第18話 魔王、盗賊に囲まれる

「見た目はガキでしたが、明らかに強さが桁違いでした。私の魔法にあっさりと対抗しましたし」


「むぅ、それは大問題だな。例えば、お前の強さを100としたら、そいつの強さはどれくらいだと思う?」


「わかりません」


「分からないだと?」


「はい、全く本気を出していないようでしたので」


セッカは言いたくなかったのか、苦悶の表情をしている。四天王を名乗るものとして、自分が強さすら測れないのは恥だと思ったのだろう。


「はっ、負けたいいわけか? オバさんはみっともないな!」


「なんですって! では、エンカが行けばいいでしょう」


「いいだろう。いいよな? 親父?」


「セッカがあっさり負けるような奴にお前が勝てるはずがないだろう」


さっきの話ではないが、セッカを100とすればエンカは50かよくても70程度だろう。セッカが勝てなかった相手にエンカが勝てるとは思えんぞ。


「何だと! 私の方がセッカより強いんだ!」


エンカはそう言うと、許可も出していないのに勝手に出て行った。誰に似たのかプライドばかりが高くなりおって……。


「はぁ、我が娘ながらわがままが過ぎる」


「しかし、早急に対策する必要があるかと」


とりあえず、エンカに見張りをつけることにして対策を練ることにした。それにしても、強い以外の情報が無いのにエンカはどうやってそいつを見つけるつもりだ?



「はぁ、はぁ、ちょっと、はぁ、はぁ、スピードを下げて、はぁ、はぁ、くれない?」


我が後ろを見ると、はぁはぁ言っているミレと、顔が汗か涙か涎か分からないようなライカが見えた。


「おえ、げほっ、み、水……」


「ウォーター・シャワー」


我はさすがに見かねて弱い水をライカの頭からぶっかけた。これで少なくとも涙と涎の跡は見えなくなっただろう。


「ありがとう……」


ライカはその水を飲みながら、倒れこむ。まあ、精神はともかく体は8歳児なのだから、これだけついてこれたことを褒めるべきだろうか。褒めたら調子に乗るか?とりあえず、休憩の提案をしてみるか。


「ノロイ、少し休憩したらどうだ?」


「そんな暇はないし、必要も無い」


「わ、私からもお願い」


ミレも休憩に賛成した。ミレもギルド員だけあって体力はあるのだろう、今の間だけで呼吸も結構落ち着いたようだ。


「あんたたち、何でそんなに体力があるのよ」


「はあ? タフネス・ヒールがあるからに決まっているだろうが」


「そうだった! 私にも使ってよ!」


「仕方ないな、マオ、使ってやれ」


「タフネス・ヒール。ライカにはクリーンもかけてやるか」


倒れているライカにも魔法をかけてやると、荒かった呼吸が元に戻った。ついでに汗と涎まみれの服もきれいになった。


「相変わらずすごいわね、あっという間に元気になったわ!」


「ギルド員なのに魔法も使えないのか?」


「そんなに万能なら、ギルド員なんてやらずにもっと他の事をしてるわよ!」


「確かに」


「よぉ、そこの冒険者たち、金だしてくんない?」


声のした方を見ると、休憩中にいつの間にか盗賊団に囲まれたようだ。見えているだけでも10人は見える。装備は大したことは無いな。


「こっちは20人もいるんだ。抵抗しないで金を出せ。ああ、俺的には女は抵抗するぐらいが好みだがな」


「げひひひひ」


「うわ、めんどくせーのにあったな。休憩した責任だ、お前たちで何とかしろ」


ノロイはそういうと、棺桶の中に隠れる。


「おい、あいつ女どもを残して一人で隠れやがったぞ! はっはー、みんな、こいつらの身ぐるみを剥いじまえ!」


うぉぉと向かってくる盗賊に、ミレは格闘技で、ライカはライトニングで対抗する。我はウィンド・フライを唱えると、空中でホバリングする。


「あの女、空を飛んでやがる! 弓使い、撃ち落とせ!」


魔法を使えるやつがいないのか、弓矢を飛ばしてくる。当たり所が悪かったら死ぬぞ? まあ、当たるわけがないが。


「ウォンド・アロー・ホーミング」


我はすべての弓矢を風の弓で撃ち落とす。照準を付けるのが面倒だったので、今回は少し魔力を多めに使って自動にする。一番近い目標を勝手に攻撃する魔法だが、敵味方関係なく狙うから方向には気を付ける。


「きゃぁ!」


ミレを見ると、体力が切れてきたのか劣勢のようで、相手のナイフがかすったようだ。一旦距離を取っている。ノロイの方を見ると、棺桶に盗賊が攻撃しているが、防御魔法でもかかっているのか、剣で斬りつけられても表面ではじいている。ライカは今までの憂さ晴らしをするように、ライトニングで盗賊を黒焦げにしている。


「この魔法使いの赤髪の子供だけ強いぞ! 囲め!」


我はミレにタフネス・ヒールをかけてやる。ライカは……まだ大丈夫そうだな。


「ラージ・ライトニング・サークル!」


ライカは我ごとライトニング・サークルで攻撃すると、ほとんどの盗賊がしびれて動けなくなった。この程度なら全身に魔力を込めるだけで大丈夫だな。


「我を巻き込むでない」


「はっ、この程度の魔法が効くとは思ってないよ」


まあ、実際効いてないが。でも、後ろのミレは痺れているぞ。我はミレにヒールを使って治してやる。


「あ、ありがと」


まだ少し痺れているようだ。


「終わったか?」


ノロイが棺桶を開けて顔をのぞかせている。のんきに欠伸までしている!


「お前も参加しろよ!」


ライカがそう怒鳴る。ミレも口には出さないが、うんうんと頷いている。我はもともとあてにしていない。


「俺の代わりにマオが参加しているだろ? あいつは俺の人形なんだから、俺が参加しているも同然だ」


「そういう問題じゃない!」


我は、ノロイに何を言っても無駄だと思っているので静観する。ミレは、何か使えるものが無いか、痺れて動けない盗賊相手に盗賊行為をしている。


「バード・コンタクト」


ミレは鳥を召喚すると、「この場所に盗賊が居るので捕まえるように」とギルドに報告した。

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