第9話 ギルド調査員のミレ

「先ほどは助かりました!」


女性は丁寧にお辞儀をしながらお礼を言う。


「こちらこそ、火を広がらないように手伝ってくれてありがとな」


ノロイは大事にならずに済んでほっとしたのか、いつもよりも機嫌がいいようだ。


「我は反省はするが、後悔はしない!」


「後悔もしろ!」


ノロイは我の魔力を込められないように制限すると、拳骨を頭に落とした。


メキョ


「ぐぬぉぉお! してはならぬ音がしたぞ!」


我は痛みにのたうち回る。やばい、意識が遠のいできた。


「ほら、0.1%解放してやるからヒールしとけ」


さすがに壊れては困るのか、一応回復できるようにはしてくれた。


「ヒール。覚えておれ。」


我がジロリとノロイを睨んでいると、女性が話しかけてきた。


「仲がいいんですね、夫婦ですか?」


「自分でいうのも嫌なのだが、どう見ても我は妹くらいではないか?」


「いえ、全く似ていませんので」


「こいつは俺の下僕だ! ふはははは」


「何が面白い! ウィンド・カッター」


我の風の刃は再び飛距離を制限されているようで、1mで消えた。また魔力を制限されては困るので、ノロイを攻撃するのはこのあたりでやめておこう。


「ところで、どかへ向かう途中だったのでしょう? どこへ向かっていたのですか?」


「俺たちは、この森を抜けて次の町へ行くつもりだ」


「私もそちらに向かう予定です。お礼もしたいので、私について来てもらっていいですか?」


「あ? こっちの街の方が近いからそっちへ行け。俺たちは先を急ぐのでな。今払えるお礼だけでいい」


ノロイはさっき居た街の方を指さす。我達はそちらへ着いてきてくれと言われても問題を起こしたばかりなので行く気はない。


「でも、私一人ではこの森を抜けるにしても危険ですし……」


「じゃあ、どうやってここまで来たんだよ」


「護衛の冒険者を雇っていたのですが、全滅してしまって……」


「それはご愁傷様、さあ、金を出して街へ帰れ」


「……結構冷たいんですね?」


「ノロイが温かいところなんて所なんて、我も見たことがないぞ」


「ほぉ、そういうならマオは晩飯抜きだな」


「すまぬ、失言だった!」


やいのやいのと話しているうちに、女性は決心したのか、急に大声を出した。


「決めました! このまま私もついていきます! 何があろうとも!」


「なんでだよ!?」


「我達に着いてきてもいいことは無いと思うぞ」


これは本心だ。間違いなく今以上の問題は起こると思う。


「自己紹介が遅れました、私の名前はミレです! ギルド調査員をしているのですが、森の調査をしていて先ほど言った通り、全滅しました。報告のためにもアイズの街へ戻らなければならないのです」


「俺たちにメリットがないんだが」


「どうせアイズへ行くんでしょう? 護衛しなくてもいいし、報酬も出すわ!」


「我はうまい飯が食えればいい」


「じゃあ、マオちゃんにはおいしいお店に連れて行ってあげるわ!」


「よし、我に着いてこい!」


「ちっ、メシなんかにつられやがって」


ノロイも文句を言うが、別に損するわけではないので反対はしないようだ。


しばらく森を次の街へ向かって歩いていくと、暗くなってきたので野宿の用意をする。用意と言っても、薪を拾ってきて魔法で火をつけるだけだが。


ノロイは慣れているのか、森から食べられそうなキノコや木の実、野草などを集めてきた。ミレもギルド員と言うだけあって慣れているのか、ノロイ同様に集めてきた。


我か? 我は火の番だな。何が食えるかなど、食ったことが無いから知らぬ。一応、火を通して食ったが、味がないから美味しくはないな。やはり、前の街で食材だけでも確保しておくべきだった。


「とりあえず、今日はもう寝るから、マオ、見張りを頼むわ」


「うむ、任せておけ、何が来ても倒しておいてやろう!」


ノロイはそう言うと、棺桶の中へ入っていった。ミレも一応野宿になれているのか、木にもたれかかって寝るようだ。


我はアンチ・スリープの魔法が使えるので、多少は眠らなくても大丈夫である。

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