第7話 魔王、制限を受ける
「今日はこの森を抜けるぞ」
ノロイが指さした森は、昼間だというのに薄暗く、道も整備されていない。それどころか、獣の遠吠えや何かわからぬ鳥の鳴き声などで不気味である。
「なぜこの森を抜ける必要があるのだ?」
「遠回りしたら、3日は余計に時間がかかるからだ」
ノロイが言うには、この森を抜けるなら2日で次の街に着くが、森を迂回するルートをとると、道は良いがものすごく遠回りなのだそうだ。
「でも、商人どもは迂回ルートを選んでいるようだが?」
我は次々と街へ入っていく馬車を指さしながら聞く。
「馬車じゃ逆に、道の整備が出来ていない森を通る利点が無いからだろ」
我は「別にどっちでもいい」とノロイについて行った。
どっちでもいい、何て言わなければよかった。後悔してももう遅いが、狼のような魔物や、くちばしが大きくて赤子くらいならばパクリと食べてしまいそうな怪鳥が襲ってきた。
「魔物の巣窟ではないか!」
「おっかしーな、魔物さえいなければ最速の道だって聞いたんだがな」
「魔物が居なければの話であろうが!」
我はノロイを怒鳴りつけるが、「あー、魔物除けのアイテム買うの忘れたわ」と無責任な発言をするだけだ。
「何とかしてくれよ、マオ」
「ならば、もう少し力の開放をしてくれ」
「えー、まさか、この程度の魔物も倒せないとか? ないわー、本当に最強の魔王様っすか? あっ、元魔王様ですか?」
我はノロイの煽りにピキリと額に血管を浮かせると、「見ていろ!」と魔力を込める。
「ウィンド・カッター・オクタプル!」
我は8本の真空の刃を周りに向かって飛ばした。
「うおぉ、あぶねぇ!」
「ちっ、かわしやがったか」
ノロイの横にあった太さ2mくらいの大木の幹が切り裂かれ、メキメキと音を立てて倒れる。我の前にいた猿の様な魔物は真っ二つになっていた。
「あ? 俺を狙ったのはわざとか? わざとなんだな?」
ノロイはそう言うと、我の頭に手を乗せる。その怒りがこもった手のひらには嫌な予感がする。すると、我の頭の上に魔方陣が展開した。
「やめろ! これ以上パワーを下げるでないわ!」
「パワーは下げない、範囲を狭めるだけだ」
我の頭の上の魔法陣が消える。特に魔力が下がったような違和感は感じない。試しに撃ってみるか。
「ウィンド・カッター」
前方にさっきと同じ魔法を唱えたが、1mほど先であっさりと消えた。
「範囲が狭すぎるぞ! 遠距離魔法の利点がないではないか!」
「あぶねーんだからしょうがないだろ。しばらくはこれでいい」
見ると、範囲30mくらいの円形状に木々が倒れたり、モンスターの血が飛び散ったりしている。さっきの魔法で辺りがひどいことになっているな。
ノロイはこの惨状で、よくかわしたものだ。
我は倒した木をさらに細かくし、焚き火用に集めた。
「そんな生の木を集めても燃えるわけ無いだろ! 燃えたとしてもはぜるわ!」
「ちっ、めんどくさい」
我はノロイに言われた通りに、落ちて渇いている枝を集めた。
しばらく野宿の準備をしていると、森の奥から「きゃーっ」と女性が叫ぶ声が聞こえた
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