第3話 魔王、襲撃に遭う

「で、何%の力を解放すれば酔っ払い程度を追い払えるんだ?」


我は考える。我の魔力が戻ればすぐにでもこの人形の体から解放されるはずだ。


「100%だな」


「嘘つけ! お前最強の魔王だろうが!」


さすがに無理があったか。我は少しずつ下げてみることにする。


「……90%」


「嘘つけ」


「……80%」


「本当は?」


そろそろ誤魔化すのは無理か。いや、もう少し粘ってみるべきだろう。


「……50%」


「それも嘘だな。な、正直に言おうぜ?」


ノロイは窓に腰掛けると、水をコクリと一口飲んで喉を潤した。


我もやりたくはないが、最終手段だ。両手の指をツンツンしながら、上目遣いに頼んでみる。


「……せめて、10%で頼む」


「10%か。じゃあ、試しに10%解放だ」


ノロイはそういうと、我の頭に右手を載せて魔方陣を発動する。


「よし、解放完了だ」


「ふはははは、バカめ、我の力が10%もあればこんな呪いなぞ吹き飛ばせるわ! これで我も自由だ!」


我は全身に魔力を込めて呪術具の呪いを吹き飛ばす!……はずだった。


「だと思ったよ。やっぱり解放はなしな」


魔方陣は見せかけで、まったく力が解放されていない。我はノロイの足に縋りつくと、懇願する。


「頼む! 1%、1%でいいから解放してくれ! 酔っ払いにすら勝てないなんて耐えられぬ!」


「で、1%でどれだけの力になるんだ?」


我の本気の1%か。10%解放でドラゴンを余裕で倒せる程度だったはずだ。


「そうだな、オーガを指一本で倒せるくらいか?」


我はほっぺたに指をつけ、自分の実力を思い出しながら正直に答える。


「あほか! オーガっていったら魔物の中でも上位じゃねーか! 却下だ却下」


この世界はオーガ程度が上位とは……。我はがくりと四つん這いになる。我はもう、ただの村人として生活するしか無いのか……。


「しゃーねーな、もう。0.1%だ。何かあったらまた考えてやるよ」


「おぉ……、ありがとう、本当に、ありがとう」


我は感激して涙を流す。人前で泣くなど、生まれて初めてかもしれぬ。


「それはそうと、もう一回お湯を取ってこい」


「わかった、我に任せよ!」


我の実力の0.1%のと言えば、ゴブリンジェネラルを倒せるくらいか? まあ、酔っ払い程度には勝てるだろう。


酒場に戻ると、先ほどのやり取りを見ていたせいか、もう絡まれることは無かった。


お湯を持って部屋に戻る。上半身の服を脱いだノロイはタオルをお湯につけると、体を拭きはじめた。


「包帯は取らぬのか?」


「ああ、これを取るわけにはいかねぇな、今は」


「そうか。じゃあ、我もお湯をもらおう」


ノロイを見習い、胸の布を取ると、タオルで拭く。すると、ノロイが吹いた。


「おまっ、美少女の体でそういうことするか!? 俺にやらせろ!」


ノロイは我からタオルを奪い取ると、全身を拭いてくれた。おぉ、なんか支配者の頃に戻った気分だ。あのときは、絶世の美女サキュバスや、美女ドラゴニュートが拭いてくれたものだ。


「うむ、苦しゅうないぞ」


ノロイはハァハァ言って拭いているので正直気持ち悪いが、魔力も解放してくれたことだし今回はこいつの好きにさせるか。


「ふう、綺麗になった」


ノロイはまるでお気に入りの人形を丁寧に拭けた様な、すがすがしい顔をしている。実際、我は人形だけどな。


その夜。心配しているような事は起こらず、ノロイはぐっすりと寝ている。我も寝ていたが、何かの気配を感じて目が覚めた。すると、ドアの向こうから小声だが声が聞こえる。


「おい、ここの部屋か? 美少女が居るっていうのは」


「ああ、変な術を使うやつがいるが、ハゲのお前なら大丈夫だろ」


一人は聞いたことのない声だが、もう一人は我に絡んだ酔っ払いの声だな。


ガチャンと鍵の開く音がし、ギィと静かに扉を開け2人の男が入ってきた気配がする。我は寝たふりを続ける事にした。


「よく寝てるな。よし、さらえ!」


ハゲが麻の袋を出すと、我にかぶせようとする。そこで我は、右手でハゲの顔面を掴んだ。


「ストレングス・アップ」


我は筋力を上げる魔法を唱えると、右手に力を入れていく。


「いてててて、痛え!」


「何遊んでるんだよ、ハゲ。そいつはただの少女だぞ!」


仲間にもハゲって呼ばれているのかこいつ。それに、魔力の使える我はもうただの少女じゃないがな。


我はそのままさらにギリギリと右手に力を入れると、ハゲは泡を吹いて気絶した。


「やべ、じゃあな!」


酔っ払いは慌ててドアから逃げ出そうとする。


「ちょっと待てや」


さすがに騒ぎに気付いて起きたノロイが、人形を操る。酔っ払いの人形、まだ持っていたのか。


ノロイは人形の首を徐々に捻っていく。


「いだだだだ! 許してくれ!」


「やだね」


ノロイはそのまま捻っていくと、120度くらい捻ったあたりでゴキッと言う音と共に酔っ払いは気絶した。……気絶だよな?


「マオ、そのハゲは金を持っているか?」


ノロイは酔っ払いの方の懐をあさったが、何もなかったようだ。我はハゲの懐を探ると、金の入った袋を見つけた。


「あったぞ!」


我は袋をノロイに投げ渡す。


その後、ロープでぐるぐる巻きにして廊下に放り出しておいた。そのうちだれかが片付けるだろう。


我はあくびをすると、再び寝た。

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