第42話 クラーケン

「それじゃあ、準備は良い?」


人魚がそう言うので、我は一応魔法で水中に入る準備をする。


「エア・ポケット」


我は自分の顔付近に空気をとどめると、呼吸できるようにした。


「俺は人形で探すわ」


ノロイは魚型の人形を操る。何で魚型の人形なんて持っているのかは我は知らぬが、こういう時のためだろうか。


「アペアレント・デス」


ライカは回復の魔石で、珍しい仮死の魔法を唱えた。仮死の魔法は封印に近い使われ方をする事がある。封印は誰かに解いてもらわないとほぼ解くことができないが、仮死は一定期間肉体の活動を抑えるだけの魔法なので、自分の意志で解くことができる。


「ほぉ、珍しい魔法を知っておるな?」


「1回死んだからね。それを参考に作ったオリジナルスペルよ」


ライカはまさしく天才かもしれんな。我はすでに存在する魔法は極めたが、自分で作ったことは無いからな。


そして、皆スタート位置に着く。全員が揃ったところを見て、人魚は口を開いた。


「制限時間は宝箱が位置を変えてから30分よ!」


そう言うと、人魚は宝箱を取り出した。宝箱は大体10cmほどの大きさだったのだが、一体あの体のどこに持っていたのだ?


「何で持っている?」


「こういう事もあろうかと、先に取っておいたの。開けなければ、取ってないのと一緒よ」


つまり、宝箱の中身を持ってきたもの勝ちか。


「中身はなんだ?」


「いろいろあるけど、大抵海に関係するものが入っているわ」


そう言うと、人魚は三又の槍を取り出した。トライデントというやつか。その槍も2mくらいあるのだが、どこに持っていたのだ?


「これなんて、水中で突きを出すだけで渦ができる優れモノなんだから」


そう言っているうちに、人魚の持っている宝箱が薄くなったり濃くなったりを繰りかえす。それにしても、10cmほどの宝箱にあれが入っていたのか……?


「そろそろ消えるわね。準備は良い?」


我は思考を切り替える。宝箱が消え、各々が宝を探しに行く。さすがに泳ぎ慣れている人魚はあっという間に見えなくなった。


何故か魚状態に少し慣れているエリザが続き、人魚になったばっかりのミレですら通常の人間よりは早いスピードで泳いでいった。


意外にもノロイの人形はおもちゃのように遅い。


「そういえば、ビルは?」


「私は、参加しません」


そういう選択肢もあったか。全員の中にビルは入っていなかったようだが、影が薄いな。


「ウォーター・スクリュー・フィン」


我は足の裏に渦を作り、水を後ろに押し出すようにして前に進む。水の中は、コケが光を生むのか、明かりが無くても困らない程度には明るかった。


「ふむ、他のモンスターもいないのか?」


まさか、この階層に人魚1匹ということもないだろうと思うが。そう思っていると、クラーケンが現れた。


「焼きいかにしてくれる。フレイム・ピラー」


クラーケンの下から炎が立ち上るが、一瞬で消える。


「やはり、水中では無理か。ウォーター・ドリル」


右手の周りに、水流のドリルを作ると、クラーケンの足を斬っていく。3本斬ったあたりで、クラーケンは逃げて行った。


「今日の晩飯はこの巨大なゲソだな」


我はとりあえず足を確保した。

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