第14話 魔王、牢屋に入れられる
「何をする!」
我はウィング・フライで距離を離す。ライカの魔法は我の近くにあった木に当たり、木はメリメリと折れて倒れた。
「私の邪魔をしないでもらえる?」
「ゴブリンに連れ去られたのではなかったのか?」
「さっきまでのライカはそうだったかもしれないわね。でも、今の私は、ライカであってライカじゃない」
「意味が分からぬな」
「前世の記憶がやっと蘇ったの。私の前世は、天才魔術師だったのよ! ライトニング・アロー!」
ライカの手から、先ほどより早い雷撃が飛ぶ。ウィング・フライでは回避が間に合わぬな。仕方が無い。
「天才魔術師でこの程度か?」
我は雷の矢を右手で掴む。少しやけどしたが、ヒールで即時に治す。余裕ぶってはいるが、普通に当たったのと大して変わらんな。
「何! 私の雷撃が受け止められるなんて!」
「前世の記憶がどうとかよくわからぬが、とりあえずクエストのために連れ帰る! パラライズ・フォグ」
我を中心にして黄色い煙が広がる。ライカは回避しようとするが、回避する場所が無いようで煙を吸ったようだ。
「ぐっ、毒か!」
ライカはガクリと膝をつく。しばらくその状態で耐えていたが、バタリと倒れる。
「殺したらダメだろうが。麻痺させただけだ」
こいつ、本当に天才魔術師だったのか? 雷しか使わないし、麻痺は知らないし。
「すべての記憶が戻りさえすれば……」
だんたんと声が小さくなり、麻痺で動けなくなったライカを担いで、ギルドに戻る事にする。ウィング・フライで森の上を飛べば迷うことも無いしな!
「クエスト達成だ!」
我がギルドに入るなりそう叫ぶ。我は担いだライカを床に下すと、父親が飛んで来た。
「ライカ!……ライカ?」
ライカは、白目をむいて泡を吹きながら、ビクンビクンして失禁している。
「アンチ・パラライズ……クリーン」
我はやりすぎたと思い、すぐ麻痺を解いた。ついでに、清浄魔法を唱えて、ライカの失態を無かったことにした。みんなも見なかった事にしてくれたようだ。
「お父さん! 私、ゴブリンに攫われて……そのあと、こいつに殺されそうになったの!」
「なんだと! どういう事だ!」
「我は殺そうとはしておらんぞ。実際、こうして連れ帰ってきたではないか」
父親は、娘の言う事しか聞こえないのか、我をにらみつけてくる。
「やっぱり、めんどうな事になったな」
ノロイはそうつぶやく。ミレは判断が付かないのか、今は明確な態度を取らないようにしているようだ。
その後、ギルドの個室に呼ばれ、ギルド員による聞き取り調査が行われ、調書が作られた。
ライカが訴えたのは、ゴブリンに連れられているときに、我が現れて攻撃してきたというもの。
我の訴えは、到着したらすでにゴブリンが倒されており、ライカに攻撃されたため、やむなく麻痺させたというものだ。
しかし、父親のライカが魔法を使えるわけがないと言う事や、実際に見た目通りの年齢のフリをしているライカに疑いが懸ることは無かった。
結果として、我は逃げられないように牢屋へ1日投獄され、念のため現地調査を行うという事になった。投獄と言っても、まだ疑惑の段階なので面会は自由に出来る。ノロイが様子を見に来てくれた。
「どういうことだ! なぜ我よりもあの娘の言う事が信じられるのか!」
「運が悪かったな。父親が貴族と繋がりのある大商人だったようだ」
我が出て行った後の話を、牢屋の前でノロイが教えてくれる。まずは、なぜ森に居たかと言うところからだった。
ライカ達は、他の街からアイズの街へ来る途中に森の中で運悪く強い魔物と遭遇し、護衛がひきつけている間に逃げることができたが、逃げた先で今度はゴブリンに襲われたらしい。
「強い魔物というのは、おそらくセッカが連れてきていたのだろうな」
「では、護衛の生存も期待薄だな。そもそも、我にライカを攻撃する動機が無いというのに。ところで、ライカは前世の記憶が戻ったとか言っておったぞ」
「ほぉ、それは興味深いな。俺の方でも少し調べてみるか」
「我はここに居るのが飽きたら脱出するから、心配するでないぞ」
「勝手に出るなよ! 余計なことをしでかさないように、ここから出られないよう念のために制限をかけていく!」
人形の体だからか、最悪飯を食わなくてもいいし、トイレもしない。風呂も入らなくていいが、腹が減った気にはなるから飯だけは食いたいのだが。
魔力を封じられた我は一般人程度の能力しかないので、大人しく牢屋で待つことにした。
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