第12話 魔王、冒険者登録をする

「ふーん、話す気がないならもういいですよーだ。とりあえず、ギルドへ行くわよ」


我達はめんどくさいと思ったが、礼金を払うと言われ、旅をするにも金が必要なので仕方なくギルドへ行くことになった。


ギルドは街の入り口に近い場所に設置されていた。冒険から帰ってきた冒険者が、すぐに換金できるようにするためと、汚れたままの冒険者に街の中を歩き回らせないためらしい。

外観もこの間の宿屋と大して変わらないように見える。扉を開けて中へ入るが、特に冒険者にからまれることもなくカウンターに着くことができた。宿屋の様に誰かが我の尻をなでたら今度こそ木端微塵にしてやる。


「ようこそ! 私はギルドの受付をしています、ミミと言います」


見た目が150cmくらいの小柄な女性が、営業スマイルでニコリと微笑んで挨拶してくる。受付をしているだけあって我ほどではないが可愛い。いや、比べたくは無いが。


「本日は、どのようなご用件ですか?」


「ああ、こいつらは私の客だから、いいのいいの。ところで、ギルマスいる?」


「ギルドマスターでしたら、いつもの執務室にいると思います」


「わかった、執務室ね。ほら、あんたたちいくわよ」


ギルド嬢の横を通り、木製の階段を上り、一番奥の部屋が執務室だった。中へ入ると、40歳くらいの男が居た。元冒険者だったのだろう、顔に傷があるしガタイがいい。

その隣には、受付のミミと同じ服をした女性がいるが、こちらはギルマスの秘書の様だ。


「おう、ミレか。調査は終わったのか?」


「その事で報告があるわ」


「わかった。おい、茶を入れてやれ。さあ、こっちに座れ」


ギルドマスターは秘書にお茶を入れさせると、高級そうなソファーへ案内した。普段は冒険者に座らせるよりも、もっと立場の高い客を相手にするときに使っていると思う。

少なくとも、我達であれば別室に連れて行かれそうなものだが、ミレが居るからか?


「で、こちらさんは誰だ?」


ギルマスは値踏みするようにノロイを見ている。ミレがわざわざギルマスに直接報告するために連れてきたので、不審人物を見ると言うよりも、強さを見ている感じか?


「俺か? 俺はノロイ、呪術師だ」


「我は、最古の魔王と言われていたが、今はマオと呼ばれている者だ」


「はっはっは、面白いお嬢ちゃんだな、旅の芸人か?」


「芸人ではないわ!」


「ギルドマスター、この子が魔王かどうかは置いておいて、あの四天王の雪花を退けたのです」


「何! 四天王最強の雪花を退けただと!」


えっ、あいつ四天王最強だったの? あいつは四天王の中でも最弱! とか言われてるのかと思っていた。だって、最初に会った四天王が最強とは思わないだろう?


「はい、それもけっこうあっさりと」


「詳しく話を聞こうか」


それから、どうやって撃退したかを話した。一応、我が人形である事なども出来る限り詳しく話している。ノロイは面倒ごとにこやつらを巻き込む気まんまんだな。


「ほぉ、呪の人形、ねぇ」


「おう、俺の最高傑作だ。触るなよ?」


「ふはははは、封印さえ解ければ現魔王だろうが、倒してみせるぞ!」


「現魔王より危険なやつを解き放つわけ無いだろ!」


ちぃ、ならば魔王を倒してくれ! って言うかと思ったのに。


「とりあえず、冒険者登録するか? お前たちならすぐにS級にもなれそうだ」


「冒険者になる利点ってあるのか?」


「まず、でかい街の出入りが楽になる。冒険者用のタグが身分証になるからな。あとは、活躍すればいろいろな所から声がかかる。強いやつは騎士や貴族の護衛なんかになるぞ」


「それはそれでめんどいな」


「我は、うまい飯が食えるなら、なってもいいぞ!」


「じゃあ、マオちゃん、登録しましょう!」


いつの間に用意したのか、ミレは申込書を持ってきていた。書く場所は名前と出身地と職業と年齢か。我の職業と年齢って何だろうな? とりあえず、現状と生まれてからの年数を書くか。


「えーっと、名前:ディエゴ、出身地:魔界、職業:無職、年齢:大体1500歳、これでいいか?」


「よくないわよ! どこの世界にそれで通すギルドがあると思ってるの?!」


「我は嘘はついてないが……」


「話したくないならいいわ。名前はマオ、出身地はこの街、年齢は見た目から14歳、職業は……こっちにきて」


我はミレについていくと、水晶のようなものがあった。本当の事を書いたのにダメだったと言う事は、ノロイの話もきっと信じられてないだろうな……。


「これに触れて。触れたら色が変わるわ。戦士なら赤、魔法使いなら青、回復職なら緑と色でわかるの」


我が水晶に触れると、水晶は七色に光った。


「これはなんだ?」


「まさか、すべての職業に適性があるとでもいうの!?」


「ふむ・・、主に魔法を使うから魔法使いでよいのだが」


「じゃあ、名前:マオ、出身地:アイズ、職業:魔法使い、年齢:14歳で登録するわね」


「ミレがそれでいいなら、それでよいわ」


「ノロイは、出身地:不明、職業:呪術師、年齢:18歳と」


ちなみに、ノロイは青と緑の中間と言う、珍しいものらしい。呪術師自体は職業として存在するらしいな。それにしても年齢が・・。


「ぷぷ、その見た目で年齢18歳だったのか。我は30歳くらいかとおもっておったわ」


「あ? 28歳だけど文句あるか?」


「なんで登録に嘘を書くのだ!?」


「まあ、冒険者で本当のことを書くやつの方が少ないけどな」


ギルドマスターはため息混じりに教えてくれる。


「低ランクはほぼ身元不明なやつばっかりだからな。だから、Fランク、Gランクあたりは関所や街の入り口で一応身元確認される。だが、Eランクからは身元確認が要らなくなる。Eランクは1年間普通にクエストをこなせば誰でもなれるから、本当に身元が不明なやつも、身元を隠したい奴も取りたがる」


「あなたたちは、私の推薦ってことで、いきなりCランクよ! 逆に、Cランク以上は自力で上がるしか無いんだけどね」


金に物を言わせてギルマスに賄賂を渡し、実力不足なのに高ランクという者が居た時代があったらしい。当然、いい職に就いたけれど護衛なのに弱いわ旅の経験は無いわでひどいことになったらしい。


「まあ、四天王を退けれるなら、最初からAランクの実力はあるはずだから、あげてやりたいが、クエストの実績なしでギルマス権限でつけれるのはCが最高だからな」


「そして、この私、ミレがあなたたちの専属ギルド員になるわ!」


「へぇ、いらんけど」


「ちょっと! 専属が付くのなんて、普通は実績のあるBランク以上じゃないとだめなんだからね!」


「ミレが一緒だと、何かいいことがあるのか?」


「いい質問ね、マオちゃん。私がいると、素材が高く売れたり、クエストの実績評価が高くなったりするわ! あと、割引や優遇が受けやすくなるのよ! さらに、飲食店で裏メニューが頼めるようになるわ!」


「それはすごい! 我はミレと一緒に行くぞ!」


「勝手に決めるな! ちっ、足手まといだと思ったら置いていくからな!」


「ところで、お前たちはどこへ向かっているんだ?」


「あ? 魔王城に決まっているだろ」


「いや、我も初耳だが。」


「世界征服するなら、魔王を倒すのが一番だろ?」


「うむ、確かに。じゃあ、目指すは魔王城か」


「あなたたち! もっとまじめに話しなさい!」


いや、我達はこれでも本気なんだが……。

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