第55話 サラマンダー
移動時間も考えると、我達は一旦クラマ城まで戻ることにした。コカトリスを持って城へ入ることは物理的に出来ないため、キールは門番に言づけて先に入っていった。相変わらず不審な顔をされている。
キールは立場は侍大将だが、普段はめったに人前に出ないそうなので、門番にすら顔を覚えられていないようだ。
「一緒に来てもらえるか?」
「断る!」
キールには悪いが、我はどうしても焼き鳥を食いたい。適当な宿を取って食事をする事にした。食欲優先だ。
翌朝、キールがわざわざ宿まで来て報奨金のわけまえをくれた。ケルベロも退治した事にしてくれたらしい。
「さっそく、次の封印場所へ行くぞ」
キールは、殿様に何か言われたのか、やる気満々の様だ。
「次は、どんな魔物だ?」
「サラマンダーだ」
色んな種類の魔物に襲われる街だな。何か原因があるんじゃないのか?
「ちなみに、どうやって封印したのか聞いてもいいかしら?」
「そう言われると思って、調べておいたぜ」
キールはポケットから紙を取り出すと、読み上げる。
「サラマンダーは、橋の上に誘い込み、橋ごと川へ落として水で弱らせて封印したみたいだぞ」
炎をまとった状態のサラマンダーには矢も槍も燃えてしまって効果が無かったらしい。
刀ではリーチが短く、熱すぎて近づけなかったようだ。この街では鎧を着ないみたいだしな。
「弱らせたなら倒せばよかったのに」
アクアがもっともなことを言う
「それが、火が消えた代わりに、水で冷やされた表皮が鉄の様に固くなったようだ。まあ、動きが鈍くなったらしいから被害はほとんど無いな」
そう言っているうちに馬車が封印の地へ着いた。祠は、再び作られた橋の下にあった。
「これ、封印を解いたら橋が燃えるんじゃない?」
ミレが指摘したので、お札をはがそうとしたキールの動きが止まる。
「よし、場所を移そう」
キールはそう言うと、お札を張ったままの鏡を持ち出した。しかし、動かすことによって封印が弱まったのか、鏡が熱くなってきたみたいで、鏡をお手玉しはじめた。
「あちい!」
とうとうキールは鏡を川へ放り投げた。それと同時にお札が燃えてサラマンダーが現れる。サラマンダーはそのまま水に着地すると、水蒸気爆発が起きた。
「もう終わったんじゃない?」
ライカがもうもうと煙る川を見てそう言う。しかし、シューという音が続き、水蒸気が晴れる様子はない。
「ウィンド・ストーム」
無理やり水蒸気を散らすと、サラマンダーの熱によって川の水は触れる前に瞬時に蒸発していた。
「ちょっと、川に落とすと弱まるんじゃなかったの?」
アクアが指摘する。しかし、封印されていても時が止まっているわけじゃないのは昨日の様子で分かっている事だ。
「ふむ、封印で魔力を貯めたのではないか?」
弱点を克服するとはサラマンダーは思ったよりも賢いのかもしれない。サラマンダーは川から飛びあがると、我達に突っ込んでくる。思ったよりも敏捷で、逃げ遅れたアクアにぶつかる。
「あちゃちゃちゃちゃ!」
アクアは燃え上がってゴロゴロと転がり、川へ落ちてやっと鎮火した。その隙に攻撃するとしよう。
「ウォーター・スピア」
我は弱点である水の槍でサラマンダーに攻撃するが、ジュウとあっさり蒸発する。すると、川から水の渦が巻きあがり、サラマンダー向かっていき表皮に当たる。一瞬纏っていた火が消えたが、すぐに火が出てきた。
川には、トライデントを構えた、服がボロボロのアクアが立っていた。
「お返しよ!」
アクアは再び槍を構えると、川へつけて渦をまとわせ、サラマンダーに攻撃する。さっきよりも体温が下がったのか、サラマンダーの火はあっさりと消えた。
「今よ!」
それを好機とみてキールも刀で斬りかかるが、キンッと弾かれた。
「硬え!」
水によって表皮が固まり、鉄の鎧並みになっているようだ。キールの話の通り、動きは鈍くなったので攻撃方法を変えるか。
「ストーン・フォール」
我は3mくらいの岩をサラマンダーの上に作り出すと、落とした。ドスンと言う音と、パキパキと言う音がした。しかし、思ったよりも地面が柔らかかったため、ほとんどダメージは無かったようだ。
「くぎゃぁ!」
サラマンダーは固くなった皮膚が割れて、そこから再び炎をまとうと、固まった皮膚と岩が溶けてしまった。
「あちぃ、近づけねぇな」
ノロイとミレ、ライカは暑すぎるために離れていった。アクアも熱は苦手なようで、水に潜っているようだ。キールは汗をダラダラと流しているが、ノロイ達よりは暑さに強いようで一定の距離は保っている。
「もう一度よ!」
水面に顔をだしたアクアが、また槍で水を操り攻撃するが、今度は警戒されていたようで躱された。
「アイス・バインド」
氷で動きを止めようとしたが、それすら一瞬で溶けてしまう。思ったよりも熱量が大きいようだ。
「すこし時間を稼いでくれ」
我は、範囲魔法を構築することにした。アクアとキールが、距離を保ちつつサラマンダーを翻弄している。そのおかげで我の準備が整った。
「バキューム・シール!」
サラマンダーを中心に、3m程の空間が真空になる。炎自体は魔力によるものなので、なかなか消えないようだが、サラマンダーは呼吸が出来なくなって苦しんでいる。
しばらくして、サラマンダーは窒息死したらしく動かなくなって纏っていた火も消えた。
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