第5話 探偵遊戯

 それから店長と僕の関係は、以前のことが嘘のように良好になった。仕事以外の雑談もしばしばするようになったが、店長の一番の関心は、さいに関することだった。

 あまりにも度々訊いてくるもので、僕は彼女の前夫の死因が未だ謎であることを、つい話してしまった。すると店長は目を輝かせてその話に飛びついて来た。

「吉永さん、その謎、僕らで解明しませんか?」

「解明するって……どうやって?」

「僕は以前、なんでも屋をやっていたんですよ。その頃は探偵みたいなこともやってましてね。一応その方面のノウハウはあるんですよ」

「はあ……でも、バイトだからって、そんなに時間に自由がきくわけでもありませんし……」

「その点なら心配ありません。ちゃんとバイトしてたことにして給料払いますよ」

 さいの秘事を暴くのは気が引けたが、店長の熱心に絆されて、僕は探偵遊戯に与することにした。


🏡


──僕は、星空のかなたからやって来たウルトラマン──

 目の前では2匹の怪獣たちが、暴れまわっている。このままでは地球が滅んでしまう、何とかしなければ……。

 だが、怪獣の猛攻撃に僕は倒れ込んだ。そんな僕を怪獣たちは容赦なく踏みつけた。

「うわぁーっ!」

 激痛のあまり叫ぶ僕。とその時、天から声がした。

「あなたたち、おやめなさい」

 それはウルトラの母……ならぬ、さいの声だった……。


 目が覚めると、二人の子どもたちが僕の寝ている布団の上で、パンツ一丁で暴れ回っている。さいが彼らの後を追い回す。僕は飛び起きて長男を捕まえ、シャツとズボンを着せた。どうにか準備が整うと、さいは子どもたちの手を引いて、玄関の扉を開く。保育園へ送り届けに行くのだ。

「行って来ます」

「行ってらっしゃい……」

 僕はほっこりした気分で彼らを見送ると、携帯を掴み、店長に電話をかけた。

「今、さいが家を出ました」

「オーケー、これから行きます」

 それから間もなく呼び鈴が鳴った。店長が訪ねて来たのだ。

「……どうぞ、上がって下さい」

「お邪魔します……」


 探偵ごっこの第一歩は我が家の探索から始まった。元探偵(?)である店長が言うには、灯台下暗しで、謎を解く鍵は自宅にあるものだという。それで、さいの留守中に僕と店長の二人で家中を探索することになった。店長はアルバイトに店を任せて、朝からこの近辺に待機していたのだ。

 家に上がった店長がまず向かったのは、台所だった。

「台所は主婦のとりで。大事なものはここに隠すことが多いんです」

 店長は台所のサイドボードに目を止め、その抽斗ひきだしを開いた。出て来たのは、輝と恵の母子手帳だった。N県M市発行のもので、保護者欄には生田妻いくたさい生田涼真いくたりょうまの名前が連なっていた。

「とりあえず前夫さんの名前、ゲットですね」

 さらに抽斗の奥には封筒があった。取り出してみると「遺言書」と書かれており、生田涼真の署名があった。

「こ、これは……!」

「吉永さん、読んでみて下さい!」

 僕は恐る恐る封筒の中身を取り出した。

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