第39話 ダンジョン3階

「ご飯の用意が出来ました」


えっと、乾燥肉をお湯で少しもどしたものと、黒パンと、乾燥野菜のスープか。なんだこの貧相なメニューは。


「我が凍らせていた肉や魚はどうした?」


「お湯につけても溶かせませんでした」


「むっ、それは悪かった」


魔法で凍らせたものは自然解凍もなかなかしないからな。今度からは気を付けて先に溶かしておいた方がいいな。


「たまには悪くないわよ。というか、普通の冒険者はこれが毎日よ」


ミレが言うのは魔法使いのいないPTの事だろう。毎日こんなメニューだと戦えるコックを探したくなるだろ。


「私は、乾燥肉でも好きよ」


「神はそもそもご飯を食べるのか?」


「食べ物に含まれる魔力を食べてるのよ」


つまり、魔石の方がごちそうか? そう思って魔石を一つ取り出す。


「いらないわよ。私は、魔力より人間と同じようにおいしさを求めるわよ。食料から得る魔力なんて微々たるものだし」


「そういうものか」


我は肉を噛みちぎりつつ相槌を打つ。ライカは「んぎぎぎぎ」と乾燥肉に苦戦しているな。少し手伝ってやるか。


「ウィンド・ナイフ」


我はライカの肉を細かく切ってやった。これで少しは食べやすくなっただろう。


「あ、ありがと」


それをつまんで少しずつ口に運んでいるライカは、まるで小動物のようだ。


「さて、腹も膨れたし、3階へ行くか」


ノロイは伸びをすると、さっさと階段を下りていく。


「ちょっと、待ちなさいよ!」


まだ食べている途中だったライカは、慌てて残りの食べ物を口に突っ込む。ビルも、出しっぱなしだった道具の片づけを急いだ。我達はあわただしく皆で3階に下りた。


3階は、人工的な感じが増えて、洞窟のような雰囲気から、どこかの地下通路のような雰囲気に変わった。我はコンコンと壁を叩いてみると、2階にくらべて頑丈さがアップしているようだ。まあ、壊せないことは無いが。


「ソナー。……おかしいな、反響しないぞ」


ダンジョンも学習することができるのか、たまたまここがそうなのか、防音の壁になったらしい。


「ち、めんどくさいな。オート・マタ」


ノロイは人形をいくつも袋から出すと、魔力を送り込む。すると、それらが自動的に動き出した。思ったよりも俊敏で気持ちが悪いな。


「効率は下がるが、こいつらにしらみつぶしで通路を探してもらう」


「適当に壁を抜くのはどうだ?」


「2階までの泥っぽい壁と違って、石を積んだような壁だ。おそらく、崩れるんじゃないか、天井ごと」


まあ、凍らせれば何とかなりそうだが、他の冒険者の迷惑になるだろうからやめておくか。


「じゃあ、俺は人形たちが戻ってくるまで魔力回復も兼ねてしばらく寝るから、あとは自由に」


そう言うと、ノロイは棺桶に入っていった。ライカとミレは顔を見合わせているし、ビルに至ってはどうしましょうと我を見ている。


「自由にと言われましても……」


唯一戦闘のできないビルは、いつモンスターに襲われるか分からない状況でビクビクしている。すると、どうせ暇ならと、ライカが新魔法を作ったようだ。ライカは壁に手を当てる。


「ちょっと試してみようっと。ライトニング・ソナー」


我達が使う普通のソナーと違って、有線の様に電気が直進し、二箇所に分かれた壁にぶつかるたびに左右に分裂して行く。


「だめね、魔力が足りなくて途中で消えたわ」


発想はいいが、魔力の問題か。ずっと半分ずつになるなら相当な魔力を込めないと、すぐに消えるだろうな。


「とりあえず、ノロイの人形に任せて休もうか」


ミレは一応どちらにでも逃げれるように、壁から少し離れて座った。


カチッ


「何の音?」


ミレがそーっとお尻をどかすと、床が凹んでいる。


「……罠ね。ごめんなさい」


ミレは申し訳なさそうに謝ると、さっそくゴロゴロゴロゴロと通路ぎりぎりの大きさの石が転がってきた。


「逃げるわよ!」


ミレとライカは慌てて反対側に逃げる。しかし、逃げる必要などないだろう?


「こうすればよいのではないか? ストーン・ウォール」


通路を半分塞ぐくらいの壁を作ると、そこにぶつかって石は止まった。その代わり、石は段々と赤熱して赤くなっていく。


「むっ、だめなようだ。アイス・ウォール」


氷の壁を作ると同時に、石が爆発した。氷の壁でこちら側を塞いでいるので、爆風は反対側にすべて逃げたようで、被害はない。


「ありがとう、助かったわ」


ミレはお礼を言う。我は気にするなと手を振って答える。


「すーっ、すーっ」


この状況でも、エリザは犬になって寝ていた


「さすが神、動じないわね……」


しばらくして、ノロイのオート・マタ達が戻ってきた。

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