第35話 魔王、高級な店に入る
店の中に入ると、高級な店と言うだけあって品ぞろえも多く、煌びやかに飾られていた。座席は高級なソファーをテーブル単位で置いてあり、他のお客さんと近くならないようにされている。さらに、そのテーブルごとに綺麗なお姉さんや可愛い少女が必ず一人は付いているようだ。
さすがに、ターゲットがダンジョンに来る冒険者のためか、服装はラフな物でもいいみたいで、中には鎧を着たままの冒険者もいる。まあ、それ以外の服を持っていないだけかもしれないが鎧くらい脱いだらどうだ?
「いらっしゃいませ」
さっき、男を追い出していた、ガタイのいい男が近寄ってきた。
「お金はあるんですか?」
男はにこやかに言うが、目は笑っていない。その目は先ほど追い出した男に注がれている。
「わ、わたしはこの方達におごってもらうことになりまして」
「そうなんですか?」
ガタイのいい男が、一応こちらに確認する。付き添いで入ったものの実は知らない人でした、と言われたら目も当てられないからな。
「我が払う、金ならあるぞ」
我は革袋から大銀貨を2枚指に挟んで取り出して見せた。
「それならいいです、どうぞ、ごゆっくり」
男は金さえあれば文句が無いのか、席に案内してくれる。金は再び革袋にしまう。席に通されると、一人の女性が現れた。
「おとうさん?」
「カレン!」
見ると、ウェーブのかかったロングヘアの可愛いらしい女の子だった。この子が男が言っていた娘なのだろう、この店で働くだけあって父親とは似ていないな。
「おとうさん!」
カレンは男に抱きつくと、泣き出した。それを見たさっきのガタイのいい男が近づいてくる。
「あまり騒ぎを起こすなら、客でも追い出しますよ?」
「す、すまない」
男はそう言って去っていった。しかし、また騒ぎを起こされてはたまらないと、集中してこちらを監視しているようだ。ただ、一応客として扱っている為、こちらの視界には入らないようにしてくれているらしく、こちらから見なければ気にならない。
「この子が娘か?」
「へーっ、マオほどじゃないがかわいい子だな」
ノロイが褒めるのもめずらしい。ノロイは酒を頼むと、うまそうに飲みだした。さすが高級な店だけあって、普段飲んでいる酒とは別格のおいしさらしいな。我はとりあえずつまみの方を食べる。
「カレン、逃げよう」
「だめよ、おとうさん。これを見て」
小声で話す男に、カレンは自分の首を指さす。そこには、目立たないように黒い首輪が付けられていた。
「これは奴隷の首輪っていうマジックアイテムらしいの。逃げようとすると、首が締まるわ。さすがに死にはしないようだけど、気絶したところを連れ戻された女性を見たもの……」
「そんな! どうすれば・・」
「借金を返せばいいだけじゃないか?」
ノロイがもっともなことを言う。ただ、それができるくらいならもうやっているだろうが。
「私は、大銀貨1枚を借りただけなのですが、1か月経ったら、いつの間にか返済が小金貨1枚になっていました。娘をここで働かせようと、利子をあげられたのです!」
「ここの給金はいくらなのだ?」
「月に、大銀貨1枚です。でも、借金の利子が増える方が多いのです」
カレンがシクシクと泣く。悪徳な商人に騙されたようだな。
「娘は、見た目が良いので人気があるようなんです。だから、絶対に逃げ出さないように、また、借金を返せないように絞っている様です」
「我達はダンジョンを攻略しに行く。おぬしもくるか?」
ダンジョンでマジックアイテムの一つでも見つかれば、小金貨1枚くらいあっという間に稼げるはずだ。マジックアイテムならば買い叩かれるようならギルドに売ればいいしな。
「しかし、私は戦えませんよ?」
「案内をするだけでいい」
「・・・わかりました。お願いします」
ノロイは追加で酒を飲む。男が仲間に入ることに文句は無いようだ。
方針が決まり、時間も着たので、支払いをしようと出口に行ったら、料金は大銀貨2枚だった。ぼったくりだ!
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