第53話 ケルベロス

「どこからも城から距離は変わらないんだが、まずは一番北から行こうと思う」


「そこには何が封印されている?」


「ケルベロスだ」


ふむ、懐かしいな。確か、昔は罪人が逃げないように牢屋番をさせられていたはずだ。首が3つあるからなかなかしぶとい魔物だったが、ここでは妖怪扱いか。


「なぜ封印されたのだ?」


「未熟な術者が、召喚に失敗した結果現れたらしい。当時の侍大将が、ケルベロスの3つの首の1つを落とし、弱ったところを封印したみたいだ」


「なんで封印なの? あと2つの首も落とせばよかったんじゃ?」


「たった一つの首を落とすだけで侍大将は大けがを負い、さらに味方の陣営も被害が大きかったらしく、ケルベロスが寝た所を狙って封印したらしい」


ケルベロスは首が3つの時は順番に寝るから、3つある時は寝ないからな。1つとはいえ首を落としていたのが幸運だったな。確かに、強さ的には青いオーガ並みだった気がする。


「我はどこからでも構わんぞ」


「それじゃあ、ケルベロス退治と行こうか」


行き先が決まったところで移動開始だ。我達は正式に招待されて着たわけではないので、帰りも隠し通路を通って城を出る。


「どのくらいの距離があるんだ?」


「およそ10キロくらいだな。すぐにつく」


「えーっ、そんなに歩くの? 10キロがどれくらいか知らないけどね!」


「知らないなら文句言わないでよ……。確かに10キロは遠いわね。乗り物とかないの?」


「そう言うと思って、馬車を用意してある」


さすがに、見た目が子供のライカに気を使って乗り物を用意したようだ。実際はタフネス・ヒールを使えないミレとアクアのどちらかが先に脱落するだろうが。


「馬だ! 初めて見た!」


アクアは、知識だけはあるのか、初めて見た馬を撫でている。馬の方は嫌そうだが、しつけられているのか噛みついたり蹴飛ばしたりする様子はない。まあ、アクアはどうせ死なないが。


「4人分しか席がないようだが? 乗れない者は歩きか?」


「心配するな、俺は馬の方に乗る」


そう言うと、さっさとキールは馬に乗る。我達はいそいそと馬車に乗った。ライカはミレの膝の上に乗ることになった。


「アクアを置いていけばよかったな」


「なんでよ! 私だって冒険したい!」


そうえいば、アクアの冒険者登録はしていないな。次の街に行く前には作ったほうが良いだろう。そして、30分ほどでケルベロスのいる場所に着いた。


「この祠か?」


「そうだ。中は異空間になっている」


キールが祠の扉を開けると、お札の貼ってある鏡があった


「準備はいいか?」


我達が頷くと、キールはお札をはがした。すると、鏡から光が出て、ケルベロスが飛び出してきた。封印されている間にでも首が再生したのか、3つ首に戻っている。ケルベロスは、我を見ると即座に飛びかかってきた。


「久しぶりだな? 我が分かるか?」


我はケルベロスに話しかけると、ケルベロスは魂の匂いを感じ取っているのか、頭を摺り寄せてくる。


「……どういうことだ?」


「マオは、犬に懐かれやすい体質だからな!」


ジロリと睨むキールに、ノロイは一生懸命誤魔化している。


「まあ、犬は強い者に従うって言うし?」


ミレも適当なことを言う。ちなみに、ケルベロスは犬ではなく魔物だぞ。


「よしよし! あいたっ!!」


アクアはケルベロスの頭を撫でようとして噛まれている。弱い者には従わないからな。そもそもアクアは会ったことすらない他人だろうし。


アクアはトライデントを取り出すと、ケルベロスに向ける。ケルベロスの方もグルルとうなっている。


「やめておけ、アクアじゃ勝てぬ。ケルベロスも大人しくしていろ」


我がそう言うと、ケルベロスは尻尾を垂らして大人しくなった。それから、我は送還の魔方陣を描きながら話をする。


「ケルベロスを召喚したものはもうおらぬのだろう? 契約者のいないハグレの魔物は魔界へ送還できる」


「そうなのか? 戦わなくていいならそれに越したことは無いが……」


キールは複雑な気分みたいだ。まあ、目的が妖怪を倒すことではないからこれでいいだろう。


「それでは、送還する。ケルベロス、魔方陣へ入れ」


ケルベロスは魔方陣の中心に行くと、座る。我は魔方陣を起動させる。魔力が通って魔方陣が輝く。


「送還!」


本来は、呪文なりを唱えて送還するのだが、我の実力なら詠唱を破棄しても大丈夫だ。魔方陣が青く光り、ケルベロスを包むとシュンと消えた。


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