し、抗戦する姿勢を見せた。

 それを見たニッカもまた、疲弊した体ながらも腰の剣を抜き出した。

 間もなく右拳が2人目掛けて飛んでくる。


 ぶつかる瞬間、僅かにニッカがオレの前に出て、剣でぶつかった。

 ニッカの剣は折れ、ニッカは突き飛ばされ、後ろにあった大木にぶつかった。


 「ニッカさん!」


 残されたオレは人食いと悪魔と対峙する。

 悪魔は不気味な笑みを浮かべながら、オレを見てこう言った。


 「オマエガ、ソウタカ?」


 「ああ、そうだ」


 「ナルホド…… デハ、ココデシンデモラウ」


 「ど、どうしてだ?」


 「ソレガ、オレノニンム」


 「くっ……」


 よくわからないが、人喰いの悪魔はオレを殺すためにここに来たらしい。

 ただ今の状況は絶体絶命である。

 オレは頭の中で悪魔を倒すように念じた。

 するとどういう訳か、剣が突然光りだす。

 その白く、眩しい閃光は一瞬で辺りを包み込む。

 光が消え、元に戻ったが、状況は何も変わらない。オレの前には大きな悪魔が立ちはだかる。


 「ショセンハ、ニンゲン」


 そう言うと、悪魔はオレの体を掴もうと右手を繰り出してきた。

 かなりのスピードのため、オレが華麗に避けられるはずもな……


 「…………!」


 オレはその瞬間、サラのステップを応用した。

 悪魔の右手を退け、悪魔の懐に入り、剣を向ける。

 オレの剣は悪魔の右腕、左腕、両足、首を切り裂いた。

 自分でもびっくりするくらいの軽さと切れ味であった。

 しかし悪魔の四肢は分裂し、またもや複製を始めた。


 「これは一体どうすれば……」


 悪魔は一気に6体へと増殖した。

 そうこう考えているオレのもとにヘル師がやって来た。


 「待たせたな。ソウタ」


 「ヘル師!」


 「おぬしの光のおかげで見つけられたわい」


 増殖した6体の悪魔は円形になってオレたちを取り囲む。


 「”アースレスポンス”!」


 地形が変化し、それぞれ悪魔の足元は地に沈み、それぞれの背後に土壁を作り、悪魔を拘束した。


 「動きは止められるんじゃが、ワシにはこれといった攻撃手段がなくてのう。代わりにおぬしの意志の剣で奴らの胸部を貫いてくれ、そうすれば増殖せずに消えるじゃろう」


 「わ、わかりました」


 オレはすぐさま悪魔の胸部目掛けて、意志の剣を突き刺していく。

 1体、1体が青い血を流し、確実に消えていくのがわかった。

 オレは合計5体の胸部を貫き、残す悪魔は残り1体となった。


 「ソウタ! 1体は残しておくのじゃ。色々と情報を聴きたい」


 「わかりました」


 オレは指示に従い、最後の1体は生かした。

 ヘル師は大地の拘束を解くことなく、悪魔に近づいた。


 「もう一度聴く、おぬしはなぜここに来た」


 「ソウタヲ……コロスタメ……」


 「やはりのう。誰の指示じゃ」


 「ソレハ、イワナイ」


 「そうか。それは残念じゃのう」


 そう言うと、ヘル師は太刀で悪魔の胸を貫いた。


 「おぬしが30年前にこの村に来たのも、同じ理由じゃろうか…… だとしたらワシの罪は重いのう。そろそろだというのに、こんな事を知ってしまうとは……」


 ヘル師の様子はどこか切なげであった。


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