第17話 魔王

ライカは、ノロイのマントにしがみついているが、ずるずると引きずられていく。


「つーれーてーけー」


ノロイは、ポケットから人形を取り出すと、右腕を折った。人形と同じようにライカの右腕もゴキリと折れる。


「ぎゃーっ」


ライカはノロイのマントを離したが、地面をゴロゴロと転がって叫んでいる。


「やべ、やりすぎた。マオ、ヒールよろしく」


いや、この傷はヒールじゃ治らんだろ。骨折となると中級のヒールだな。


「……ミドル・ヒール。おぬし、大丈夫か?」


ライカは、「ぐすっ、ひぐっ、おえっ」と嗚咽を漏らし、顔面が涙と鼻水と涎で大変な事になっている。傷が治り、痛みはなくなったようで、しばらくして泣き終わったようだ。


「治してくれて、ありがとう」


ライカは我にお礼を言うと、ノロイにくっつくのを諦めて今度は我にくっついてきた。さすがに、我もひきはがすのがためらわれる。


「ノロイ、連れて行ってやったらどうだ?」


「やだ。食費、宿泊費、その他もろもろ金がかかるうえに、足手まといだろ」


「それ以前に、私は娘を渡さない!」


ライカの父親が、いい顔でそう言う。


「ごめんね、お父さん。ライトニング・タッチ」


「ぎゃあ!」


ライカの手が父親の手に触れると、一瞬火花が飛び散ったように見えた。ライカの父親はビクンと痙攣しながら気絶した。


「我が言うのもなんだが、いいのか?」


「いいのよ。私はもう精神は大人なんだし、親離れするわ! あと、連れて行ってくれないなら、勝手についていくから!」


「好きにしろ」


それだけ言うと、ノロイは歩いていく。我もそれについていく。その後ろにミレがついてきて、最後にライカがついてくる。なんだ、この不自然なパーティは。



その頃、魔王城では


「何? セッカが負けただと?」


玉座に座った魔王が、部下の魔族から報告を受けている。部下は非常に言いにくそうに報告する。


「はっ、本人の弁では、たまたま遭遇した旅人に負けたそうです」


魔王はそれを聞くと不機嫌な顔になり、部下も委縮するが、報告を聞かないわけにもいかないため、魔王は引き続き部下に尋ねる。


「それで、本人はどうした?」


「重傷を負っているため、現在ヒールを使えるものが来るまで別室で待機しております」


「四天王最強のセッカが重傷を負うとは……」


魔王がうなりながら浮き上がりかけた腰を下ろすと、いつの間にか、謁見の間の入り口の扉から、髪の赤い勝気そうな少女が現れ口をはさむ。


「はっ、あのオバサンも弱くなったんじゃないか?」


「むっ、炎花(エンカ)か」


エンカとセッカは属性が合わない為か、性格も合わない。いつも何かと口論しているのだが、エンカにも一応報告内容を知らせる。


「最古の魔王のクリスタルを確認させるために向かわせたのだが、その途中で旅人に負けたようだ」


「人間に負けるなんて、マジで四天王最弱になったんじゃないの? ハハッ」


エンカが馬鹿にしたように笑う。


「聞き捨てならないわね」


声のした方を見ると、セッカが治療を終えたのか謁見の間に入ってきていた。


「許可なく入室してしまい、申し訳ございません。それで、ご報告が」


「許す。そういえば、エンカに入室の許可は出していないぞ」


「じゃあ、許可をくれ」


「少しは敬え! ……まあいい、許可する。セッカ、報告をしろ」


「あれは旅人を装った最古の魔王の可能性があります」


「なんだと!」


魔王の大声が魔王城に響いた。

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