第17話 魔王
ライカは、ノロイのマントにしがみついているが、ずるずると引きずられていく。
「つーれーてーけー」
ノロイは、ポケットから人形を取り出すと、右腕を折った。人形と同じようにライカの右腕もゴキリと折れる。
「ぎゃーっ」
ライカはノロイのマントを離したが、地面をゴロゴロと転がって叫んでいる。
「やべ、やりすぎた。マオ、ヒールよろしく」
いや、この傷はヒールじゃ治らんだろ。骨折となると中級のヒールだな。
「……ミドル・ヒール。おぬし、大丈夫か?」
ライカは、「ぐすっ、ひぐっ、おえっ」と嗚咽を漏らし、顔面が涙と鼻水と涎で大変な事になっている。傷が治り、痛みはなくなったようで、しばらくして泣き終わったようだ。
「治してくれて、ありがとう」
ライカは我にお礼を言うと、ノロイにくっつくのを諦めて今度は我にくっついてきた。さすがに、我もひきはがすのがためらわれる。
「ノロイ、連れて行ってやったらどうだ?」
「やだ。食費、宿泊費、その他もろもろ金がかかるうえに、足手まといだろ」
「それ以前に、私は娘を渡さない!」
ライカの父親が、いい顔でそう言う。
「ごめんね、お父さん。ライトニング・タッチ」
「ぎゃあ!」
ライカの手が父親の手に触れると、一瞬火花が飛び散ったように見えた。ライカの父親はビクンと痙攣しながら気絶した。
「我が言うのもなんだが、いいのか?」
「いいのよ。私はもう精神は大人なんだし、親離れするわ! あと、連れて行ってくれないなら、勝手についていくから!」
「好きにしろ」
それだけ言うと、ノロイは歩いていく。我もそれについていく。その後ろにミレがついてきて、最後にライカがついてくる。なんだ、この不自然なパーティは。
♦
その頃、魔王城では
「何? セッカが負けただと?」
玉座に座った魔王が、部下の魔族から報告を受けている。部下は非常に言いにくそうに報告する。
「はっ、本人の弁では、たまたま遭遇した旅人に負けたそうです」
魔王はそれを聞くと不機嫌な顔になり、部下も委縮するが、報告を聞かないわけにもいかないため、魔王は引き続き部下に尋ねる。
「それで、本人はどうした?」
「重傷を負っているため、現在ヒールを使えるものが来るまで別室で待機しております」
「四天王最強のセッカが重傷を負うとは……」
魔王がうなりながら浮き上がりかけた腰を下ろすと、いつの間にか、謁見の間の入り口の扉から、髪の赤い勝気そうな少女が現れ口をはさむ。
「はっ、あのオバサンも弱くなったんじゃないか?」
「むっ、炎花(エンカ)か」
エンカとセッカは属性が合わない為か、性格も合わない。いつも何かと口論しているのだが、エンカにも一応報告内容を知らせる。
「最古の魔王のクリスタルを確認させるために向かわせたのだが、その途中で旅人に負けたようだ」
「人間に負けるなんて、マジで四天王最弱になったんじゃないの? ハハッ」
エンカが馬鹿にしたように笑う。
「聞き捨てならないわね」
声のした方を見ると、セッカが治療を終えたのか謁見の間に入ってきていた。
「許可なく入室してしまい、申し訳ございません。それで、ご報告が」
「許す。そういえば、エンカに入室の許可は出していないぞ」
「じゃあ、許可をくれ」
「少しは敬え! ……まあいい、許可する。セッカ、報告をしろ」
「あれは旅人を装った最古の魔王の可能性があります」
「なんだと!」
魔王の大声が魔王城に響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます