第52話 封印されし妖怪

殿さまは皆を見回して、改めて話し出す。


「まずは、紹介をしよう。こやつはアヤメと言って隠密の頭だ」


そう紹介されてアヤメはぺこりと頭を下げる。


「どうみても子供にしか見えないが?」


「敷地内で全裸で倒れているところが発見されてな、意識を取り戻してからいろいろ尋ねた結果、記憶喪失であることが分かった。ただ、どういう生活をしていたのか、見た目の年の割に身体能力が高く、試しに御庭番と戦わせたら買ってしまうほどの才能だったのでな、名前を付けて隠密にすることにしたのだ。」


「そんな簡単に見ず知らずの人間を信用してもいいの?」


「はっはっは。言っただろう? この子が隠密の頭だと。御庭番の中で一番強いのがこの子だ。仮に他国の隠密であればとっくに命など取られておるよ。そして、そっちが知ってると思うがキールで、侍大将だ」


「おう、こう見えても偉いんだぞ」


強いのは分かるが、偉いのは分からないな。アヤメの魔力を探ってみるが、うまく探れないな。これも隠密とやらのスキルか?


「そして、私がクラマの城主で、アカツ・トキツナだ」


「長い名前だな」


覚えにくいが、まあ、呼ぶこともあるまい。殿様とだけ覚えておこう。


「それで、これからの話とは?」


「そう急かすな。今、食事を用意させよう」


殿様がそういうと、アヤメがサッと姿を消した。我にも追えないとはなかなかやるではないか。


そして、食事が運ばれてくるまでの間、キールが青いオーガの討伐状況の細かい話を殿様に報告していた。


それからしばらくして、食事が運ばれてくる。


「なんだ、この白い粒は?」


ノロイはお椀に入っている白い粒を指でつまむと、あっさり潰れた。麦にしては白いな?


「これは米というもので、我が街の特産物だ」


ミレも知っていたのか、うなづいている。


「じゃあ、この棒はなんだ?」


「それは箸と言って、こう使うんだ」


キールは実践して見せてくれる。器用に指の間に1本の棒を持ち、それに合う様にもう一本の棒を動かすのか。


「この変な臭いのする水は?」


「みそ汁と言って、みそで作られた飲み物だ」


「じゃあ、この開かれているのは?」


「それは魚だ。海で獲れたものを乾燥させて軽く焼いてある」


我もさっそく箸で食べようとするが、うまく動かせないな。


ノロイは器用なのか、すでに上手に使っている。ミレは使ったことがあるみたいで上手く食べている。


ライカは、諦めて手で食っている。アクアは犬みたいに顔を直接つけて食っているな……。


「次回からは箸以外も用意しよう。今は好きに食べるがよい。では、食事を続けながらで良いので話の続きといこうか」


話しの途中ではあったが、食事も終わったので片付け始めた。


「腕を見込んで、この地に封印されている複数の魔物を退治してもらいたい」


「続きは私が」


アヤメはそう言うと、この付近の地図を取り出す。地図には五方陣の様に点が打ってある。


「城を中心に、5カ所に魔物……妖怪と呼んでいますが、それらが封印されています。それらの魔力を使ってこの城を中心に結界が張られています。長年強固な結界が張られ続けた結果、結界内に瘴気がたまってきているため、一度封印を解いて瘴気を取り除く必要があります」


「その調査を俺がしていたんだ。封印自体を解除することは出来るが、何故結界が張ってあるのかはどうも調べることができなかった」


キールは、5カ所の封印を見て回っていたらしい。


「封印しなおすことはできるのか?」


「今ならわざわざ妖怪を使わなくても、魔石で代替できるらしい。ただ、今、封印されている妖怪はどれも青いオーガ並みか、それ以上の強さだと文献に書いてあった」


「そこで、青いオーガを討伐できたお主たちに、キールを手伝ってもらいたいのだ」


「俺達は、別に金にも困っていないから働かないぞ?」


ノロイは、やる気が無いところを見せる。


「用意できるものは何でも用意しよう」


世界征服を目的にしているノロイに殿様が何かを用意できるとは思えないが。


「いいだろう、受けてやる」


ノロイはニヤリとした。ミレはため息をついている。アクアは「面白そう!」と目をキラキラさせている


「それで、どこから行く?」


ノロイはキールを見た。

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