第45話 アクア死亡?
「階段、どこにあるんだろうな」
とりあえず、3階の階段の近くにはさすがに次の階層の階段は無いだろうと、降りてきた場所から離れるようにして探しているが、どこまで行っても砂ばかりで、どこへ向かっているのか、どこから来たのかすら分からなくなってきた。
「あそこに湖がある!」
「陽炎だろ?」
アクアが指さした方向に、ゆらゆらゆれる水たまりの様なものが見えるが、ノロイが言うように、暑さによって見える陽炎だと思う。
「何それ? 行ってみる!」
アクアは走り出すが、いつまで経っても追いつけないようで、そのうち砂に足を取られて倒れた。
「うぅ、追いつけない」
「だから言ったんだ。陽炎って言うのは見えるけどそこに無いものなんだぞ」
アクアはムッと膨れて、それからしばらく黙って歩き続ける。すると今度はビルが声を上げた。
「おや? あれは湖ではないですか?」
「それは陽炎って言うのよ!」
アクアはさっき知った事を自慢げに胸を張って言う。ミレが確認のためにその方向を見ている。
「本物っぽいわね」
我も目を凝らして見てみると、その湖はゆれていない。確かに本物のようだ。
「行ってみる!」
アクアは今度もダッシュして近づいていくと、湖は本物だったようで、人型のまま飛び込んだ。
「ぷはっ、階段があるわ!」
さすがに人型でも溺れなくなったのか、アクアが湖から顔を出すと、湖の中央辺りを指さす。見ると、透明度の高い湖の中心に階段があった。
「お手柄じゃないか、ビル」
ビルは照れたように頭をかく。アクアが階段に向かって泳いでいくと、急に動きを止めた。
「あぁぁぁ……」
慌ててアクアが水から上がる。すると、アクアの皮膚が見る間に緑色に染まる。
「毒・・か?」
ノロイが冷静に判断する。地面に倒れこんだアクアの背中に、小さなサソリが乗っていることに気づいた。
「気を付けろ、敵だ!」
「ウィンド・スピア」
我はアクアの背に乗っているサソリを風の槍で弾き飛ばす。念のために弱めには撃ったが、装甲が固いのかサソリにダメージは無いようだ。
ミレがアクアを掴んで湖の岸から離れるように連れてくる。アクアは刺されたらしい背中の部分が、緑色から紫色に変色してきている。普段は痛覚が無いくせに、激痛が走るのか、単なる筋肉の反射なのか、アクアは時々ビクッと体を痙攣させる。
「死ぬことは無いだろ、そっちは後回しだ! 先にサソリを何とかするぞ!」
ノロイが叫ぶ。見ると、サソリは1匹では無かったようで、水中からわらわらと浮いては近づいてくる。
「ライトニング・サークル」
我達を中心に、ライカが雷の範囲魔法を唱えるが、厚い装甲のためか効果は薄いようだ。急所に直撃でもしたのか、何匹かだけピクピクしているが、それを踏み潰すようにどんどんサソリが近づいてくる。
「アイス・ピラー」
我は氷で物理的に閉じ込めると、数十匹のサソリは動きを止めたが、それを避けるようにして回り込んでくるので時間稼ぎにもならない。
「あ、エビの味がする」
エリザはいつの間に食ったのか、もぐもぐとサソリを食べている。毒は平気なようだ。
「これは、ポイズンスコーピオンね」
アクアの様子を見ていたミレがそう判断したようだ。
「ダンジョン以外でも見られる普通のモンスターよ。刺されると、毒で1時間もしないうちに死ぬわ」
1匹当たりの毒の量は大したことが無いのか、すぐには死なないようだが、複数回刺されると、それだけでショックを起こして死ぬらしい。
「ウィンド・サークル。治療方法はあるのか?」
我は近づいてきたサソリを吹き飛ばす。個体が軽いので、あっさりと吹き飛ばせるからこちらのほうが有効そうだ。
「町に行けば毒消し薬もあるけど・・・。ちなみに、下手に回復魔法を使うと、毒が活性化して逆に悪化するわ」
ふむ、アンチ・ポイズンもダメなのか? とりあえず、毒にヒールはダメらしいな。すると、どこに居たのか、サソリはさらにアクアの横腹を刺した。
「ぎえぇぇ!」
アクアは絞められたニワトリの様な声を上げて苦しむ。今度は刺された場所がまるでマンジュウの様に赤くふくれる。
「あ、おいしそう」
エリザがパクリとアクアに噛みつく。エリザは人魚肉の効果で人魚の姿になったが、すぐに変化で犬に戻る。アクアも物理的な欠損はすぐに治り、かじられたところだけ肌色になったが、またすぐに緑になった。
「とりあえず、後は任せた」
ノロイは棺桶に入る。ビルは近くの木の上に逃げている。ライカはちまちまとライトニングで撃退しているが、だんだんと包囲網は狭まってきている。
「あの爆発魔法を使っちゃって!」
「グラビティ・ボムの事か?」
「そう、それ! それしかないわ!」
我は「グラビティ・ボム」を唱えると、サソリの集団は圧縮され、その後爆散する。さすがに内部からの爆発や、圧縮には耐えられないようだ。
「あ、もったいない」
エリザはもぐもぐとバラバラになったサソリを食い続けている。そんなにうまかったのか?
「その調子でがんばって!」
ミレは戦闘を諦め、サソリから逃げ続ける。体力が切れたあたりでタフネス・ヒールをかけてやる。
「ウィンド・サークル」
我は吹き飛ばすのと逆に、内側に向かって吹く風魔法を唱えると、サソリを集めた段階で爆散させた。
「やったわね!」
ミレがそう言って親指を立ててくる。これであらかたサソリは倒したはずだ。
「この死体はどうするの?」
ライカが指さしたのは、アクアの死体だ。
「死んでないわよ!」
がばりとアクアは起き上がる。まだ生きていたようだ。常人ならとっくに死んでいそうな色なのにな。
「抗体ができてきたみたい。何とか動けるわ」
確かに、アクアの緑や紫の肌が薄まってきている気がする。アクアの回復を待ってから我達は5階へ向かった。
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