第19話 魔王、盗賊団のリーダーに遭う
盗賊たちは、ミレが持っていた捕縛用の縄で順次縛り上げていく。街からある程度離れているとはいえ、馬であれば1、2時間もあれば着くだろう。縄で縛ったとはいえ、念のため見張る。付近を探索した結果、他に盗賊の仲間は居なさそうだ。
2時間ほどしてギルドの職員と護衛の冒険者が数人到着した。盗賊を運搬するために馬車が数台要るからな。ギルド職員がさっそく縛られている盗賊を見渡す。
「こいつらは、最近この界隈を騒がせている盗賊ですね! クエストは出されていませんが、被害に遭った方々の共同寄付金がありますので報奨金がでます。受け取られますか?」
「受け取る! でも、私は冒険者じゃないよ?」
ライカがギルド員に詰め寄るが、ギルド員は怪訝な顔をしている。
「盗賊の大半はその子が捕まえたから、受け取りはその子でよいぞ」
ギルド員は一瞬信じられないという顔をしたが、皆が納得の表情をしているのを見ると、そういう事もあるかと納得したようだ。
「分かりました。それでは、ついでに冒険者登録をしましょう」
「わかった!」
盗賊は馬車の後ろにくくられる。自分で歩かなければ引きずられるようだ。確かに、わざわざ犯罪者を馬車に乗せる理由はないな。ライカは喜んでギルド員についていく。
「じゃあな、ライカ。元気でな」
「ライカちゃん、元気でね!」
「我も少し寂しいが、またの!」
「なんでよ!!」
手を振って別れようとする俺たちに、ライカが怒鳴る。
「だって、ギルドに行くんだろ? 俺たちは行かないよ?」
「我もさっさと次の街に行って裏メニューを頼みたい」
「私は、ノロイ達に着いていくし」
そう言うと、我達は改めて手を振る。ライカは段々と離れていく我達とギルド員の馬車を交互に見ると、意を決したように叫ぶ。
「待って! じゃあ、私もギルドに行かないから、一緒に連れてって!」
「え? よろしいのですか? 寄付金は小金貨1枚ですが」
「え? この程度の盗賊でそんなに出るの?」
「被害に遭われた方の中に、豪商がおられましたので」
我たちが思っていた以上にこの盗賊たちは強かったようだ。護衛を付けている豪商相手に盗賊行為をするなんてな。人数だけは多いから、戦闘なしで降伏したのか? 盗賊も討伐対象になりたくないからむやみに殺人は犯していないようだ。
「あれ? ところで、盗賊団のリーダーが居ませんが?」
ギルド員は、今更そんなことを言い出す。それは乗せる前に言うべきではないか? そもそも我達は盗賊団のリーダーが居ないことを知らぬぞ。
「リーダーがいないのでは、お金をお支払いするわけにはいきませんね」
「あ、じゃあ私もう行きます」
ライカは未練がなくなったので、あっさり引き下がった。今からリーダーを探すとかめんどくさい。
我たちは、あくせくと働くギルド員を横目に、山登りを再開した。
山道をしばらく登ったところに、洞窟があった。人の出入りがあるようで、ご丁寧にも松明が点けてあって中も明るい。
「誰かいるみたいだし、ここで一旦休憩にするか?」
「そうね、一旦休みましょう」
「我は全然元気だが」
「無限の体力と一緒にしないで!」
我たちは洞窟に入ると「ぐおぉぉぉ!」とでかいイビキがする。誰か居るとは思ったが、人じゃない可能性を考慮していなかったな。
「何かいるのか? 熊か?」
奥へ行くと、オーガみたいな人間みたいなよくわからない者が居た。どう見ても穏便に話ができる様な風貌ではない。
「よし、出ましょうか」
ミレがそう提案してクルリと出口に向かう。その時、ライカが少し出っ張った石につまづいてこけた。
「痛い!」
洞窟の中は思ったより声が響いたようで、イビキがピタリと止まった。
「誰だ!」
イビキをかいていたやつが起き上がってきた。高さが3mはある洞窟の天井にあと少しで頭が付くような巨体だな。
「ここを盗賊のアジトと知ってやってきやがったのか?」
「あれ? お前、もしかしてここら辺の盗賊のリーダー?」
「そうだ! 鬼のゴウケツとは俺の事よ!」
そう言うと、ゴウケツは壁に立てかけてあった金棒を手に取る。
「ここで会ったが運の尽き、出すもの出してもらおうか!」
「いえ、我達はこれで」
我はお辞儀をして出口に向かう。ゴウケツは一瞬あっけにとられて硬直していたが、我に返ると大声を出す。
「こぉら! 逃げるな! ストーン・ウォール」
石の壁で入り口が塞がれ、出られなくなってしまった。
「えぇ!? そんな見た目で魔法使えるの?」
「魔法を使うのに見た目は関係ないだろうが!」
「そうね。じゃあ、ライトニング・ニードル」
ライカはゴウケツに向かって細い雷を飛ばした。
「甘いわ! ストーン・アーマー!」
ゴウケツの全身が岩に覆われて、表面で雷がはじかれる。ライカもその程度の魔法で倒せるとは思っていなかったらしく、すぐに追撃の魔法を唱える。
「これならどう? ライトニング・ランス」
先ほどより強めの雷が飛ぶが、ゴウケツは金棒を地面に刺すと、金棒を通って雷は地面に流れた。見かけによらずそんな知能もあるのか……。ライカも、まさか無傷で回避されるとは思っていなかったらしく、動揺している。
「くっ、最終奥義! トゥルー・ライトニング・パイル!」
ライカから、今まで見たことないような太い釘状の雷が打ち出され、ゴウケツに襲い掛かる。それに対してもゴウケツは慌てる様子が無い。
「ふはははは、ストーン・キャッスル!」
ゴウケツと俺たちの間に、ものすごく分厚い石の壁が出来た。ライカの雷は壁を1m程破壊したが、まだまだ厚みがありそうで、貫通しそうにない。
「えっと、洞窟も埋まったし、帰ろうか」
ミレがそう言うので、我は入り口の方の壁をウィンド・ランスで穴をあけ、我達は洞窟を後にした。
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