第32話 ワイバーン→ブラックドラゴン
改めてどんな犬なのか聞き、山へ向かう。我達が山の中腹まで飛んでいくと、複数のワイバーンが襲い掛かってきた。
「フレイム・ランス」
ワイバーンの皮膜は弱い。翼が一瞬で燃えて穴が空くと、ボトボトと落ちていく。ライカの方にも向かってようだが、同じく皮膜に穴をあけられて墜落していく。
「この程度がBランクソロか?」
「落としただけじゃ死なないんじゃない?」
下を見ると、確かに生きているようだ。どれくらいで再生するのかは分らぬが、今すぐ再び襲ってくることは無さそうだ。
「ソナー」
我は探知魔法を唱えると、犬を探す。食べられていないといいが。
「お、犬っぽい大きさの反応が、巣の中心にあるぞ」
「巣の中心って、ボスの巣じゃない? ワイバーンってボスを中心にして巣を作るから、周りに行くほど弱いらしいよ」
「ふむ。さっき撃ち落としたのはワイバーンの中でも雑魚のほうか」
それを聞いてから巣を見ると、確かに中心に行くほど体格が良く、色も濃い気がする。
「じゃあ、中心の一番でかいのがボスか」
ひときわ大きくて他と違う形の、黒いワイバーンが居るのが見える。
「あれ、ワイバーンじゃなくてブラックドラゴンじゃない?」
「ほぅ、ドラゴンか」
我はブラックドラゴンに向かって飛んでいく。ワイバーンが襲ってくるが、すべて皮膜に穴をあけて撃ち落とす。ドラゴンの目の前に来たが、襲ってくる様子はない。
「何の用だ? 脆弱な人間よ」
「しゃべれるのか。脆弱な人間に負けるワイバーンは脆弱じゃないのか?」
「……殺せ」
ブラックドラゴンが命令すると、周囲にいたちょっと強そうなワイバーンが襲ってくる。
「フレイム・ニードル・シャワー」
翼にちょっとだけ穴をあけてやるだけで面白いように墜落する。体に当たった魔法は効いていないみたいなので、体は頑丈なのだろうな。
「終わりか?」
「人間にしては強いようだな? ここへ来た目的はなんだ?」
「ここに居る犬を助けに来た」
「あら、お迎え?」
「誰だ?」
急に女性の話声が聞こえた
「私を迎えに来たんじゃないの?」
見ると、犬がしゃべっている。モヒカンから聞いていた特徴と一致するが、しゃべるとは聞いていないぞ。
「犬がしゃべった! マオ、あれが目的の犬?」
「誰が犬よ。私は犬神よ」
「犬ではないか」
「まあいいわ、そろそろお腹がすいたから、帰りましょう」
「待て、我の巣を荒らした者をタダで返すと思うか?」
「え? いいんじゃない? こいつらだって死んだわけじゃないし」
犬は周りのワイバーンを前足で指す。しかし、ドラゴンは納得していないようだ。
「犬神様は黙っててくれ。俺様まで弱いと思われたままでは、気が済まぬ」
「誰もそんなこと言ってないけど」
「黙れ!」
ライカの指摘にドラゴンはそう言うと、炎のブレスを吐いてくる。
「ウィンド・シールド」
所詮はブレスなので、風で方向を曲げてやる。一応その辺のワイバーンに当たらないように曲げたが、ブレスが当たった地面が沸騰する。普通の人間なら一瞬で黒焦げどころか消し炭だな。
「猪口才な!」
「ストレングス・アップ」
ドラゴンは、直接爪で攻撃してきたので、我は身体強化の魔法を使い、受け止める。
「ぬ、動かぬ。何故だ!」
「お主が弱いからではないか? それ」
我はドラゴンの爪をへし折る。思ったより爪が太いので、指ごと折れたかもしれぬ。
「ぎゃあぁぁ」
ドラゴンが転げまわる。地面を這っていたワイバーンも、つぶされないように慌てて離れる。
「では、帰るぞ、犬の」
「私はエリザよ、これでも神様なんだから」
「はいはい、行くわよ、エリザ」
ライカがエリザを抱っこする。エリザは一瞬不満げな顔をするが、ライカの抱っこがあったかいのか、表情をやわらかくする。
「待て!」
ドラゴンは、しつこく尻尾を叩きつけて攻撃してくるが、その尻尾を手で斬る。
「ぐがおぉぉ!」
ドラゴンの尻尾は、人間でいう手足に近いようで、ドラゴンは痛みに耐えきれず気絶したようだ。ピクピクしているから死んでいないし、血もそんなに出ていないから放置だ。
「あ、素材の回収、回収」
ライカはカバンから出した試験管をドラゴンの尻尾の傷に当てる。満タンになるとドラゴンの爪と尻尾を拾った。尻尾はライカにはでかすぎるので我が運んでやるとするか。
「「ウィンド・フライ」」
二人で再び飛行魔法をかけると、街へ帰ることにした。帰りはワイバーンが邪魔してくることも無く、スムーズに帰る事が出来た。
「ところで、なんであんなところに行ったのだ?」
「あのドラゴンにナンパされただけよ。たまには、息抜きもしたいの」
「飼い主が探しておるぞ?」
「飼い主というか、彼氏かしらね。いろいろいい物を食べさせてくれるから、一番のお気に入りよ。やっぱり、人間の食べ物が一番おいしいわ」
「モヒカンが言ってた彼女って言うのは本当であったのか……」
「いろいろな事があるわねぇ」
「ところで、おぬしは強いのか?」
「これでも神だからね。あのドラゴンの10倍は強いわよ。ミカエルって知ってる? あの子と同じくらいよ」
「10倍なら大したことないな」
「えぇ! と、友達に大天使ミカエルが居るのよ!」
「昔、物理的に泣かせた記憶がある」
「……あなた、何者?」
「我は今はマオと呼ばれている魔王だ」
「ふーん、魔力量的にそんなに強そうに見えないんだけど?」
「今は呪われているのでな」
そんなこんなで雑談しながら飛んでいるうちに街についた。モヒカンにエリザを渡し、報酬を貰った。
「やっと会えたよエリザ! 今日は高級肉だ!」
「お腹すいたから、早く食べに行きましょう」
「い、犬がしゃべった!!」
ギルド嬢もエリザをタダの犬だと思っていたらしく、しゃべったことに驚いているな。ノロイがどこに宿を取ったのか知らぬので、ノロイの居場所を探知して宿屋へ行く。
「ただいま戻った」
「遅かったな。ところで、5%解放したままだったから、0.1%に戻すわ」
「ぬああ! 思い出すでない!」
さすがに、0.1%じゃドラゴンには勝てなかったであろうな……
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