第60話 閑話 タマモ

「魔力を探りながら放浪していたら、変なところに着いたわねぇ」


私は、暗雲が立ち込める立派なお城に目をやる。門番は居ないようだが、門の前に着地すると誰かが出てくるのが見えた。


「誰だお前!」


勝気そうな女性が怒りながら出てきた。いきなり攻撃はしてこないようだから、とりあえず会話をしようと思う。


「私はタマモって言うのよ。あなたは?」


「あたいか? あたいはエンカだ」


普通に会話したことで毒気が抜けたのか、エンカは怒り顔から普通の顔になった。


「ここはどこかしら?」


「知らないできたのか? ここは魔王城だ」


魔王城……話には聞いていたけど、こんな所にあったとは。私は力を封印されていてクラマの城から出られなかったし。魔王なら私の暇つぶしくらいにはなるかしら?


「魔王は居るのかしら?」


「……何の用だ?」


エンカはけげんな顔をする。悪いけど、軽く戦いたい気分なのよね。


「やることは一つ。倒すのよ」


私は挑発するようにエンカを見た。最初の怒り顔に戻ると共に殺気を放ってきた。私をビビらせるには全然足りないけど。


「なんだと! 侵入者か! フレイム・ランス!」


エンカの右手から炎の槍が飛んでくるけど、弱弱しい炎ね。私が尻尾を振ると、風圧だけでかき消える。


「お前……」


「アイス・サークル」


エンカが口を開いたところで、私の周りの空気が急激に冷やされ、足元が凍り付く。


「セッカ?」


「嫌な魔力を感じて着てみれば・・。これはどういう状況かしら?」


「さあな、この女が急に魔王を倒すとか言い出しやがったんだ!」


「敵という事が分かればいいわ。さあ、やっておしまい!」


セッカが声をかけると、やっと現れた護衛の兵士たちが、各々得意な魔法を唱えてくる。


「フレイム・ランス!」「ストーン・ランス!」「アクア・ジャベリン!」「アイス・ジャベリン!」


十数本の魔法の槍が飛んできた。どれも、エンカよりもなお弱い魔法ね。


「ウィンド・シールド」


私は自分の前に風の盾を発生させ、いくつかの魔法を跳ね返す。一人の兵士がそれだけで倒れた。護衛でこの程度なの?


「俺の出番だな! 俺の名前は巌(いわお)だ! 侵入者よ、覚悟しろ!」


大声のした方を見ると、2mくらいの大男が上半身裸で近づいてくる。私は尻尾で地面を一叩きすると、アイス・サークルで凍らされた足元の氷を破壊する。


「私の魔法が!」


セッカは驚いたような顔をするが、この程度の魔法で本当に私を足止めするつもりだったのかしら?


「うおおぉ! ストーン・アーマー! ストーン・ナックル! ストーン・アーム!」


巌は全身を岩で覆い、さらに手と腕が岩によって巨大化する。上半身だけが異様に巨大だ。


「やばい! 離れろ!」


エンカがそう言うと、周りの兵士たちは距離をとった。


「俺の渾身の一撃を食らえ! パワー・ボム!」


巌は両手を思い切り私に振り下ろしてきた。私はそれを右手で受け止める。しかし、意外と威力があったのか、私の足元の地面が割れてそのまま埋め込まれてしまった。


「やったか!」


エンカの声が聞こえた。私は尻尾で周りの地面を破壊して脱出する。ダメージは無いけど少し汚れてしまったわ。


「無傷だと!」


巌は驚愕に目を見開いたようだけど、まだ本気どころか1%も実力を出していないわ。


「この程度かしら?」


「アイス・バインド・トリプル!」


セッカは魔力を貯めていたのか、私が近づくと同時に魔法を唱えてきた。でも、この程度じゃ私の尻尾は拘束できないわね。尻尾を少し膨らませると、バキッとアイス・バインドは破壊した。


「なかなかやるようだな。四天王になるか?」


「オヤジ!」


今までの戦闘を見ていたのか、城の中からここに居る誰よりも魔力の高い男が出てくる。


「それは、どういう事かしら? オヤジさん?」


「魔王だ! エンカよ、オヤジと呼ぶな!」


「あなたが魔王なのね。四天王はどこにいるのかしら?」


見た感じ、ここには大した魔力が感じられないのだけど? 魔力を隠ぺいしているのかしら。


「ここの3名と、あとの1名はここにいない」


「そう……。興味が無くなったわ」


正直、私は失望した。この程度が四天王だったなんて。雑兵にしては少しやるなと思っていたのに。


「それでは、拒否ととらえて良いのかね?」


「そうね」


そう言うと、魔王はマントを脱ぎ捨てた。すると、魔王の魔力はさっきの10倍ほどに膨れ上がる。ここに居る数十人の兵士や四天王を合わせたより断然魔力量が多い。


「一撃で終わらせてくれる。 ダーク・メサイア!」


人型の黒い炎が、私に向かってくる。この炎は……少しやばいわね。私は尻尾に魔力を込め、自分を包み込むようにして防ぐ。


私の尻尾と、ダーク・メサイアの触れる部分は、拮抗しているように魔力が付近に飛び散る。


その余波を受けて、離れていたはずの周りの兵士たちが吹き飛ぶ。


そして、圧力が十分に高まったのか、ダーク・メサイアは爆発した。


「終わったか」


魔王はすべての魔力を使い切ったのか、がくりとひざをつく。


「オヤジ!」「魔王様!」


魔王の周りに四天王や兵士たちが駆けつける。


私は、まだくすぶっている黒い爆炎を尻尾を振って吹き払う。


「ばかな……生きているだと!」


私が無事なのを見て驚いているようだけど、私の尻尾の一つが焼けただれてしまった。その一本を自切すると、ミドル・ヒールで再生させた。


「私が傷を負ったのは久しぶりね。炎狐」


私は炎の狐を数体生み出すと、魔王を攻撃させる。


魔王をかばった兵士たちや、四天王は吹き飛ばされ、炎狐は魔王に群がり爆散する。


「ぐはっ・・」


魔王はグシャリと地面に倒れ伏す。


「これで、私が魔王かしら?」


死屍累々の戦場を見渡して、私は城の中へ向かった。

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