第36話 ビルデバイン

「今更だが、お前の名前はなんだ?」


「私ですか? 私の名前はビルデバインです」


「長いからビルでいいか?」


「……かまいませんが」


買い出しに出たミレ達と合流し、ビルデバインが案内してくれることと、借金の返済について説明した。


「そうなの……がんばってね」


「娘さんの為にもマジックアイテムを見つけなきゃね」


ミレとライカはビルを応援している。エリザは借金が何かよくわかっていないようで、小首をかしげている。さっそくダンジョンに向かうとするか。


「ビル、ダンジョンはこっちでいいのか?」


「はい。村からそんなに離れていませんのですぐに着きますよ」


ダンジョンに向かう途中に、「やった! これで俺も金持ちだ!」という冒険者とすれ違った。しかし、言葉とは裏腹に、悲しそうに涙を流している。


「あの方は、ダンジョンでパーティを亡くしたのかもしれませんね」


危険な場所ほど高価なマジックアイテムや、レアアイテムが出るそうだ。無理をして手に入れても、命を落としては意味がないな……。


「ここです」


到着して見えるのは、普通の洞窟なのに人工的な階段がある。ライカの研究所と大して見た目が変わらんな。だからダンジョンと間違われたのだろうが。


「どういうわけか、まるで人が作ったかのように整備されているんですよ」


ダンジョンには、ダンジョンコアというものがあり、ある程度入り込む生物の望むような形になっていくらしい。人間が多く入り込んだ結果、餌はアイテム、通路は人間向きになっていったのだろう。


「じゃあ、さっそく壁を掘るか」


ノロイがペタペタと壁に触りながら提案する。


「なぜだ?」


「普通の人は掘らないからだ!」


「……確かに、普通の人は掘らないと思うが」


「掘っても再生しますよ?」


「再生速度以上に掘る、やれ、マオ」


「やはり我がやるのか。ウィンド・ドリル」


右手を手刀のようにし、そこに風の刃をまとわせる。それを壁に押し付け、がりがりと削っていく。すると、再生してきたようだが我が掘るほうが早い。


「おい、モンスターが近寄ってきたぞ」


「ダンジョンが危険を感じて呼び寄せたのかもしれませんね」


寄ってきたのは狼のようなモンスターが数体で、最近エサにありつけていないのか、異様に涎を垂らしている。


「じゃあ、エリザの出番だな」


「えー、私の出番には早くない?」


「じゃあ、ライカだ」


「あんたがやりなさいよ!」


「俺は戦うのは面倒だから嫌いだ。確かライカには貸しが……」


「仕方ないわね。ウォーター・ジェイル」


ライカは、通路を水の檻で塞いだ。モンスターはガシガシと噛みついて檻を壊そうとしているが、見た目とは裏腹に固いようだ。


「早くしてね、長くは持たないわ」


ライカは檻を維持するのに一生懸命だが、となりのエリザが欠伸をしているので緊張感が無い。


「ウィンド・ドリル・ダブル」


我は左手にも風を纏うと、さらに高速で掘り進んだ。2m程掘っただろうか、急に抵抗が無くなって手が貫通した。


「穴が空いたぞ」


向こう側に通じたらしいので、穴を広げて人が通れるようにする。


我はライカのウォーター・ジェイルで溜まってきたモンスターをウィンド・ストームで攻撃した。


「ほぉ、ダンジョンではモンスターがやられると消えるのか」


まるでダンジョンが「片付けました!」と言わんばかりに、死体が一瞬で消える。そして、代わりにいつくかのアイテムが落ちた。


「モンスターを倒すと、そのモンスターが取得した物や、固有のアイテムが落ちます。剣が落ちたところを見ると、このモンスターはだれか冒険者を殺したようですね・・・」


ビルは落ちた剣をそっと拾うと、「もしかしたら、遺族が居るかもしれないので持っていきましょう」と言った。他には、赤いポーションと、青いポーションが落ちていた。


「なんだこの液体」


「それはポーションよ!」


やっと出番がきてうれしいのか、ミレが説明しだす。ギルド員として、説明がしたいらしい。


「赤いのは、回復ポーションといって体力や怪我を治すわ。ヒールとタフネス・ヒールを足したようなものね」


「なら、両方使える我にはいらないな」


「青いのは、魔力ポーションといって魔力を回復するわ。魔法使いには必須のアイテムよ!」


「ならば、ライカがもっておけ」


我は魔力が枯渇したことは無い。今の我は、ダムに水道の蛇口を付けられたような物だ。使う魔力が少なすぎて、どれだけ使用しても枯渇する気はしない。


「いいの? 普通に買ったら大銀貨1枚ほどするわよ?」


「じゃあ、貸だ。そのうち料金を払え」


何もしていないノロイが口を出す。金の事になると急に首を突っ込んでくるな。


「ノロイは関係ないでしょ! 私はマオちゃんにもらったんだから!」


「マオの物は俺の物、俺の物は俺の物だ」


「何そのジャイアニズム! ノロイなんて嫌い!」


「嫌いならついてくるな」


「あなたたち、その辺にしておきなさい」


ミレが仲裁してくれて、その場は収まった。そして、早くしないとせっかく開けた穴が再生するので、皆は急いで穴をくぐった。

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