第54話 コカトリス

「思ったよりずいぶん早く終わったが……次に行くか?」


キールが確認してくるが、まだ時間は十分にあるだろう。ケルベロスに関しては特に質問してこないのだな。まあ、質問されてもどうせ信じてもらえないような答えしか返せないが。


「我は大丈夫だ」


「私も何もしてないからいいわよ」


特に反対意見も無かったため、我達は次の封印の地へ向かう。馬車の配置はここへ来た時と一緒だ。


「次はどんな魔物が封印されているのだ?」


「次は、コカトリスだ」


コカトリスは、目を合わせたものを石化する魔物だ。これもケルベロス同様に強敵である。


「それはどうやって封印したの?」


ライカが興味津々でキールに聞く。すると、キールは気まずそうに答えてくれる。


「確か、夜に罠にはめて封印したらしい」


「どういう事?」


「コカトリスは鳥目らしいんでな、夜は石化できないようだ」


目がよく見えてないコカトリスを、封印場所まで誘導しただけというのが真相で、戦ってないらしい。


正確には、最初は普通に昼間戦って、戦ったものは全員石化し、夜まで生きていた者たちが封印したみたいだな。胸を張って威張れはしないが、弱点を突くのも立派な作戦だと思うぞ。


「ほぉ、あれがそうか」


ぽつぽつと人型の石像が見える。見たところ、石自体が劣化してボロボロになってきているので、今石化を解いても死ぬだけだな。


「当時は石化を解除しなかったのか?」


「当時は知らないが……石化って解除できるのか?」


「どうやって戦うつもりだったのだ?」


「目を合わせずに後ろから斬りつければいいだろう?」


そういう問題ではないと思うが。ちなみに、石化と言うのは視線に魔力を乗せる魔法なので、眼鏡とかで視線を防いでも防げないはずだ。


「本来は、鏡などの完全に視線を反射できるものを使えばいいのだ」


「なるほど。マオは物知りだな?」


これ以上は余計な突っ込みを招きそうになりそうだから、黙る。うすうす気づかれていそうだが。


「着いたみたいね」


今度も祠があり、中にあるお札をキールがはがして封印が解かれた。


「コケーッ!」


赤い色の魔方陣から3mほどある鶏のような見た目のコカトリスが出てきた。さっそく、何の対策もしていないアクアが石化する。


後ろから斬りつければいいと言っていたキールは目をつぶっている。目をつぶっても石化するけどな。


他の者はこの戦闘に参加していないので離れている。馬を石化されても困るしな。


アクアの次に我に目を付けたのか、こちらを向いて近づいてくる。コカトリスを見たら石化するわけではなく、石化の視線を受けたら石化するので、コカトリスの魔力を感知すればいつ石化させてくるのか分かる。


「おっ、来るな。ミラー」


ミラージュの応用で、屈折率を上げてコカトリスの石化の視線を反射する。コカトリス自身は石化しないようだが自分の魔力を受けて混乱した。


「いまだ、キール!」


すると、キールは目を開いてコカトリスの首をはねた。コカトリスの首から血しぶきが上がり、首がドサリと落ちる。青いオーガの時と同様に、刀に魔力を溜めていたようだからな。


「終わったか」


キールは血を払い、刀を納刀する。


「まだだ!」


コカトリスは首を失っても胴体で突進してきた。さすがにケルベロス並みの強さとあってしぶといな。


「アース・ウォール」


おそらく気配を追ってきているだけなのだろう、コカトリスは簡単に障害物に衝突する。


「フレイム・スピア」


首の切断面から炎の槍を体内に押し込んだ。さすがのコカトリスも、それで動きを止めて死んだようで、ドサリと地面に倒れた。


「ふう、助かったぜ」


「もう、出てきてよいぞ」


ぞろぞろと馬車からノロイ達が下りてくる。


「こいつはどうするんだ?」


ノロイは、案の定石化したアクアを指さす。


「どうせ不死身だから、壊せばよかろう」


ピンと指先で押すと、地面に倒れてバラバラになる。


「ふむ。駄目みたいだな」


表面だけかと思ったら、体の中まで石化しているようだ。


「アンチ・ストーン」


我はアクアの石化を解く。みるみるバラバラの肉片が集まってアクアが復活した。


「最初から解石しなさいよ!」


グロを見せられたミレが文句を言ってくる。それを言うなら、最初からアクアを参戦させなければいいのに。絶対石化すると思っていたぞ。ああ、止めてもどうせいう事を聞かないか。


「……どうしてそんな魔法を知っている?」


「それは秘密だ!」


キールからの質問をノロイがインターセプトする。普通に魔界には石化を使ってくる魔物がわんさかいるので珍しいことでもないが、地上では珍しいみたいだな。


「とりあえず、こいつは討伐の証として持っていこう」


キールは馬車の後ろにコカトリスの首をくくりつけると、ひきずっていく。この魔物も頑丈なので、地面に引きずられた程度では傷つかない。


「ふわーあ、帰ったらもう寝るか」


まだ夕方にもなっていないが、コカトリスを見ていたら焼き鳥が食いたくなったので、帰るのには賛成だ。


「私、コカトリスと戦った記憶が無いわ!」


アクアの話は全員が無視した。

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