第44話 ダンジョン4階

ダンジョンの4階は、3階が水であったのが嘘のように、全く水気の無い砂漠だった。


「ここへ来たのはきっと私たちが初めてね!」


ライカはそう言うが、普通の冒険者ならトロールにすら勝てないだろう。仮にトロールから逃げたとしても3階の水のマップは正攻法でのクリアは無理だろう。


ただ、死んだ冒険者の持ち物がドロップしたり、宝箱があるから無理に下の階層へ潜る必要もないかもしれないが。


「暑いわね……」


アクアはすでに後悔したような顔をしている。ただの人間であるビルも顔じゅう汗だくで死にそうだが。


「どんなモンスターが出るのかしら」


ミレは情報を集めようとしている。あたり一面が砂であるため、見晴らしはいいにもかかわらず何も見当たらない。


「ソナー。……うん? 階段がないな」


「ソナー。確かに、一面砂だけだな」


我も探ってみたが、音にぶつかる様な遮蔽物すらない。まあ、ソナーの範囲も無限ではないので範囲外という可能性はある。


「もしかして、砂に埋まってる?」


ミレが嫌なことを言う。もし埋まっていたらソナーでは見つからない。


「ここは、本当にダンジョンの中なのでしょうか?」


ビルが言う通り、どう見ても数キロ四方が砂であり、降りてきた階段以上の高さの天井がある。さらに、ご丁寧に疑似太陽のようなものまである。


「砂漠に転移させられたと言われた方がまだしっくりとくるな」


ノロイは「とりあえず水をくれ」と座りだした。


「ウッド・ツリー。ウォーター」


砂に木が立つのか不安だったが、きちんと根を張った木が生えた。そして、水をコップに入れノロイに渡す。ノロイがゴクリと水を飲み、皆も木の陰で休みはじめると、砂がもこもこと盛り上がってきた。


「何、あれ」


ライカが指さした瞬間、地面の下から大きなミミズが出てきた。ミミズと言っても皮膚は砂に耐えれるように厚く、口には尖った歯が生えている。


「ジャイアントミールね」


ミレは冷静に言うが、ライカは「ミミズ!」とすでに逃げ腰だ。


「焼けばいいんじゃないか?」


そう言われてハッとしたライカは、さっそく「ライトニング・ランス」と槍を飛ばした。しかし、ジャイアントミールはパクリとその槍を食べた。電気に耐性があるのか、ダメージは無さそうだ。


「ミミズっておいしいの?」


エリザが聞くが、我も食ったことは無い。詳しそうなノロイに聞いてみるか。


「どうなのだ?」


「誰も食ったことは無いわ!」


「え? もちゃもちゃしておいしいわよ?」


アクアは食ったことがあるらしい。まあ、こいつは魚の分類だろうからな……。


「じゃあ、アクアに任せる」


そう言って我達は再び木の陰に腰を落とした。


「私に任せられても……」


そう言いつつも、アクアはトライデントを構える。さすがに使い慣れた様子で、人型でも十分戦えそうだ。そこに口を開けたジャイアントミールが近づいてきた。


「えいっ!」


アクアはトライデントをジャイアントミールに投げつける。ジャイアントミールも投擲を食らうのは初めてなのか、厚い皮膚に自信を持っているのか、避けることなく普通に体に刺さる。


すると、ジャイアントミールに刺さった場所を中心に、渦の様に細切れになっていった。


「その槍すごいね!」


マジックアイテムが大好きなライカが目を輝かせて見ている。


「地上で使うとこうなるのね。私も初めて知ったわ」


「思ったよりもレアなアイテムみたいだな?」


ノロイも気になるようだ。しかし、雑談できたのもつかの間の事で、すぐに次のジャイアントミールが近づいてくる。


「もう武器が無いわ!」


アクアはまだ人型で砂の上を歩きなれないのか、走ることができないようだ。トライデントを拾うよりもジャイアントミールに食われるほうが速そうだ。


「仕方ないな、フレイム・ピラー」


我が炎の柱でジャイアントミールを包むと動きは一瞬止まったが、外側の皮を脱皮するようにするりと脱ぐと、何事も無いように再び突っ込んできた。


「むっ、熱さに耐性があるのか?」


「ライトニング・スピア」


ライカがジャイアントミールの横っ腹に槍を刺すが、食われなくてもダメージが無いようだ。やはり熱や電気に耐性があるようだな。


「アイス・スピア」


我は氷の槍をジャイアントミールに食らわせるが、物理的な攻撃は厚い表皮に阻まれて多少の傷しか与えられなかった。


「めんどうだな」


ノロイは人形に入れる髪も無いジャイアントミールとは戦うつもりが無いようだ。というか、いつも戦うそぶりはないが。


「私も、ちょっと食べてみようかな?」


エリザが犬形態になってジャイアントミールに噛みつく。表皮を少しかじっただけでダメージ自体はほとんどなさそうだな。エリザは一旦ジャイアントミールから離れると咀嚼する。


「まるで、噛み切れない湯葉を何枚も束ねたような感じね。もう要らないわ」


結局まずかったのか、ぺっぺっと吐き出している。我には食べるという行動自体を起こすつもりはないが。


「仕方ない、トライデントを回収して撤退するぞ」


我はトライデントを拾うと、アクアに投げ渡した。


「あっ」


受け取り損ねたアクアの胴体に刺さり、アクアは細切れになった。


「……」


「……ひどっ」


「……おぇっ」


「…………バタリッ」


ノロイは無言で、ライカは批判をし、ミレは吐き気を覚え、ビルは倒れた。エリザは何も気にしていないようだ。


「あー、びっくりした」


細切れの中から、運よく残っていた心臓を中心にアクアが再生した。そして、さすがマジックアイテムであるネックレスも装着されたままだ。


「我が悪かった、我の服を着るがいい」


我は細切れになった服の代わりに、砂除けに着ていたローブを渡した。我は水着の様な服だけ残り、アクアは一応ローブを着た。


「私、不死身だから大丈夫よ!」


「見る方は全然大丈夫じゃないからね」


ミレはさっきの事を思い出したのか、またえづいた。


「それより、ジャイアントミールは?」


ジャイアントミールは、細切れになったアクアの死体を食べていた。心臓を中心として再生したため、他の肉はそのまま残ったのだ。


「あ、人魚の肉を食べると……」


ライカがそう言うのと同時に、ジャイアントミールは下半身が尾びれになった。砂の上をビチビチはねるジャイアントミールを無視して階段を探すことにした。

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