第6話 魔王、捕まる
「ここは……?」
目を覚ますと、我は両手を鎖でつながれ、天井からぶら下げられていた。
足が届きそうで届かないくらいの高さだ。手首に全体重がかかっていて、意識がはっきりするにつれて非常に痛む。
「目が覚めたかね?」
声のした方を見ると、豚が立派な服を着て立っていた。
「おい! 俺の事を豚だと!」
「おや、心を読めるのか?」
「口に出していたわ!!」
失敬、我は知らず知らず思っていたことを声に出していたようだ。
「それで、これは何の真似だ?」
我は片腕に力を入れてガチャリと鎖を鳴らす。
「逃亡者を追いかけていたら、大層な美少女が居ると報告があってな、即座に捕獲させてもらった」
男は、ブヒヒヒヒと笑う。本当に豚じゃないのか?
「我をこの程度で捕まえたと思っているのか?」
我が本気を出せば、この程度の鎖など、あっさり千切れるはずだ。
「その鎖は魔術具の鎖で、魔力を通さぬぞ。その細腕で物理的に千切るのか? ブヒッ」
豚が挑発的に言うので、我は試しに力を込めるが、千切れなかった。
「ストレングス・アップ」
我は魔法を唱えるが、効果を発揮する様子はない。もしかして、我ってピンチ?
「じゃあ、さっそく……」
豚は我に近づくと、パンツに手をかけ、ずりずりと下げ始めた。
我は普通に豚の顔面に膝蹴りした。豚はブホッと言って鼻血を出しながら尻もちをついた。
「な、何をする!」
「それは我のセリフだが?」
我は鎖から無理やり手を引き抜こうとする。痛みを我慢してすれたところから血が出てきた。それが潤滑油となって片腕が抜けた。
少し涙目になりながらも、もう片方の手をゆるくなった鎖から外す。我は少しずり落ちたパンツを履き直し、血だらけになった手をすぐにヒールで治したが、思ったより痛い思いをした。
「この世に別れを告げる覚悟はできているか?」
我はこの恨みを晴らすべく指を物理的にゴキゴキと鳴らすと、思い切り豚を殴ろうと構える。
「ブヒィ、くそ、出てこい!」
豚がそういうと、どこに隠れていたのかオークが出てきた。
あれ? どっちがオークだ?
「こっちがオークに決まっているだろ!」
豚がオークを指す。また声が出ていたらしい。
「トンソク様を蹴った罪を償わせてやる。オークよ、治せないようにそいつの両腕をへし折れ!」
豚はトンソクと言うらしい。似合った名だ。
「ブゥゥゥ!」
命令を受けて、オークが突進してきた。
「ウィンド・カッター」
我が風の刃でオークの首をはねると、オークは数歩進んだ後グシャリと倒れた。
「ブヒィィィ!」
トンソクは逃げ出したが、丁度部屋に入ってきたノロイにぶん殴られて気絶した。
「どこに行ったかと思ったら、こんなところで油を売っていやがったのか」
「なぜ、我の居場所が?」
「そんなもん、盗難防止用の魔術が彫ってあるに決まっているだろうが!」
「そんなもの、どこにある?」
我は全身をきょろきょろと見渡すが、それらしきものは見当たらない。
「あ? 尻にあるだろ」
くっ、見えぬわ! 見えないなりにゴシゴシと拭いてみたが、おそらく無駄であろうな。
「で、このオークを食うのか?」
ノロイは聞く前から解体を始めていた。オーク肉はウマイからな! 丁度腹も減っていたし、火を焚いて肉を焼く。
オークを食い終わると、「今度は逃げるなよ!」と釘を刺され、街を出た。
ちなみに、トンソクはあの鎖でぐるぐる巻きにして放置しておいた。
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