『劣等勇者』と呼ばれるまで

第2話 崩れ去る平穏と事変の始まり

──この世界は地球よりも『死』に近い境遇にある。


 俺がこの思考に至ったのには理由がある。

 まずあの『国王』の言った言葉である『『魔王』を倒せば』または『『魔王』を討伐すれば』だったか。この際どように喋ったかはどうでもいい。とりあえず「魔王を討伐しろ」と言われたことが分かれば、実際に何と言っていたかはそこまで重要ではないからだ。ここから俺達を召喚? とやらをした人間達と魔王とやらは争いをしていることが、人間と魔王が『戦争』していると、連想ゲームのようにわかればいいのだ。『戦争』なんて物騒な言葉が脳裏に浮かんだ人間は、ヤンキーでもなければ、簡単に決断は出来ないのが常だろう。


 


 今回は普通じゃない奴──というより過激派思想な光峰聖という青年が『戦争に参加する』と表明したお陰で、俺達までとばっちりを受けることになってしまった。

 ちなみに俺は中村先生の意見に賛成だ。

 地球の歴史から見ても、戦争は合理的とは言えない。ただ禍根と次の戦火の火種を残すだけ。無意味と一言で表すのには些か抵抗がある故に、こうして脳裏、自分だけの世界でいつまでも言葉を並べる。こうして思考していて気づいたが……今回は相手が悪すぎたように思う。さすがに猪突猛進を体現する男と本物の『王様』の意見には、教師も逆らえない。

 本当に、最悪だ。


■■■■


「勇者様方にはこれから『ステータス』を見てもらいます」


 あったのかよ……。

 地球から異世界に召喚された翌日。朝食を食べてこの世界の服装に身を包んだ俺達は、訓練場みたいな場所に連れ出され、王様から話を聞いていた。

 少し周りを見てみると、少し楽しそうにしている奴もいる。

 俺か……どうだろう。借りたラノベで見かけた『ハズレスキル』みたいなヤツでなければ正直なんでもいいのだが。てか実際、そういうのあるのか?


「一列に並んでくだされ、今からステータスを見ていきます」


 そう言って、水晶体の前にどんどん並ばされていく。俺は最後の方に並んだ。

 まずは根っからの主人公体質こと光峰聖。

 光峰が水晶体に触れると、不思議なことに水晶が金色に輝き出す。


「おお! 職業『勇者』! 我々の救いの者は貴方か!」


 そこからは特に興味も示さなくなり、十人ほど見たところで王様は聖を連れてどこかに行った。

 まあ、あの王様は『勇者』にしか興味がなかったのだろう。

 さてさて、俺のステータスは……。


─────

信楽しがらきじん

錬金術師

武器適性

剣:C

 長剣:D

 短剣:A

 大剣:E 

槍:D

 長槍:E

 短槍:B

 投槍:D

鎌:E

 大鎌:E

 鎌:E

鎚:D

 戦鎚:E

 金鎚:C

特殊

 模造武器:SSS

魔法適性

火:C

水:C

風:D

土:B

雷:D

光:D

闇:E

適性魔法

『錬魔法』:SSS

スキル

《短剣術》《錬金術》

─────


 ……なんだこりゃ? けど、これがステータスとやらなのかね?

 後で聞いた話だが、城下町にある『冒険者ギルド』とやらに行けば体力や魔力、筋力といったステータスをみる装置があるのだとか。今回は適性を調べる為の簡易検査、とも。

 周囲では自分の職業が何だったかを和気藹々と話し合っており、その周りでは騎士がそれを盗み聞きしているのが見て取れた。

 俺もこっそりと聞いているが、中には『賢者』や『魔法騎士』、『拳闘士』や『聖女』『回復術師』等といったゲームの定番職業から『森の歌い手』『神官』『炎術士』『ニート』といった意外……というか少し面白そうな職業まである。

 ニートは例外だが。

 というかなんだ『ニート』って。職業じゃねぇよあれは。無職だ無職。

 それ言ったら『賢者』や『勇者』も職業ではないが……言ったらキリないな。


 それにしても『錬金術師』か。

 よく創作物で聞く名称だが……とりあえず『錬成』に向いている職業なのだろうか? 思い浮かぶのは錬金術師の兄弟の話だが……まあ直接の戦闘は俺には無理そうだし、後方支援系の職業だと良いが。


「全員。終わりましたね。

 ではこちらをお配りいたします。行き届いたら説明しますね」


 そう言うと、怪しい本が配られていく。

 全員に行き届き、王様に変わり性格の悪そうな黒フードが説明を始める。


「それは『ステータスブック』と言い、血を一滴垂らすとあなた方のステータスを常時見ることができるようになります。そして──」


 黒フードは虚空から一冊の紫色の本が現れ、彼の手に収まる。

 そしてフッと胸元に入っていくように消えてしまった。


「──このように。好きな時に出し入れすることもできます」


 なるほどな。俺は本と共に配られた針で指先を刺す。

 出てきた血を塗ると色が変わった。

 ……緑というより、翡翠に近い色だろうか。綺麗ではあるが、色についてそこまでの知識がないため、何とも言えない。それがどう綺麗なのか説明できないのは、少しもどかしい。


「次は座学──と、言いたいところですが、言語や文字は同じです。

 ですので戦闘訓練を行います。まず初めは基礎体力をつける為に、闘技場を十周します」


 黒フードに変わり、無表情な騎士が「ついてきてください」と言って走りだす。

 全員……とまではいかないが、異世界に心を奪われている者達はどこか楽しそうだ。

 俺は流されるように皆についていく。

 騎士は足が速く、一周目は皆ついて行けなかったが、二週目からは騎士が皆に合わせ走るようになった。

 俺もそこまで運動してなかったから二、三周でくたばると思ってたが、案外走れた。

 まあ皆に合わせて十周は出来なかったが。

 俺達全員が走り終わると、騎士さんが言う。


「これから十分間の休憩です」


 この台詞は、俺達をさらなる地獄へと誘う言葉だった。

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