第40話 トロール

オート・マタが戻ってきたことに気づいたのか、ノロイが棺桶から出てくる。オート・マタもノロイの棺桶の前に整列する。


「ん? 何かあったのか?」


人形を回収しつつ、あたりが爆発でひどいことになっている事が気になったようだ。むしろ、今まで気づかなかったのか。ノロイの棺桶は、防音も完璧らしい。


「私が、罠を発動しちゃって。ごめんなさい」


「罠まであるのか。オート・マタが罠にかかっていないところをみると、人間に対してだけ発動するようだな?」


重さ感知や魔力感知型の可能性もあるが、もしそうならモンスターが全て罠を起動させているだろう。まあ、起動させても復活や再設置されているのかもしれないが。


「よし、マップを作製している間、敵が寄ってこないようにしてくれ」


そう言ってすぐに、さっきの音につられたモンスターが集まってきた。エリザは無関心なのか寝ている。ライカはモンスターが近づかないように雷の壁を張ったようだ。


「ライトニング・ウォール」


「私は、隠れています!」


「私も」


近づいてきたモンスターを見て、ビルとミレは隠れる事にしたらしい。寄ってきたモンスターは、トロールだった。トロールは、5mくらいの巨体で、肌が全身緑に塗ったような緑色、筋肉質だ。


トロールは、ライカの雷の壁がまるで存在しないかの様に進んできた。痛覚が無いのか、鈍感なのか、皮膚が焦げる程のダメージを受けているが、見る見るうちに治っていく。


「すごい再生力だな」


「トロールはたとえ手足を切られたとしても再生するわ!」


ミレはモンスターの説明をしてくれる。


「ライトニング・スピアー・ダブル」


ライカは両手から雷の槍をトロールの足に打ち込んだ。トロールの足の甲に穴が空いたが、少しバランスを崩しただけで、すぐに再生して穴が埋まる。


「何か弱点は無いのか?」


「再生力以上にダメージを与え続けるか、一撃で首を落とすか、かしらね?」


「私の攻撃力じゃ無理そうね」


ライカが諦める。雷は足止めには向いているが、ダメージを与える事には向いていないな。


「アイス・フリーズ」


我はとりあえず足を凍らせて時間稼ぎをする事にした。トロールは最初、困惑したようにぎくしゃくしていたが、氷を足ごと砕いて再生させて動けるようにしていた。自傷行為にためらいが無いところを見ると、痛覚が無いらしいな。


「見ているこっちの方が痛いわね」


「エリザ、あれも食べるか?」


我がトロールを指さして犬状態のエリザに聞く。


「えー、まずそうだからパス」


「仕方ない、ウィンド・カッター」


我はトロールの首を風の刃で落とした。案外簡単に首を落とせたと思ったが、トロールはどうやって見つけているのか、首を拾うとくっつけた。


「おい、首を落としても死なないぞ」


「……なんでかしらね? トロールじゃないのかしら?」


段々とあてにならなくなってきたな。トロールは近くに落ちていた石の破片を拾うと、投げつけてくる。


「きゃぁ、危ないじゃない!」


防げなかったミレが文句を言う。我とライカはトロールが石を拾った段階で魔法障壁を張っていたので防げた。


「よし、マップの作成が終わったぞ」


「その前に、トロールをどうにかしないと」


「倒せばいいだろ?」


「再生能力が高すぎて、首を落としても死なぬ」


「マジか、じゃあ、俺がやるか」


久々にノロイが戦うようだ。ノロイは人形を出すと、トロールがさっき砕いた足のかけらをサッと拾い、人形に入れた。そして、首を180度回すと、ゴキリとトロールの首が真後ろに捻じれた。


「これでよし」


しかし、トロールは首が180度捻じれた状態でもこっちに向かってくる。


「こいつ、不死なのか?」


さすがに首が捻じれた状態で動くと気持ちが悪いな。


「動きを止めるから、心臓を貫いてみてくれ」


「わかった。ストーン・ニードル」


ノロイがトロールを万歳状態で動きを固定し、我が心臓を石の針で貫いた。しばらく胸に開いた穴から血が出ていたが、すぐに肉が盛り上がって塞がる。


「ふむ、普通に再生したな」


「おし、無視しよう。凍らせとけ」


「アイス・ディープ・スリープ」


我はトロールを完全に氷の中に閉じ込めた。さすがに全身が凍った状態では自分で氷を砕くこともできず、出てくることは無さそうだ。


「もしかしたら、罠にかかって死なないための対策だったりしてな」


我達はダンジョンの適当さに唖然とした。トロールを無視し、ノロイが作った地図で最短ルートを進む。


「レイスか?」


青白い人型の煙みたいなものが宙に浮いている。ノロイの言葉に反応したのか、こちらを向くような感じがした。


「冒険者か?」


「しゃべった!!」


「声帯も無いのにどうやってしゃべっているのだ?」


「そこじゃない! なんで霊なのにしゃべるの!?」


「え? 霊でもしゃべるだろ?」


「あんたたちには、常識が無いからもういいわ」


ミレは呆れたように手をシッシと振る。


「冒険者なら、この形見を妻に渡してほしい」


段々と煙のような霊の輪郭が人に近づくにつれ、男性の冒険者に見えるようになった。


「俺はバットって言うB級冒険者だ。この探索が終わったら、引退するつもりだったんだ」


「うむ、フラグを回収したのだな」


「フラグ……? よくわからないが、妻に子供もできたから、危険なことは止めてと言われ、この探索が終わったらどこか静かな場所で一緒に暮らそうと言っただけだが」


「見事なフラグ回収ね!」


「……、体はすでにダンジョンに取り込まれてしまい、この指輪だけは守らなければ……と思ったら霊になっていた」


「それだけ強い未練があったのね」


霊は、ミレに指輪を渡す。一番話が通じる人間だと思ったのだろう。


「メリッサ……、それが妻の名前だ」


「わかったわ。必ず渡すから」


ミレがそう言うと、霊は「頼む……」と言って消えていった。


「あのー」


ビルが申し訳なさそうに声を掛ける


「何よ?」


「メリッサって私の母ですが」


「何ですって!」


「母が私を一人で育ててくれました……」


「まさか、そんな昔の話だったなんて……」


思ってもみなかった結末だが、一応目的が果たせそうなので、指輪をビルに渡した

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