第34話 オンデの村

ライカはミレから地図を借りると、ここからそんなに遠くないであろうある1点を指さした。


「ここにダンジョンがあるわ」


「あら、エリンの洞窟ね」


「知ってるの?」


「冒険者が帰ってこないことで有名じゃない」


「そうなの? モンスターが強いとか? まあ、マオが居るなら大抵の問題は大丈夫でしょう」


「ふあーぁ、俺は洞窟の前で待ってていいか?」


「いいわけ無いでしょ! ピンチになったらマオちゃんの魔力を解放してもらわないと困るんだから」


「解放ってなーに?」


エリザが可愛く小首をかしげる。それを見た通行人がほんわかとした雰囲気になる。


「マオちゃんは、ノロイの呪いによって魔力を封じられているのよ。だから、ピンチになったら解放してもらうの」


「へー、でも、私も大抵のモンスターなら倒せるわよ?」


「そういえば、職業巫女って何ができるの?」


「えっとね、精霊を召喚したり、巫力を使ってオーバーソウルしたり」


「オーバーソウルはだめよ! せめて憑依にしときなさい」


「はーい」


「それじゃあ、さっそくダンジョンへ向かおうかしら」


「ねぇ、ねぇ、さっそく召喚してもいい?」


「何を召喚するの?」


「バイコーンよ」


「ああ、ユニコーンの逆のやつね」


「荷車部分は、魔法で作りましょう。マオ、よろしく」


「ストーン・チャリオット」


我は土で戦車を作る。戦車と言っても馬が引く方の戦車だ。


「巫女が不浄なのっていいの?」


「いいのよ。私が神だから」


召喚されたバイコーンは、黒い馬に角を2本生やしたモンスターだ。それを戦車につなげると、馬の数倍の速さで駆けれる上に体力も馬の比ではないくらい多く、バテルことは無い。さらに言うなら、エサは雑食性と言う事で適当にその辺で獲れるものを食わせれば良く、わざわざカイバ等を用意しなくて済むために楽だ。


「歩くより断然早そうね」


「これなら、数時間もあれば着きそうだな」


「途中で村に寄ってね。私たちの食料が何もないわ」


「それは大変だ、ノロイ、村へいくのだ」


「はいはい、俺が運転手なんだな」


ノロイはバイコーンの手綱を握り、馭者の真似事をする。バイコーンは頭がいいので、実は口で説明するだけでよかったと後で知った。軽快に飛ばし、途中で現れる盗賊を跳ね飛ばし、モンスターは魔法で倒し、休憩無しで進んだため、早々に村に着いた。我達が村に着くと、入り口に居る人にギョッとした目で見られたが、エリザがバイコーンを送還すると、ほっとした顔になって迎え入れてくれた。


「オンデの村へようこそ。宿は一軒しかありませんが、食堂は二軒あります。高級な店と庶民の店です。だいたい、冒険者は高級な店を利用されます」


村と言うだけあって、関所はないが警備員らしき人物が居た。そして、聞いてもいないのに村の説明をしてくれる。よく冒険者が来るのだろうか?


「なぜ冒険者は高級な方へ行くのだ?」


「庶民の店は料理しているのがおばさんで、高級な店は給仕するのが美少女だからです」


「……なるほどな。俺はどっちでもいいが」


「あなたのパーティは美人が多いですね」


「……誰の事だ?」


「はっはっは、またまたー。とりあえず、ごゆっくりどうぞ」


「とりあえず、宿が一軒しかないからそこにするとして、ミレとライカとエリザは食料の買い出しに行ってくれ。俺とマオはとりあえず、先に高級な店で情報を集めてくる」


女性陣は市場らしき場所へ向かい、我達は高級な店に向かう。我達が入ろうとする寸前に、丁度追い出されたような冒険者が出てきた。


「待ってくれ、金は用意する。だから、入れてくれ!」


「ダメに決まってんだろ。金を用意してから来い」


「そんな! うぅ、カレン……」


本当は無視して入りたかったのだが、この冒険者らしき人物は我達に目線を完全にロックオンしている。


「どうしたのだ?」


「ここで働いている給仕は、私の娘なんです。私が借金をしたばっかりに……」


「ふむ。無理やりでないなら仕方あるまい。我が奢ってやるからちょっと話をしようではないか」


我がノロイをチラリと見ると、ノロイも仕方ないなという感じで肩をすくめる。ノロイも大分厄介ごとに巻き込まれるのに慣れてきたようだな。それとも、情報収集の一環か?


「……高いですけど、いいのでしょうか?」


「クエストで稼いだからな!」


「見かけによらず、強いんですね。それでは、よろしくお願いします」


「マオ、自分の金で払えよ」


「それくらい、分かっている」


我にはモヒカンからもらった報酬があるからな。こうして、我達は改めて店の中へ入っていった。

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