第38話 ダンジョン2階
2階に着くと、待っていましたとばかりにリザードマンが現れた。身長が2mくらいのトカゲが2本足で立ったようなモンスターで、肌は鱗が生えており、武器は持っていないが、手にはナイフのような爪が生えている。
「爬虫類は嫌いなのよ。ライトニング・ボール」
水棲生物の為か、表面が比較的湿っているため、効果は抜群だ!
「次々と出てくるな」
当然リザードマンが1匹の訳がなく、まるでアリの巣から出てくるアリのようにどんどん増える。普通の冒険者ならここでリタイアじゃないか?
「クイーンリザードとか居ないわよね?」
「ダンジョンだから居ないだろ」
ダンジョンじゃなくても居ないと思うが。
「リザードマンの個体性能は、Eランク冒険者並みよ」
「それは強いのか?」
「一般人が3年くらい冒険者をした人並みよ」
「じゃあ、ミレ並みか」
「失礼ね! 私は冒険者としてならDランクよ!」
「じゃあ、ビル並みか」
「私は一般人です」
エリザはまた欠伸をしている。緊張感の無い神だ。すると、スッとライカが前に出た。
「私がやった方が早そうだから、私がやるわ。ライトニング・スネーク・ダブル」
ライカは両手から蛇のようにうねる雷を出した。それを鞭のようにふるって攻撃する。鞭に触れたリザードマンが、焦げた匂いと共にあっさりと倒れていく。
「我はうなぎが食べたくなってきたな」
「あ、マオもそう思う? 私もよー」
エリザも同意してくる。そうしているうちに、どんどんリザードマンがアイテムになっていく。
「あ、なんかレアっぽいの落ちたよ」
見ると、ネックレスのようだ。他はガラクタのような物ばかりだな。リザードマンに歯がたたなかったのか、ボロボロの武器や、爪で切り裂かれたり穴の開いた鎧などもあって拾う価値もない。あまりに多すぎて、ビルも拾うのを諦めたようだ。
「宝石が付いていて高そうね。ライカ、つけてみる?」
「私には長すぎて似合わないわ。ミレが付ければ?」
「いいの?」
「高く売れそうなら返してね」
ミレがネックレスを付けると、宝石が光りだした。
「願いを言え、我が3回だけ叶えてやろう」
青白い大男が煙と共に現れる。急な事でミレは戸惑っている。
「どんな願いでもいいの?」
「我が叶えられる範囲ならな。望むのは、金か? 世界か?」
「あ? 世界が手に入るのか?」
「我の力の範囲だけならな」
「じゃあ、世界をくれ」
ノロイが勝手に願いを言う。大男は、両手を広げて宣言する。
「ならば、この部屋はお前のものだ!」
「は?」
「世界の一部を与えただけだ」
「しょぼいな」
「さあ、他の願いを言え」
大男はノロイを無視して他の者に話しかける。願いを叶えやすそうなライカに目を付けたようだ。ライカはせっかくだからと願いを言う。
「じゃあ、私はお金が欲しいわ!」
「では、小銀貨3枚だ」
大男はポケットから小銀貨3枚を取り出してライカに渡した。小銀貨3枚は、1か月休みなく働いたくらいの金だな。
「しょぼ!」
「何を言う。我の全財産だ」
「なおさらしょぼ!」
「他の願いを言え」
「じゃあ、ダンジョンコアを持って来て」
「それは我の力の範囲を超えているので無理だ」
「使えないわね」
「他の願いを言え!」
「じゃあ、俺の肩でも揉んでくれ」
「容易い御用だ」
ノロイの肩を大男が揉むシュールな絵だ。肩を数分揉んだ後、ミレのネックレスの光が失われた。
「これで3つの願いを叶えた。代償は、お前たちの命だ!」
大男は、さらに巨大化して巨人の様になった。
「大した願いを叶えてない割に、見返りがでかいな?」
「うるさい! 願いは願いだ!」
大男はそう言うと、巨大な腕を振り回してくる。あれに当たったら、新人冒険者くらいならあっさりと死にそうだな。
「へぇ、命を取るだって?」
エリザはそう言うと、大男の腕を、左手で受け止めた。ドゴンッと大きな音と風圧が周りに被害をもたらしたが、エリザはどういうわけか、微動だにせずに受け止めている。
「神の命を取るだと?」
エリザはそう言うと、犬の姿になり、巨大化した。巨大化したエリザは、可愛い犬の姿からかけ離れており、獰猛そうな唸り声を上げている。
「な、なんだその姿は!」
大男は、さすがに自分よりも巨大な姿を見て、慌てて逃げ出そうとする。
「愚か者め!」
エリザはそう言うと、一瞬で飛びかかり大男を噛みちぎった。大男の姿は煙になると、ネックレスに吸い込まれていった。エリザは元の犬耳少女に戻り、ペロリと口の周りを舌で舐める。どっちが元の姿と言えばいいかはかは知らぬが。
「これは、精霊の一種ねぇ」
エリザはミレの付けているネックレスをツンとつついた。宝石部分は灰色のままで、また光りだす様子はない。
「これ、大丈夫なの?」
ミレはネックレスを外すと、捨てようかどうしようか迷っているようだ。
「倒したからしばらくは実体化しないと思うけど。魔力を込めない限りはね。ネックレスを付けた人から徐々に魔力を吸い出して、実体化したみたいね」
「面白そうな呪具だな。俺にくれ」
「いいけど、何に使うの?」
「殺したい相手に送ればいいんじゃないか?」
「怖! その発想怖いよ!」
「実用的ね」
とりあえず、誰も欲しがらなかったので、ノロイが貰うことになった。そして、改めて2階の探索を始める。
「ソナー」
ノロイは2階部分の地図もサラサラと作っていく。完成した地図を皆に見せる。
「今度は、この壁を3枚抜けば次の階だな」
「ほぼ直線か。ならば、一気に抜こう。トゥルー・フレイム・スピア」
青白い高温の槍を生み出すと、壁に向かって投げる。炎の槍が壁に突き刺さると、ドロリと溶け始める。しばらくすると貫通し、次の壁に突き刺さる。その間に居たリザードマン達が一瞬で蒸発した。
「すごいわねぇ、ふあーあ」
さっきので力を使ったのか、エリザはいつも以上に眠そうだ。
「あ、リザードマンが逃げていくわ」
見ると、近くにいたリザードマンが慌てて去っていくところが見えた。さすがに、仲間が一瞬で消滅するのを見たので、モンスターと言えども命が惜しくなったのか?
「雑魚に用は無いから、さっさと次の階に行くぞ」
ノロイはそう言うと、壁を跨ごうとする。が、ジュッと跨ごうとした足を焼く。
「あちぃ!! マオ、冷やせ!」
「やれやれ、アイス・フリーズ」
溶けた壁を凍らせて固定する。ついでにノロイの火傷もヒールで治す。
「あのー、私は何をすればいいのでしょう?」
やる事のないビルがそう聞いてくるが、特にやることは無いと思うぞ。
「じゃあ、メシの準備でもしてくれ」
やる事はあったようだ。次の階に行く前に飯を食うことになった。
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