第30話 ウラルのカニうどん
「ここがウラルの街です」
ミレがそう言って案内する。街と言ってもすごく小さいし、建物もほとんど2階以上が無い物ばかりだ。
「なんか田舎って感じだな」
ノロイが正直な気持ちを口にする。我も思ったが口に出さなかったのにな。
「ま、まあ、のどかなのはいいんじゃない?」
ライカがフォローっぽい事を口にする。どもっている辺り、ライカも似たような事を思っていたに違いないな。しかし、見た目と食事のうまさは別だ。
「我は、うどんがうまいならそれでよい」
「じゃあ、裏メニューのあるうどん屋さんに案内するわね」
「うどんの裏メニューって何だ?」
「それは、カニうどんよ!」
「えぇー、私は足が多いのは虫みたいだから嫌よ!」
ライカは顔の前でバッテンを作って拒否する。我はカニとやらを見たことがないため何とも言えんが。
「なんで? うまいぞ?」
ノロイはカニを食べたことがあるらしく、おいしいらしい。下手に先入観を持つよりは、うまいものとして認識しておいた方がよさそうだ。
「我は初めてだから、とりあえず食ってから判断する」
「そうするといいわ、私も久しぶりだから楽しみだわ」
ライカ以外が乗り気で店に向かう。店はこじんまりとしていて、のれんには「うどん」と書いてある。そののれんをくぐって扉を開けると、すぐにカウンターが見える。
「へい、いらっしゃい」
壮年の店主と思われる男性が、あいそよく声を掛けてくる。ミレは慣れた様子で席に座るとメニューを見ずに注文する。
「マスター、カニカニでお願い!」
「はいよ! いくつだい?」
「3つ。あとは、そうねぇ、月見うどんが1つ」
我達はカニうどんで、ライカだけが月見うどんだ。この店は店主一人で切り盛りしているのか、中は一人だけだ。店主は慣れた手つきで麺を4つお湯の中に入れる。その間にネギを切っているようだ。しばらく珍し気に眺めていたが、すぐに出来たようだ。
「へい、おまち!」
うどんの上にカニ1匹まるまる入った、高そうなうどんだ。カニは手足が10本でさらに殻に覆われているので確かに虫っぽいが、赤い色がうまそうだ。しかし、堅そうなんだがどうやって食べるのだ?
「これ1杯で小銀貨1枚よ!」
「値段はどうでもいい、うまければよいのだ」
「どうでもよくないが、カイトさまさまで金はある」
「やっぱり、美味しそうに見えないわね! 月見が一番よ!」
「いや、カニうどんが1番でさぁ」
店主がそういってライカのセリフに反論する。さすがに主人に言われてライカも微妙な顔になった。しかし1番という割に、裏メニューでしか出さないみたいだが何故だ?
「なんで日持ちがしなさそうなカニを裏メニューに?」
「カニと間違えて毒クモを食った奴が居てなぁ、それ以来裏でしか出せなくなったんでさぁ」
「それは……ありえないわね!」
想像したら気持ち悪い。普通の人なら絶対に間違わないだろう。まあ、理由はどうでもいい。
「いただきます!」
我はとりあえず固そうなカニの足を切るために、ウィンド・ナイフでつくったノコギリ状の刃が高速に上下する風のナイフを作った。それを使ってカニの殻を削いでいくと、おいしそうな身が見える。
「それ、便利だな。俺の身もむいてくれ」
「よいが、足1本貰うぞ」
「足りなかったら追加するからいいぞ」
そうとう儲かったらしいノロイが太っ腹だ。我はノロイの分の殻も綺麗に削いでいく。
「私もお願いしていいかしら? 足を1本あげるわ」
「よし、ついでだからやってやろう」
ここまできたら、全部やってやる!
「ウィンド・ナイフ・クィンティプル」
我は5指全てにナイフをつけると、さくさくとカニ殻を削いでいった
「へぇ、便利ね。料理にも使えそう」
「魔力をアホみたいに使うから、普通の魔法使いでは1分も持たんぞ?」
「それをカニに使うのか・・・」
削ぎ終わったカニ足を1本ずつもらって返す
「うむ、うまい!」
これでまずかったら足を返すところだったが、2本増えて良かった。ほんのりと塩味が効いた身はうまい。
「そんなにおいしいの?」
ライカがジーっとみるので、食べないで見ているのも可哀そうだと少しだけ分けた。ライカはさっそく身をほじくって食べる。
「あ、意外。おいしい」
「もうやらんぞ」
「マオのケチ! ノロイ、私にも頂戴!」
「俺は、カニの甲羅に酒を入れて、みそと一緒に飲むのが好きだな。足はあんまり要らんからいいぞ」
ノロイはそういって足を半分ライカにあげた。
「おいしい! ノロイ、ありがとう!」
まるで、親子の様だな。ミレは無言で夢中になって食っているようだ。
「あー、うまかった。我は満足だ」
「お勘定は小銀貨3枚に、中銅貨4枚だ」
ノロイは小銀貨2枚と、大銅貨1枚をだす。カニうどんが小銀貨1枚で、月見うどんが中銅貨4枚だな。
「ミレは自分で払え。おつりの中銅貨6枚分だけ多く払ってやる」
「紹介したんだから、奢ってくれてもいいじゃない! ねえ、マオちゃん」
「そうだな、儲かったのならおごってやったらどうだ?」
「そんなにガバガバ使っていたらすぐ無くなるだろうが。あ、ライカの慰謝料はこれでチャラな」
「少ないわよ! 私、殺されかけたのよ?」
ノロイは皮袋を確認して、小銭をじゃらじゃら他の袋に移すと、ライカに渡した
「ほら、これだけあればいいだろ?」
皮袋を見たライカは、一目ではいくら入っているのか分からなかったようだ。
「いくら入っているの?」
「知らん。少なくとも、金貨と銀貨は抜いた」
「少ないわよ!」
金貨と銀貨を抜いたなら、おそらく小銀貨1枚分以下しか入っていないのだろうな。
「ミレ、何かお金を稼ぐ方法は無いの?」
「あるわよ? クエストでも受ける?」
「私、冒険者登録したい!」
「じゃあ、ギルドへ行きましょうか」
「俺は宿を探すから、用事が終わったら俺に鳥を飛ばしてくれ」
「わかったわ。じゃあ、行きましょう」
我達は連れ立ってギルドに向かうことにした。
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