第8話 魔王、少女を助ける

「ふむ、魔界以外にもマンドレイクが生息しているのか?」


「いや、どう聞いても女性の悲鳴じゃないか?」


ノロイは枝を集め、集めた枝をロープで縛って担ぎやすいようにしている。


「そうか、マンドレイクじゃないなら用は無いな」


「そうだな、先を急ぐか」


我はまた枝を集めに行くとするか。そう思った時、森の中から駆け出してくる女性が見えた。女性は二十歳くらいで茶色の長袖長ズボンに帽子をかぶっている。髪は茶髪でポニーテールにしている。


「た、助けてください!」


助けを求めてきた女性の後ろを見ると、ゴブリンやホブゴブリンが追いかけてきている。女性が追いつかれていない所を見ると、どうやら足は遅いらしいな。


「ほぉ、良く逃げられたな」


ノロイは感心している。この辺りのゴブリンは手が器用なのか、弓やナイフを持っている。ホブゴブリンもロングソードを持っているではないか。魔界のゴブリンなぞ、拾っただけの木や投石する程度だというのに。


「あー、ここを通るやつから装備を奪っているのか?」


ノロイも同じようにゴブリンの装備について考えていた様だ。さすがにゴブリンの小柄な体格が冒険者の装備に合わないのか、皮の鎧を着て武装しているのはホブゴブリンだけだ。


「ちょっと、助けてって言ってるでしょ!」


女性はゴブリン達の格好について雑談している我達に近づいてくる。わざと無視していたのに、なぜ我達の方へ来るのだろうな。ああ、助けてほしいだけか。


「助けるとは言ってないだろ」


「えぇ! 人を助けるのは冒険者の義務ですよ?!」


後で知った事だが、冒険者はギルドの義務で人を襲っているモンスターを退治しなければならないらしい。ただ、ごく一部の冒険者は見捨てて持ち物を奪うという盗賊まがいの事をしていると言うが、ばれたら資格剥奪だ。


「俺達は旅人だ、冒険者じゃない」


嘘ではないが、正確ではないな。我達の立ち位置は後々人類の敵となりそうなので、どちらかというとモンスター寄りだな。


「では、お礼でもなんでもするので、助けてください!」


「じゃあ、金でももらうとして、助けてやれよマオ」


ノロイは耳をほじりながら我に振る。


「お主がやるんじゃないのか?」


「俺が戦うイコールお前が戦うってことだろうが」


「解せぬ」


「え? こんな小さな女の子が戦うんですか!?」


女性の視線は我とノロイを行ったり来たりしている。そして、モンスターたちもどうすればいいのか迷っているのか、襲ってくる様子はない。人数が増えたので警戒しているのか?


「ああ、そいつ魔法使いだからな」


解せぬが、どうせ戦うのはもともと我になりそうだと思っていたから別にいいか。


「ウィンド・カッター」


馬鹿の一つ覚えみたいにこればかり唱えるが、森の中で火を使う訳にもいかぬしな。


しかし、風の刃は1m程で消えてしまう。


「おい、距離制限を解け。敵まで届かぬではないか」


「いちいち解除したり制限したりするのはめんどうだろ、自分からさっさと突っ込んでこいよ」


「ぐぬぬっ」


我は仕方ないと思い、ゴブリンに近づき風の刃で首を切り裂いた。ゴブリンは魔法を見たことが無いのか無防備だったが、仲間がやられるのを見て攻撃してきた。


ゴブリンの一匹が弓を構え、弓矢を飛ばしてきた。


「ウィンド・シールド」「ウィンド・ショット」


弓矢を風の盾で防ぐと、小石を拾って風魔法で飛ばす。正確に弓を持ったゴブリンの眉間を撃ち抜いた。


ホブゴブリンは鎧を着ているので、胴体への攻撃はダメージが低いだろう。我はホブゴブリンの頭の上に飛び乗る。


「ファイア・ボム」


我はホブゴブリンの顔面を火だるまにする。しばらく顔の火を消そうとじたばたしていたが、すぐに動きを止めた。豚の焼けたいい匂いがするな……。


ホブゴブリンが倒れる前に地面へ飛び降りると、次のホブゴブリンを足払いで倒して首を風の刃で斬る。


「す、すごい!」


女性は、我の動きに見とれているようだ。気をよくした我は、ゴブリンにとっておきの魔法を使う。


「ヘル・フレイム!」


ゴブリンは一瞬で蒸発するが、魔法は地面を伝って広った段階で物理現象となり、1mの制限よりも遠距離まで届いて木に燃え移る。


「バカ野郎! 調子にのりやがって、急いで消せ!」


「う、うむ。ウォーター!」


我は火災の中心となっている地獄の業火に水をかけるが、水程度で消えるわけが無いな! 我のとっておきだし。


「あほかーー!」


結局、火が移りそうな周りの木を先に切り倒して燃え移らないようにした。


恐らく、あと3日は消えないだろうな、火。

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