第5話 魔王、逃亡する
あれ? よく考えたら、我はもう逃げればいいんじゃないか?
我はノロイを追いかけるフリをして、裏路地に入る。幸い、ノロイは後ろを気にしていないようで、我は離脱することに成功した。
「やった! これで我は自由だ!」
そう言った時、腹の虫がぐ~っと鳴った。
そういえば、金もないし、朝飯も食ってないな。
とぼとぼと路地裏を歩いていると、3人のならず者に囲まれている人影が見えた。3人は普通に成人男性、囲まれているのも成人男性。
まあ、そういうこともあるだろう。
我は見なかったことにして普通に通り過ぎた。
「そこのきみ! 助けてくれ!」
ちっ、気づきおったか。見た目が少女の我に助けを求めるとは。
「なぜ我が助けなければならぬのだ?」
「お礼は何でもする! だから助けてくれ!」
「ほぉ、何でもする……本当だな?」
これで飯でも奢らせればいいだろう。そのやりとりで我に気づいた3人組もこちらに向く。こちらを見たとたんに顔が緩むのが分かった。
「お、こっちの女、よく見たら美少女じゃねぇか」
「ぐへへ、捕まえて売っちまうか?」
「売る前に、十分遊んでからだな」
3人の男が我を逃がさないように3方向を塞いだ。塞いだと言っても通常の人間が走って抜け出す前に通せんぼできる程度の隙間はある。
我を囲むことによって隙が出来たため、囲まれていた人影は逃げ出した。
「おい! お礼は!」
我が叫ぶが、人影は「今度会えたらな!」と言って逃げて行った。我はもうこやつらを相手にする理由が一つも無くなった。
「じゃあ、我もこれで」
我は右手をシュタッと上げて目の前の男の横を通り過ぎようとするが、前を塞がれた。
「逃がすわけ無いだろ?」
男はポケットから折り畳みナイフを取り出すと、パチリと鳴らして刃を立てた。捕まえる予定の少女を傷つけてどうするのだろうか。脅しだけか?
「はぁ、めんどくさい。せめて、いくらか金を持っていればいいが。ストレングス・アップ」
我は男達を倒した後の事を考えながらローキックを繰り出すと、男の膝がメキリと音を立てた。
骨が折れたのか、皿が割れたのか知らぬが、男は叫びながら足を押さえている。戦闘不能者1名だな。
「て、てめぇ魔法使いか!? なめた真似をしやがって!」
右にいた男が、殴りかかってくるが、拳を右手で受けると、握りつぶす。何故魔法使いだと思っていながら普通に殴りかかってくるのか理解できん。
痛みで男は叫んでいるが、我はそのまま左の男に向かって投げてやった。受け止め損ねた男は、一緒になって倒れこむ。
我は男達に、「金は?」と聞くと、まだ無事な男が小銅貨を何枚か出してきた。
無一文の我が言うのなんだけど、子供の小遣い並みだな。これでパンの一切れでも買えるといいが。
我は「膝が! 膝が!」と言ってうるさい男を金に免じてヒールしてやった。
男はきょとんとした顔で膝が痛く無くなったのを確かめると、「覚えていろ!」と言って仲間と逃げて行った。手を砕いた男はヒールしなくていいのだろうか?
我はもうこの街に来ることは無いと思うので、覚える気はない。
我は小銭で何を買おうかと思案を巡らせていると、首に小さな針が刺さった。
すると、ものすごく眠くなってきた。
「ぐっ、何だ?」
我は意識を手放した。
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