第6話 憶測で語る者と推測を語る者と
俺と白崎、高嶺が仲良いらしい。
確かに、何も知らない者から見ればそうだろう。地球にいた頃から、高嶺とは挨拶もしていたし、たまに話し掛けられたりもした。
他にも色々とあった為、そのような噂がされているのは前々から知っていた。が、それを直接指摘されるのは今回が初めてだ。
「……悪いが園浜。俺はそこまであいつらと仲が良い訳じゃない」
「仲が悪いとでも言うのか?」
「仲が悪い訳ではないが、良い訳でもない。高嶺とはただの知り合いだ」
本音を言うと、俺は白崎や高嶺と仲が良いのかわかってない。最初に『らしい』と着けたのは、そこの定義が曖昧だからに他ならない。
そもそもなんで高嶺が俺に関わるのかもわからない。
俺はクラスには溶け込めていないことを自負している。もともとクラスメイト達には受け入れられていないが、拒絶されてもいなかったのだ。
それにクラスに溶け込めていない奴は俺の他にも少なからずいるというのに何故か俺のみと関わっているのが問題なのだ。
関わられた張本人である俺が、何度も新手のいじめかと疑ったくらいには問題なのだ。
「『ただの知り合い』ねぇ……でも、喋っているんだから関わりがあるのは確かだろう? だったら、信楽が誘うのが手っ取り早いと俺は思うぜ」
「……話す機会があったら言おう」
まず、俺は面倒事が大嫌いだ。
面倒事自体も嫌いだが、面倒事を持ち込んで来る奴はもっと。何十倍も嫌いだ。
高嶺と白崎はその筆頭。光峰と共に災いを運んでくる害悪だ。確かにあの二人はこの世界に転移した後も冷静であった者だとは知っている。
ただ、そんな上っ面だけの情報で人を信用できるほど、俺は人間が出来ていない。
ずっと誰かの影に隠れ、見たくない物にはただただ見ないフリをして生きてきた臆病者。それが俺だ。
そんな俺に、こっちに来て関わってくる頻度が上がってきたのだ。警戒しない訳がない。
そもそも石黒が見せたあの紙とて偽物かも知れない。クラスメイトで、今は協力することこそ重要な時であるため、その可能性を『無い』と断じ、和を壊すことも出来ないが、俺は石黒を信じることもできない。
人間不信とはまた違う。考えすぎなのだとは自分でもわかってる。故に他人を易々と信じられないのだということも。
それが、滑稽であることも。
「ああ、よろしく頼んだ」
俺の言葉を勝手に『肯定』と、誤って受け取った園浜は、そのまま石黒の部屋に入っていった。
その背中を見送り、俺も部屋に戻る。
これからの生活習慣を見直しながら。
■■■■
「……やっぱ一番怪しいのは信楽か?」
「ああ、帰りも警戒するような感じだったからな……」
信楽が帰った石黒の部屋の中、石黒と園浜は会話を続ける。
実はこの二人、小中高と同じ学校で、同じクラスの腐れ縁であり、家も近い幼馴染みなのだ。
そんな二人であるが故に、無条件で信頼しあえる仲でもある。
「それに腰に短剣を提げていた」
「それはただの護身用なんじゃないのか?」
「そうだな……」
園浜の沈黙共に、石黒は思考の海に耽る。
一見すると園浜はクールな青年に見られるのだが、少し親しくなるとその印象は砕け散る。
感情的で正義感が人一倍強い。しかし思い込みは激しくないし、だからと言ってそこまで楽観的な思考をしているわけでもない。
欠点は勉強嫌いで行動力があるところか。
石黒とは真逆の人間だ。
暗い印象があるが中身は普通であり、正義感も人並みにある。
自分自身を客観的に見て、自身のどこがおかしいのか、悪いのかを理解できる者であり現実主義者でもある。
故に、石黒は素直に信楽を疑えない。
それは自分達の行動が異常だと、警戒するに値すると理解しているが故に。
ただ一つ、石黒の思考に読み違いがあるとすれば、それは信楽仁は彼が考えている以上にネガティブな思考をしているというところだろうか。
「まあ答えの出ないことは、答えが出るまで待とう」
「そうだな。それで陸也、あれはいつ見つけたんだよ」
「昨日」
二人の誰も知らない会議は誰にも知られずに幕を閉じた。
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