第10話 四天王、雪花

「むっ、誰か近づいて来るぞ?」


我が時々使っている探知魔法に反応があった。この反応の大きさから言うと人間なのだが、魔法で空を飛んでいるのですぐこちらに着くだろう。


ただ、向こうはこちらに我達が居るとは思っていないようで、ただ道に沿って真っすぐに進んでいるだけの様だ。ふむ、向こうがこちらに気づいたようだ。


「オホホホホ、こんなところに矮小な人間が居るわ」


現れたのは、髪が綺麗な青色の美女で、我達と違う服を着ている。まるで布を重ねたような服だ。


「誰だ? こんな夜中に騒がしい。マオ、ちゃんと見張っていろ!」


「うーん……、だれ、うるさいなぁ。眠れないじゃない。あれ? その和服姿の青髪は四天王の雪女!」


ミレは向こうを知っているようだ。あの服は和服と言うのか。


「その呼び方はやめて頂戴。私には雪花(セッカ)という名前がありますの」


野営をする時に言っていた何でもは言い過ぎた、撤回する! さすがの我も0.1%の魔力制限下での四天王相手は無理だろう。


「じゃあ、任せたぞ、マオ」


「ちょっと待て! 四天王だぞ! おそらくオーガよりも強いだろ!」


「ああ、そうか、じゃあ1%解放で。お休み」


ノロイは我の魔力を1%解放すると、棺桶に入らずにその場で寝た。こいつ、寝ぼけているんじゃないか?


「オホホ、面白い男ね。永遠にお休みなさい。アイス・サークル」


セッカは着物の服の袖を振ると、それに合わせた範囲が凍り付いた。周りがあっという間に白い世界になる。


「マオちゃん、逃げましょう!」


ミレは真っ先に逃げ出す。よし、我も逃げるか。


半分凍り付いているノロイを置いて、2人で逃げ出した。


「はぁ、はぁ、ここまでくれば大丈夫かな?」


「もう体力が切れたのか? まだ1kmも離れて無いだろう。タフネス・ヒール」


我はミレの体力を魔法で回復してやった。自分の体力回復なんて基本中の基本ではないのか?


「え? 疲れが取れた! マオちゃん、ギルドで働かない?!」


「それよりも、追いつかれたようだぞ」


ほぼ凍り付いているノロイを引きずりながら、氷の道をすべるように向かってくる。何故かは知らないが、ノロイをこちらに投げ捨てる。


「逃げなくてもいいじゃない、ちゃぁんと殺してあ・げ・る・か・ら」


白い息を吐きながら、頬を紅潮させている。ノロイがギギギと油が切れたようにゆっくりと我に手をかざす。


「マ、マオ・・9%で何とかしろ。距離制限も解除する」


ノロイが死にかけているようだ。9%ならば上位の回復魔法が使えるはずだ。せっかくだからエクストラ・ヒールで回復させてやろう。


回復したノロイは、さっと距離を取ると、木の陰に隠れた。


「何をしたのかしらないけれど、もう逃げないのね? 追いかけっこは終わりかしら?」


「うむ、遊んでやるから向かってこい」


我はひとさし指をクイッと曲げて挑発する。まさか、追われている獲物に挑発されるとは思っていなかったのだろう。先ほどとは違う意味で顔を紅潮させている。


「いい度胸ね、お望み通り遊んでもらおうかしら? ダイヤモンド・ダスト」


この魔法は先ほど周囲が凍り付いたより数段上の威力で、樹木が一瞬で凍ると砕けていく。普通の人間がこれをくらえば氷柱か粉々かのどちらかだろう。しかし、今の我には大した魔法ではない。


「この程度の威力ならこれで十分だな。フレイム・サークル」


我はダイヤモンドダスト以上の範囲を一瞬で燃やし尽くす。凍り付いていた樹木すら一瞬で灰になる。


「あ、やば、また森に燃え移った」


「あほか! 森で炎は使うな!」


「ウォーター・サークル」


我は燃え移った火を消す。とっておきの魔法と違ってこれは同威力だから、前とは違ってすぐに鎮火した。そして、火以外の魔法で攻撃する事にした。


「ウィンド・ランス」


セッカに向かって渦巻いた風の槍を飛ばす。スピードはいまいちだが、貫通力はある風の槍だ。


「この程度、アイス・シールド。何! 私の氷の盾が一瞬で砕けるなんて!」


セッカが張った氷の盾は、あっさりと貫通する。しかし、狙いはずれた様でセッカ自身には当たらなかった。


「ふはははは、今の我ならドラゴンでも余裕で倒せるぞ! ウィンド・ランス・トリプル」


我は3つの風の槍を同時に飛ばすと、セッカは避けきれず左肩をかすり、風圧で吹き飛ばされる。距離が離れた事をいいことに、セッカは逃げに入る。


「ちぃ、覚えてなさい! アイス・ストーム!」


セッカはそういうと、風雪で自分を覆うと、見通せない間に逃げた様だ。


「逃げられたか。まあ、この程度ならまた来ても大丈夫だがな!」


「とりあえず、また0.1%に封印。飛距離も1mに戻すわ」


ノロイがセッカの撃退を見届けた後、我にまた手をかざした。


「なぜだ! ぐぬぬぬ」


我は地団太を踏むが、すでに魔力がほとんど封印されているので、ちょっと地面が凹んだだけだ。


「あのー、つかぬ事を伺いますが、あなたたちって何者?」


ミレが右手を挙げて質問してくる。まあ、今の戦闘を見て一般人には見えぬだろうな。だが、ノロイは知らんふりをして返事をする。


「ただの旅人だ」


「嘘だ!」


「我は魔王だ」


「嘘だ!」


「いや、本当だが……」


何を言っても信じてもらえぬなら説明するのも面倒だな。もういっそ眠らせて運ぼう。


「ディープ・スリープ」


ミレは魔法にかかると、ゴロリと地面に転がる。眠っている間に場所を移し、起きたときに夢でしたっていうオチで行こう。

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