第41話 人魚肉

「またトロールか」


この階層にはトロールしか居ないのか、トロール以外生きられないのか知らないが、トロールにしか会わない。まあ、この階層と言っても、ショートカットしているので他の場所に居るのかもしれぬが。


「アイス・フリーズ」


足を凍らせてさっさと通り過ぎる。さっきの先頭で分かった通り、いくらダメージを与えたところで再生するのがオチだ。この階層、我ですらこうなのだから普通の冒険者ではここをクリアするのは不可能なのではないだろうか。


「そろそろ次の階段があるはずだ」


「グランド・ストーン・スピア」


床一面を針の山のようにして複数のトロールを一気に足止めすると、次の階段を探した。


「あった・・のか?」


大きな魚の口の中に階段があるような、降りたくない階段があった。大きな魚に見えるだけで、実際の魚ではないらしく動く様子はないが、だからと言って罠ではないと言い切れないのが怖い。


「これ、入ったら食べられるとかじゃないわよね?」


「もしくは、降りたら口が閉まって戻ってこられないとか?」


「どっちにしろ碌なことはなさそうね」


ノロイがオート・マトンを動かして階段を出たり入ったりして調べたところ、閉じることも食われることも無かった。まあ、さっきの罠の様に人形は反応しないが人間は反応するとかだと意味はないが……。


覚悟を決めて我達は魚の口に入る。案の定というかなんというか、我が先頭で次がエリザだ。エリザを先頭にした方が良いのではないか? と思ったが、ノロイの命令には逆らえない。幸い、何事もなく階段を下りていく事が出来た。


そして着いた先、ダンジョンの4階は一面が水のマップだった。水が多いとかではなく、水しか見えない。


「これを示唆していただけ?」


互いに顔を見合わせ、どうしようかと考えていると、急に水面に波が立ち、モンスターが水上に飛び出す。出てきたのは人魚だった。髪は長い青色で、耳は少し尖っているくらいだ。また、手には水かきなどが無く、下半身が魚という以外はほぼ人間みたいだ。ただ、堂々と胸をさらしている辺りは人間とは違い、羞恥心の無いモンスターという事か。


「ようこそおいでくださいました!」


人魚は、器用に水面から上半身だけを出している。それに、言葉とは裏腹に胸の前で腕を組んで偉そうだ。


「どういう意味だ?」


「ここ百年ほど誰も来ないので、暇だったんです。殺す前に遊びましょう!」


「何をして遊ぶのだ?」


我もただ狩るだけでは面白くないと思うので、人魚の話に乗ってみる。


「宝探しなんてどうかしら?」


「お主に有利ではないか?」


「ランダムポップの宝箱があるの。黄色い豪華な宝箱なんだけど、30分経つと出現位置が変わるのよ」


「それは面白そうだ」


「水中では呼吸できないんだけど?」


ミレはそう言うが、我は魔法で何とでもなる。しかし、人間が水中で呼吸ができない事は知っているようで、人魚は自分の脇腹の肉を削る。


「なら、これを食べる? 人魚の肉を食べた人は、水中で呼吸が出来るようになるわ」


ポイッと、ミレに肉を投げ渡した。人魚の傷はブクブクと周りの肉が盛り上がって再生したうえ、痛みも無いようだ。


「……焼いてもいい?」


「いいわよ」


ミレは人魚の肉……魚肉を火であぶる。本体から離れたらただの肉になるようだ。


「くんくん……普通に魚の匂いね。」


ミレは恐る恐る一口齧る。


「あ、おいしい。白身みたい」


ミレがゴクリと飲み込むと、とたんに体にウロコが生え、わきにエラが出来てきた。そして、口をパクパクする。


「く、苦しい!」


「早く水に入りなさいよ、エラ呼吸になったんだから」


人魚は簡単にそう言うが、ミレはずりずりとほふく前進をして水に落ちる。


「ふぅ、苦しかった。ところで、これって戻るのよね?」


「え? 戻らないわよ?」


「それを先に言ってよ!!」


「それこそ、先に聞いてよ、よ」


それを聞いて人魚の肉を食べたいものは居なくなった、と思ったのだがエリザが手を上げる。


「あ、私も食べる。もぐもぐ」


エリザが人魚から脇腹の肉を貰い、生のまま食うと、上半身が犬で下半身が魚っていう珍妙な生き物になった。さしずめシードッグか?


「大丈夫よ、あとで神の力で戻してあげるから。見た目だけは」


「それならよかった・・・のかな?」


不安だったので、結局他に誰も食べる者はいなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る