第31話 魔王、クエストを受ける

我とライカとミレはギルドへ向かい、ノロイは宿を探しに行った。見た目で判断するとしたら普通逆じゃないか?


ここのギルドは小さな家のような大きさだ。街の大きさがそのまま建物の大きさに反映されているのか? まあ、街が小さいと言う事は冒険者も少ないと言う事か。


ギルドに入ると、案の定、「ここはガキや女が来る場所じゃねぇ!」とモヒカンの男に詰め寄られたが、ライカがライトニング・タッチで気絶させた。弱すぎるな。


「どのようなご用件でしょうか?」


このような出来事は日常茶飯事なのか、ギルド嬢は全く動じていない。それどころか、微笑んですらいる。


「私は付き添いのギルド員よ。この子の冒険者登録と、何かいいクエストは無いかしら?」


ライカの実力は、先ほどのモヒカンで示されていたので、すんなりとライカの冒険者登録は終わった。ライカは予想通り魔法使いの職だった。みんなでさっそくクエストボードを見に行くとする。


「これ、本当に小金貨1枚も出るの?」


クエストボードに1枚、緊急クエストと張ってあった。緊急と言うだけあってすぐに引き受けてもらえるように高額になっているようだな。


「はい。人が襲われたので、緊急性があるようです」


「ワイバーンの討伐? ワイバーンって強いのか?」


「ワイバーンはCランクの冒険者グループか、Bランクの冒険者ならソロで狩れるモンスターです。通常であれば大銀貨3枚くらいのクエストですね」


「ほぉ、どこへ行けばいいのだ?」


「それは、依頼者に直接お聞きください」


「依頼者は誰?」


「そこで気絶している男性です」


ギルド嬢が指さしたのは、さっきライカに気絶させられたモヒカンだった。こいつ、冒険者じゃなかったのか。


「ヒール」


我はモヒカンを回復させると、クエストについて聞く。気絶程度のやけどだからヒールで十分だろう。すぐにモヒカンは目を覚ました。


「う、すまねぇ。クエストを断られまくって、気が立っていた」


「我達がワイバーンのクエストを受けるぞ」


「あんたたちが? 俺が言うのもなんだけど、あんたたちのような女子供だけで大丈夫なのか?」


「大丈夫よ、こう見えてもこの子はCランクだし、ライカちゃんはあなたが身をもって分かっているわよね?」


「Cランクか……、お前一人だけか?」


「いや、もう一人居るぞ」


「それなら、いけるか? 頼む! 俺の彼女を救い出してくれ!」


「え? 人が連れ去られたの? 大変じゃない!」


「いいえ、連れ去られたのは犬です」


「犬でも俺の彼女だ!」


「……まあ、詳しい話を聞かせて頂戴」


ミレがギルド内にあるテーブルを指さすと、我達はそこへ移動した


木製の丸テーブルと、同じく木製の椅子が置いてあるが、ライカが座ると座高の関係で生首のように見える。


「ウィンド・クッション」


風の固まりを椅子の上に作ってやる。座高は高くなったが、その分足は届かなくなったので我が椅子に乗せてやる。


「わあ、ふわふわで楽しい!」


我達が座るのを確認すると、モヒカンが口を開く。


「とりあえず、飲み物を奢らせてくれ。エールでいいか?」


「いいわけないでしょ。ここはライカに合わせてみんな果実ジュースにするわ」


ここはちょっとした酒場も兼ねているようだ。それにしても、このメンツをみてエールを注文するとはな。我はエールでもいいが……。


受付嬢がいそいそとジュースを運ぶ。ジュースがそろったので、改めてモヒカンから話を聞く。


「俺は街の外で、彼女とのデートを楽しんでいたんだ。すると、黒い悪魔が下りてきて、俺の彼女をさらっていったんだ! 今も彼女は俺が助けに来てくれるのを待っているはずだ。しかし、俺には力が足りねぇ。だが、こう見えても俺はこの街一番の商人で金はある!」


「訳すると、犬と散歩中に犬がワイバーンに連れ去られたようです。ちなみに、この街一番の商人はあなたではなく、あなたの父親です」


ギルド嬢が聞いていたのか、口をはさむ。正直助かる。


「それで、どこへ連れ去られたのか分かるのか?」


「今の時期は、ワイバーンの繁殖時期だ。巣は必ず群れで作るから、山の中腹にある窪地に決まっている!」


「じゃあ、場所も分ったし、さっさと助けに行くか」


「あの……せっかくやる気のところ非常に言いにくいのですが、ワイバーンの繁殖時期は数百のワイバーンが集まるので、いくら高額でも誰も引き受けないんですよ?」


ギルド嬢がアドバイスをくれる。1匹倒すのにCランクパーティかBランクソロなら、冒険者を数百人規模の討伐隊として集める程か? まあ、討伐と救助は違うかもしれないが。救助なら見つからないように助けることも可能かもしれぬ。


「金なら増やしてもいい! 頼む、助けてくれ!」


モヒカンは両手を合わせて頼み込む。


「だから、さっきから言ってるとおり、助けに行くぞ」


我は椅子から立ち上がると、その山へ向かう事にした。しかし、他の誰も椅子から立ち上がらない。


「あ、私パス」


「私も、パス」


「……理由は?」


「普通に、ワイバーンの群れに立ち向かうとか、自殺行為じゃない?」


「私も、お金より命の方が大事」


「ミレはともかく、ライカなら勝てるだろう?」


「勝てるけど、私の魔力じゃ数体倒すので限界よ」


「魔石に魔力を補充してやろうか?」


「それなら行くわ! ワイバーンっていい素材なのよね」


ライカの目がお金の形になっている。


「さあ、行くぞ! ウィンド・フライ」


「じゃあ、風の魔石をはめて、ウィンド・フライ」


我達は山へ向かう途中に思った。どんな犬か聞くのを忘れた、と。

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