魔法少女×ネクラオタク=世界を救う。
平和空輔
第一章 魔法少女(自称)爆誕
第一話 波倉幸絵、魔法少女になる①
叶えたい夢がある。子供のころからの夢だ。自分よりも大きな、恐ろしい怪物に、誰かのために勇敢に立ち向かう少女たち。人は皆、彼女らのことを魔法少女と呼んでいる。
これは、そんな魔法少女に憧れる、一人の少女が、夢を叶え、世界を救う物語である——
♢ ♢ ♢
「ゆきえ、大きくなったら魔法少女になりたい!」
それが、私の小さい頃の口癖だったらしい。毎週日曜日の朝は、まるで磁石に寄せられた鉄の塊みたいにテレビにくっついて離れなかったんだって。
そんな私も中学2年生になりました。
「行ってきます。お母さん」
玄関で先週買った新しいローファーを履いて、立ち上がる。後ろからお母さんの足音が聞こえたので振り返った。
「幸絵、お弁当忘れているわよ」
「あ、ありがとう、お母さん。それじゃあ」
お母さんが作ってくれたお弁当をカバンに入れ忘れるなんて、私はとんだ親不孝者だ。
「気をつけるのよ」
私はお母さんの声掛けに首だけで応えて、玄関の扉を開けた。
私は
肩より少し長いくらい位の髪を三つ編みにして、赤い縁の眼鏡をかけている。これは小学生の頃から変えていないんだけど、何だか姿勢が猫背になってしまっているから、より一層ネクラ見えてしまう。
さっき面影はないって言ったけど、あれは嘘。私はまだ魔法少女が好きだ。毎週日曜日は欠かさず見てるし、なんなら録画もして何度も見直している。小さい頃見ていたシリーズと、私が生まれる前のシリーズは、有料動画配信サービスでしっかりとダウンロードしてある。
それに……言うのは少し恥ずかしいのけど、まだ、魔法少女になりたいと心の奥底で思っている。だって魔法少女シリーズの主人公たちってみんな中学生なんだよ? まだ私でもなれるはず。
そんな私の大好きなもの。小学生のころまではまだみんなの前で言えた。でも、中学校から私立学校に入学して、周りの子が少し大人びて見え始めた頃から、私は自分の好きなものを、将来の夢を胸を張って言えなくなってしまった。
友達と呼べる人間はこの学校にはいないだろう。学校で話すのは先生と、月に2,3回、最低限度の会話をするクラスメイトくらいだ。
人によっては、学校に行くのが嫌になるほどつまらない学校生活だと、私自身も思っている。
「なんで毎日学校行ってるのかな、私」
桜の花が宙に舞い、春らしい、新しいスタートを切る人々の背中を押すような、優しく、前向きな風景だというのに、私は何を考えているのだろう。
小さくため息をついて、引き続き学校を目指し歩いていく。
一人で登校しているとよくありがちなことなんだけど、周囲の様子がやたらと気になるときがある。私は今、猛烈にその衝動に襲われている。
すると、目の前に飛び込んできたのはひらりひらりと舞う桜の花びらだった。それの軌道を逆に辿っていく。どこから降ってきたのだろうと。そうして何気なく、私は空を見上げた。
「……ん?」
その時、空に一瞬、黒い影が見えたような気がした。直後、猛烈な突風が吹き、地面に落ちた桜の花びらが再び舞い上がった。私は顔を腕で覆い、風から身を守る。
「びっくりしたぁ……」
急な突風は、春という季節においてよくあることだ。そう、気にせずに私は学校へと向かい、再び足を動かした。
学校に着くと、クラス発表の掲示板の前に人だかりが出来ていた。私も当然、自分が何組なのかは知らないといけないし、そこへと向かう。けれど、私は人だかりが苦手だ。後ろの方のベンチに腰かけて、しばらく人がいなくなるのを待っていた。
(家に帰ったら、何見ようかな……)
私は帰宅後に見る魔法少女アニメの事を考えながら、人だかりがなくなるのを待つ。
今のところ有力なのは、シリーズ第7作目だ。あれはファンの間だけでなく、一般的なアニメファンの間でも良作と呼ばれているもので、私が一番好きな作品なのだ。
「あ、そろそろいけそう」
一瞬、掲示板の方に目をやると、人がかなり減っていた。私は立ち上がり、掲示板が見える位置まで移動した。
「今年は4組かぁ……。担任は、眞壁先生だ」
自分のクラスと担任だけ確認し、私は教室へと向かう。普通の人ならここで同じクラスに友達がいないか探すのだと思う。でも、私にはその必要はない。
教室の戸を開けると、既に多くの生徒が楽しげに話していた。それは去年と同じクラスだった友達なのかもしれないし、同じ部活の仲間なのかもしれない。それは私にはわからないけど。
ホワイトボードに貼ってある座席表を確認すると、私は窓側から二番目の前から二列目だった。そこへまっすぐ向かい腰を下ろす。
そのすぐ後、前の扉から担任の眞壁先生が入ってきた。
「はーい、席ついてー」
眞壁先生は去年も私の担任だった。この少しだるそうな口調の声は聞きなれている。眞壁先生は全員が席に着いたのを確認すると、出席を取り、始業式の説明を始めた。
「――それじゃあ、そういう感じでよろしく。廊下に出席番号順に並んでー」
眞壁先生は説明を終えると出席簿を持って廊下へと出た。その瞬間、クラスの中は一気に騒がしくなる。私は少し眉をひそめた。そして足早に廊下へと出る。騒がしいところも苦手。
始業式は講堂で行われる。私たち一列に並んで、講堂へと移動する。その道中、天窓がついている渡廊下があるのだけれど、私はここを通る時、いつも天窓から空を見る。当然、今日もそうした。
空は青く、ところどころに雲が浮かんでいる。幼い頃からよく知っている青空だ。でも今日、私はその平凡な空に、見たことのないものが浮かんでいるのを見てしまった。
「UFO……?」
明らかに雲ではない、不規則な動きで空を移動する見たこともない謎の物体が浮遊していた。それは数秒私の目に映った後、雲の裏へと隠れてしまった。
私は何だか見てはいけなものを見てしまったような気がして、少しの間、あっけにとられていた。始業式の間も、そのことがずっと頭の中の深いところに居座ってしまっていて、いつもは長く感じる始業式が、気づいたら終わっていた。
♢ ♢ ♢
帰り道。私はまだ、さっき見た空に浮かんでいるものについて考えていた。謎の背徳感と、高揚感が私の心を埋め尽くし、感覚的に言うとすごくフワフワしている。
「気になるなあ。……でも、そういうタイプじゃないからな、私」
この類の話は、私たちの年代の子どもはすごく興味のある話だと思う。でも、全員がそれを表に出して探求心に従うかといわれたら、そうではないと思う。なぜなら私がそうではないからだ。
別に気にならないという訳ではない。ただ、探求心を表に出すのが恥ずかしい。私がもし自分を表に出せる人間であれば、今だって一人で帰宅せずに友だちと話しながら帰れていたはずだ。
「とにかく急いで帰って、アニメでも見——」
その時、眩い光が大きな音を伴い、私の目の前に降ってきた。眩しさに目がやられ、轟音に耳がやられ、衝撃で足腰がやられた。私は後ろに5m程吹き飛び、尻もちをついてしまう。
「いったい!!」
体を地面に打って、強烈な痛みを感じた。何が起きたのかさっぱりわからない。急いで体を起こし、何かが落ちてきたところに目を向ける。
そこにいたのは、神様だった——
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