第7話 幾度も思考して試行する

 石黒と園浜と会話をした翌日の朝、枕元に置いていた腕時計は五時前を、太陽はまだ四分の一程度しか出ていない時間帯に、俺は一つ伸びをしてベッドをから抜け出す。

 寝間着から着替え、朝食を食べるために食堂に向かった。


 兵士の為と思われる食堂は朝早くから開いている。しかし早朝の食堂には早起きな人が暇潰しに来ている程度。暇潰しの為であるが故、まだ食べていない奴もいるのかもしれないが、もう朝食は出来ているのだから、俺はサラダだけを取ってさっさと食べきる。

 俺は高嶺と白崎に会う気はない。今日は食堂ここでも会わないだろう。

 昨日より二十分以上早いから、な。

 朝食を食べ終え、食器を片付けた俺は部屋に籠る。時間は有限だ。今とて考えることが沢山あるからこそ、部屋に戻った俺は早速『機械鏡マキナ・スペキュラ』の検証を行う。

 今の俺には魔力の使い方のわからない。

 わからないなら聞けばいい。

 しかし、聞ける相手がいない場合は?

 いない場合……それは先人もしてきたことだ。自分で模索すればいい。

 ただそれだけ。偶々『機械鏡マキナ・スペキュラ』を起動させた時のように、今の俺は『魔法』の使い方もわからないのだから、考えるのだ。

 よくある『詠唱』とやらがあるのだろうか? それとも別の何かが、魔法を使うためのギミックでもあるのだろうか?

 そう考えながら、俺は寝返りを打つだけでギシギシと音をたてるベッドを見る。


「……『錬成』」


 俺の記憶違いでなければ『錬金』とは広義では『万象に錬成を試みる』ことであり、『錬成』は『鍛え強靭にすること』だったはずだ。

 なら、このベッドに使われている木材を『錬成』することも可能だろうと考えたのだ。

 ……まあ鍛え磨くことだ。この中には修復も含まれる、と言えばわかりやすいか。

 実際に万象を鍛えるなら、木材も行える──きっと『錬成』可能なはず。それもまた『錬金術』なのだから。

 しかし何時になっても変化はない。寝返りを打てばギシギシ煩い。

 ……失敗だな。

 何がいけなかったのだろうか。

 何をしなければいけないのか。

 疑問は尽きないのに答えは見えない。そんな中で時間だけは過ぎていく。


「……わからん」


 次は……木材の露呈している部分に触れてみるか。

 そして「『錬成』」。

 しかし何も起きない。

 違ったか? わからんものだ。

 まだまだ調べたいことがあるが──俺の耳に朝八時を告げる鐘の音が聞こえてきた。

 億劫であると思う気持ちを吐き出すようにため息を一つ吐き、俺は闘技場へと向かった。


■■■■


 今日は今までの訓練と一味違った。

 武器を扱う訓練を始めたのだ。

 意図はわからない。だが未だに『魔法』に関しては情報がないし、俺達の行動は結構監視されている。そう考えるのが普通だし、妥当である。故に行動を起こすのは得策ではない。まあ今日の俺の行動はどうなんだと言われたらあれなのだが。

 今日の訓練は日課となっている体力作りをいつもの半分ほど行い、後の半分が武器に関しての訓練、武器への理解を深める為の座学に割かれた。

 さすがは異世界と言うべきか、トントン拍子で座学を終わらせ、今回の訓練から武器種ごと別々に行うことになった。

 まあ刃は潰れていて、殺傷力はないような武器での模擬戦だし、俺のメインウエポンであるナイフ──短剣も無事見つかったのは僥倖であった。

 これから俺は『短剣』を使う為の訓練を受けることになる。同じ訓練を受けるのは職業『暗殺者』のあかつき紫音しおんと石黒の二名の三名。

 ちなみに暁は異世界召喚に疑問を抱いていた同志だが、それを石黒が気づいているかもわからないし、彼女自身が本当に疑っていたかもわからない。

 石黒の『要注意人物』の中には名前がなかったが、何かを勘づいていたのは事実だろう。暁がどういう奴かは知らんが、成績がいいのは知っているから、最低でも違和感は覚えているとは思う。まあそれとこれとでは話は違うが……たぶん暁は疑い深い人間なのだろう。まあ今は、関わる必要がないだろう。そもそも嫌われ者と関わりたがる奴なんぞ限られているが。

 今回の訓練では『短剣』についての基礎知識を叩き込まれた。実践と共に、見て体験しての形式で。

 俺は運動するより勉強するほうが好きだから、見ている分には苦にならなかったが、実践な些か嫌ではあった。クラスメイトの中には文句を言っている者もいた。

 ……さて、明日からが面倒だな。

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