第4話 表裏二体

「一度見た武具なら何でも複製可能。大きさも自由に、かつ使用者に適したサイズに変えられる──って、すごいモノを手に入れたな」


 扱きと表現するべき地獄──基礎体力訓練とやらを受けたその日の夜。左手首につけている腕時計の短針が10を指す少し前の頃、俺は自分に宛がわれた寝室で、先ほど入手した『機械鏡マキナ・スペキュラ』という鏡のような武器? 情報を整理していた。まあその情報量が膨大すぎて、かつ曖昧であるため、そして全部を理解するのには知識が追い付いていないため時間が必要なのだが。

 とりあえず現時点でわかるのは、この武器の異常さ程度だろう。


「この鏡に写した武具を何でも模倣できる錬金術師の武器……か」


 一応、錬金術に関する知識はある。紀元前よりある化学の土台。狭義の意味は卑金属から貴金属を作ることを目的とする試み。広義の意味では金属に限らず様々な物質や、人の肉体や魂も対象にしてそれらを錬成することを指す言葉で、錬金術師は狭義の意味……で使われる場合が多い。

 それを踏まえて推測するなら、『錬金術』とは金属を鍛えることが得意であることに違いはないだろう。どう鍛えるのか、金属だけなのかまではわからないが……これは今後の紐解いていけばいい課題だな。

 もう一つの武器も全然理解力が追い付かないが……これはそもそも何の情報もないから、それは仕方ないことだろう。それにこの鏡には少し気になることもある。俺は理解出来ている範囲でこの機械鏡マキナ・スペキュラを使用してみることにした。


「『模倣』」


 俺の言葉で、俺の魔法で、右手で持っている機械鏡マキナ・スペキュラは形を変えていく。

 そして数秒後、機械鏡マキナ・スペキュラはもう一つの拝借した武器──ナイフと同じ形になった。

 奇っ怪な装飾まで、無駄に綺麗に複製がされている。


「まあ、鏡像なんだけどな」


 俺は鞘に入った短剣を抜き放つ。

 右手にはオリジナルの短剣。

 左手には模倣した右手に持つ短剣。

 異なるのは、模様のみ。鏡像であることを示すように、左手にもつ偽物──贋作の短剣は本物と模様が真反対になっていた。

 二つの両刃の短剣は、部屋の光を反射して輝く。

 切れ味を試せるもの……いや、これは明日に回そう。

 こんな物騒なものが鞘から出ていると落ち着かないから……な。

 俺は短剣を鞘にしまい、機械鏡マキナ・スペキュラを手鏡の状態に戻し、今度は『ステータスブック』を取り出してみる。

 これもまた出し入れが難しく、コツが必要なのだがなんとか覚えることはできた。

 少し『ステータスブック』を閲覧してから、ベッドに入る。正直、自分についての情報も少ないし、訳のわからないことしか書いていないから暇潰しにもならない『ステータスブック』だが、その少ない情報でも覚えておかねばならない。取り出すのが面倒だから。

 今日あったことを振り返りながら、瞳を閉じ、俺はそのまま夢の世界へと旅立っていった。


■■■■


「──私が判断した中で、危険だと思ったのは以下の数名です」


 王宮、とある書斎にて。

 古めかしい蝋燭の灯りに照されて二つの影が話している。話しているのはこの国の持つ最高戦力を率いる騎士の補佐官。そして話を聞いているのは──


「そうか……だがまあいい。勇者にさえ干渉されなければ、我々の願いは成就するのだからな……その者達と『勇者』との動向はしっかりと確認しておけ。よいな?」

「分かりました。


 ──この国の最高権力者である国王である。この場所は国王その人の密会の場であり、書斎は彼の書斎に他ならない。

 そして実は、この部屋にはもう一人の人間がいたのだが、その存在を彼らが知るよしもなかった。


「……龍太に信楽、それに白崎に高嶺そして俺か……やっぱり追って正解だったな」


 その影はそう言い残し、闇夜に紛れ消えていった。

 王とその騎士に、その気配を勘づかせることもせずに。

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