第20話 魔王、災難に遭う
「お前ら、まてやコラァ!」
「ちっ、自分で穴をあけて追ってきやがったか」
「あのまま埋まっていればいいのに」
「マオ、やっちまえ」
「ウィンド・ハンマー」
我は風の槌をフルスイングし、ゴウケツを叩きつける。我の魔法はライカと違い、ゴウケツの石の鎧を砕く。
「ぐべはぁ!」
ゴウケツはそのまま壁に埋まってピクピクしている。
「ライカ、これもってけば小金貨1枚だぞ」
「……もういいわよ」
ライカは小金貨1枚より置いて行かれないほうを選んだらしい。まあ、この巨体を運ぶのはライカには無理だろうしな。
♦
魔王城謁見の間。魔王たちは対策会議をしていた。
「ところで、セッカよ」
「なんでしょう?」
「そのガキっていう奴の外見を聞いてないが」
「そうでした。金髪のショートヘアで、身長は150cmくらいでしょうか。バストサイズは恐らくBカップでしょう」
「そこまで聞いていないが、バストサイズがBと言う事は女なのか?」
「ええ。しかし、その強さは先ほども言った通り見た目通りではありません。くれぐれも気を付けるべきかと」
「それはそうと、エンカが見つけられると思うか?」
「いえ、外見も分らず、名前も知らなければ探しようが無いでしょう」
その時、謁見の間の扉がバンッと開いてエンカが戻ってきた。この感じだと城から出たあたりで気が付いたようだな。
「そいつの名前や特徴を聞くのを忘れた、早く教えろ!」
「……セッカよ、もう一度説明を頼む」
「お断りします」
「なんでよ!?」
その後、セッカとエンカの言い合いが続き、対策会議は終了となった。
♦
我達が洞窟から出て歩いていると、後ろからドドドドドと音がする。振り返って見てみると、ゴウケツが追ってくるのが見えた。
「待てやコラァ!」
「もう復活しやがったのか」
「タフだな」
「タフね」
ゴウケツが追いつくと、胸を張って威張る。
「はっ、俺様がヒールくらい使えないわけが無いだろう!」
「えっ、何こいつ。何で万能なのよ」
回復魔法も攻撃魔法も使える魔法使いは珍しいのだ。それに、ゴウケツはどう見ても戦士向きの体格をしているため、まじめに鍛えれば騎士や護衛に引っ張りだこの様な気がするが……。
「そんだけ万能ならもっといい職があったんじゃない?」
ミレも我と同じことを思ったらしく、ゴウケツに指摘した。しかし、ゴウケツはどや顔で一言。
「俺様は誰の下にもつかねぇ!」
「ああ、そういうタイプなのね」
ミレはあきれたようにため息をついた。性格的なものはどうしようもないな。まあ、こいつが上司の言う事を聞きそうにないのは分かる。
「今度は俺様が勝つ! くらえ……」
「フレイム・サイクロン」
ゴウケツが炎の竜巻に巻き込まれる。
「うぎゃぁぁあ」
さすがのゴウケツも、黒焦げになったら回復できないようで、死んではいないようだが横たわっている。その横に、袖の破れた服を着て赤い髪を逆立てた女が降り立った。
「で、お前は?」
ノロイは一応警戒して我を盾にする。少なくともギルド員や旅人、冒険者には見えないからな。女は自分を親指で指すと、わざわざ自己紹介してくれるようだ。
「あたいは炎花(エンカ)。四天王最強の女よ!」
「……四天王最強はセッカじゃなかったのか?」
我はミレに確認する。何人も最強が居るはずがない。そもそも、さっきの魔法の威力だと、セッカよりも弱いと思うが?
「そのはずだけど……」
「はっ、時代が変わったんだよ!」
「時代の流れって早いんだな」
ノロイも呆れているようだ。そして、ゴウケツを指差す。
「ああ、ちなみに、その黒焦げをギルドに持っていけば小金貨1枚になるぞ」
「え? 本当? じゃあ、行ってくるわ! フレイム・フライ」
エンカはゴウケツの燃え残っていた服を掴むと、魔法で飛行する。足の裏から炎が出て煙を吐きながらギルドに向かって飛んでいった。
「何しに来たのだ? あいつは」
「さあ?」
我達は何事も無かったかのように先に進むことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます