第8話 鬼門とそれに伴う疑問

「はああぁぁぁぁぁ!」


 野太い声と共に金属と金属がぶつかり合う甲高い音が響き渡る。場所は第三闘技場。余談だが第一から第五まであるらしい。

 ちなみに今日も高嶺白崎ペア──長いからこれからは高白ペア呼びで──には会わなかったが、このまま会わなかったら後が面倒である為、というか主に園浜から折檻を受けそうなので、早めに接触しておいて後の全てはアイツらに任せてしまおうと思ってる。

 ちなみにそんな園浜の相方である石黒は今、目の前で暁と模擬対戦を行っている。俺は観戦中。

 暁は『短剣』への適性が高くかつ身体能力も高い。今も石黒を圧倒しているのがそれを裏付ける証拠となるだろう。

 正直に言えば……体格差を補う戦闘法はとても勉強になる。模擬戦と実戦とではまた違うのかもしれないが、それでも実戦に近い形式を体験でき、観戦できる今の状況はとても貴重なのだろう。まあ、ほぼ強制的なのだが。

 戦況は暁が有利。このまま石黒が押し負けるか、それとも切り札であるスキルを使うのか。

 だが石黒の職業は『密偵』。隠密と記憶が得意な職業で、そして連絡も得意にしている。敵にはしたくない職業だと心の底から思っているが、そういう意味では『暗殺者』も同様だ。なのだが対人戦。しかも正面からの戦いで使えるようなスキルを、石黒が所持しているのか……。


「そこまで!」


 結局、勝者は暁になった。

 次は休憩を挟んで俺と暁で、か。

 先ほどの戦いを思い出す。暁紫音は小柄なその体型を生かした戦闘スタイルだ。一回懐に入られたら回避を余儀なくされる。しなければ御陀仏とか慈悲はないのだろうか。

 冗談はさておき、どう攻めるかね……。


 思案に耽っていると、石黒がこちらに歩いてきた。


「お疲れ様」

「おうよ……っと」


 石黒は俺の隣に座る。

 運動後すぐに座るのはどうかと思うが……まあいい。


「信楽は暁……あいつ、どう思う?」

「小柄」


 どうにでも解釈できる石黒の言葉に、俺は暁という少女の第一印象を答える。

 まあ本人はコンプレックスに思っているようだが。先ほども『小柄』という言葉に過剰に反応して、こちらを睨み付けているくらいだ。


「そういうのじゃなくてさ。暁の戦闘法」

「……小柄な体格を活かした戦い方」

「俺もそう思った」


 暁に睨まれつつも、あれには勝てねぇわー、と笑いながら言う石黒。確かにあれには勝てないと思った。だが、暁にあのスタイルは似合わない。

 暁の職業は『暗殺者』だ。暗殺者とは死角から敵を一撃で葬るものだが……やはりあれは漫画の世界でしか言えないことか。まあ暗殺者の中には演技で騙して殺す者もいるらしいし、スタイルはそれぞれ……か? とりあえず正々堂々は本来の戦い方とはかけ離れているだろう。


「信楽は勝てそうか?」

「無理に決まってるだろ……」


 一応、先ほどの戦闘で隙はあったが……そこにしか勝機はない。

 本当、これが訓練でよかったと思う。


「次! シガラキジン! アカツキシオン! 準備を!」


 騎士の声が響く。

 俺は模擬剣を持ち立ち上がる。

 一応素振りはしてみるが……少し軽いな。


「両者白線まで下がれ……始め!」


 合図と共に、暁が俺に突進してくる。

 そして俺も暁に向かって突進していく……が、接触寸前で横に回避する。


「なっ!」


 俺は隙だらけの背中に短剣で攻撃。

 しかし勢いそのままだった暁に回避される。

 結果、ただ位置が逆転しただけ。


「中々やるな。信楽」

「そちらこそ」


 再び暁が突進してくる。

 今度は短剣を構えずに。意図が読めないので、俺は回避の準備を行う。

 今更なことではあるが、異世界に来てから俺の動体視力は大幅に上がっている。

 小さな予備動作でも読み取れる位の事なら難なくできる。

 暁の突きの動作を知覚した俺は、右斜め後ろに跳ぶ。

 案の定、暁は俺の回避した方に短剣を振るうが、俺は射程外にいる。

 暁の表情が驚愕に染まる。


──今がチャンスだ。


 俺は一歩踏み込む。

 そして暁の首に短剣を軽く当てようとしたが、それを寸でのところで回避され、逆に首に短剣を突きつけられた。


「そこまで! 勝者! アカツキシオン!」


 俺は短剣を納める。

 ……それにしても、だ。

 腰に手を当てる。

 そこには俺が準備席に置いてきた、俺の本来の獲物があった。

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