第9話 思えば願われ
いつの間にか腰にあった短剣──この短剣については何が何だか本当にわからない。
そもそも自分が一人になる時間がとても少ない以上、検証も何も出来やしないというのも少なからずある。今も見張られている可能性は十二分にあるのだから、無闇に動いて怪しまれるのだけは避けたいと思うが、この短剣について調べたいと思う気持ちもある。安全優先だが。
──コンコン
一先ずこれを投げてみて、様子を見よう──とした最中、この部屋の木造の扉を叩く音がした。
一体誰だ? まだ石黒達との集まりはないはずだが……まさか騎士か? もうバレたとか? それともいらぬ心配をした高嶺達か? どちらにしろ面倒なのに変わりないな。
俺は意味のない警戒をしながら扉を開ける。
しかし俺の予想は呆気なく、良い意味でも悪い意味でも裏切られた。
「……暁か」
俺を訪ねて来たのは小柄な少女。暁紫音だった。
だが何故、暁が俺の部屋を訪ねる?
「何か用か?」
「ああ」
即答に思わず驚く。
……いやまさか、コイツもか? 面倒事は俺に投げる風習でもあるのかよクラス。
そんな一つの懸念が脳裏をよぎる。
それはあり得る話ではある。もしもそうなら……ただただ面倒なだけだな。石黒と園浜だけでも面倒だというのに暁も……神はそこまで俺を過労死させたいのか? それともストレスで胃潰瘍にでもさせたいのだろうか?
そもそも神なんぞへの信仰心は一切ないが。
「話は長くなる。入ってもいいか?」
俺は頷く。
暁は警戒もせずに部屋に入ってきた。
……まあ、それだけ信用されていると思えばいいか。
俺は扉を閉め暁の後を追う。
「そこらに座ってくれ」
「……結構狭いのだな」
悪かったな。
それに他の奴と部屋の広さは変わらないと思うが……そういえば、石黒の部屋はもっと広かったか? そこまで覚えてないが。
「……それで、お前の用件ってのはなんだ」
「随分と気が立っているようではないか」
誰のせいだ誰の。
そもそもこんな時間に訪ねる奴が悪いだろ。
「……用件は」
「そんな睨まなくてもいいではないか」
誰のせいだ誰の。
というか、だ。俺はもう少し一人の時間が欲しいのだが? 暁からしてみれば理不尽ではあるが、これくらいの憤りの一つくらいは許せ。
こちらとら異世界に無理矢理召喚されて困惑してる上に色々あるんだ。ストレスで色々死ぬ前に一旦落ち着かせろっての。
「……本題に入ろうか。信楽仁」
途端、暁の纏う雰囲気が変わった。
先ほどよりも真面目な雰囲気と言えばいいだろうか……とにかく、茶々を入れていいような雰囲気ではなくなった。
「……どうしてこうも面倒事はやってくるのかね」
最近本気で神がいるなら殺したいと思い始めている。
いや、面倒事を持ってくる奴を殺せば……さらに面倒事が増えるだけか……。
「知らん。それよりだ、信楽は石黒と仲が良かったな」
「……お前、石黒のこと好きなの? あ、そんじゃあ明日にでも言っとくわ」
「違う!」
強い拒絶。石黒がいたら傷ついてたんじゃねえの? しかしここ、壁薄いからお隣……あー、いないんだったよ。
俺の部屋は屋敷の隅であり、俺自身が嫌われ者だから俺の隣を使いたがる奴がいないんだよなぁ。
「……すまない」
「いや、どうせ隣人いないし」
「本当にすまない」
俺の一言で全てを察した様子の暁。
おい謝るな。そう同情するような目で見んな。変に重苦しい雰囲気が更に悪くなるじゃねえか。自分で言ってて自覚は多少あったけど、改めてなんか悲しくなるだろ。
「別にいい。それより何だ? 狙いは園浜だったか?」
「そういう話ではない! というかからかうな!」
いやつい。反応がいいもんで……。
しかし口に出したらまツッコミが飛んでくるので、少し自重させてもらう。
「んで? 何で来たんだ? 恋バナは専門外だぞ」
「……早く早くと言いながら話を脱線させたのは信楽のほうではないか?」
怨念こもった目で俺を睨む暁。
これを言うとよく驚かれるのだが、俺はその時その時をそこそこ楽しんで生きるタイプだ。
まあ今は楽しむより生き抜くことが最優先であるが。基本的にはそんな感じ、と言えばいいだろうか。
「んで? 何で来たんだ?」
「……頼み事だ」
頼み事? やはり園浜や石黒……ああ、そっちか。
「いや、俺は高嶺も白崎も紹介できないぞ?」
「そう言う事ではない!」
え? 違うのか? 俺の存在意義……というか俺と関わる理由なんてそれくらいしかないだろう。
それに最初の石黒と信楽って仲良いよね発言とか……あれ言われちゃそう思うのも仕方ないことだろう。
「──信楽、私はお前に剣を教わりたいと思い、ここに来たのだ」
おい、最初の質問の意味は何だったんだ?
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