第5話 顔出さない生配信



「はい。みなさーん。こんにチワワ〜。狗姫だよ〜」

「そして、紙鳶音虎だ。カメラマンとして、姉貴の関係者を呼んでいる」


 ゲームセンターの前で、カメラを回しながら(正確にはスマホ)生配信をしている。

 仮面をつけてだが。

 2人とも、狐のお面。

 虎なのに、犬なのに、狐。

 明らかにミスチョイスだ。


「今日は、初めてのガワ無し配信で、ゲームセンター攻略をしていきたいと思いまーす」

「今回は多種多様なアーケードゲームをクリアしていこうと思う」

「あ、そうそう。今回はコメ欄見れないからね〜。よし、じゃあ行こう!!」



 レースゲーム等が置いてある中の1つ、その前で、私は立ち止まり、カードを鞄から取り出す。


「まずは……これ何?」

「頭文字」

「イニシャルね。わかった!それを、2人でバトル?」

「全国」

「おぉ……」

「イニシャルの次は、ミッドナイトするから、私と勝負したいって方は、今すぐゲーセンへGOだ。私の垢名は〈イリス〉だからな。使用車種はアヴェンタドール」

「んで、イニシャルで使うのは?」

「スバルWRXSTIだな。サブのデータだから、あまりレベルも高くないし、メインのより馬力があるから、悩みどころ」


 メインデータは、86の痛車なんだよなぁ……。

 まぁ、このSTIも痛車だけど。


「お、あやややさん、よろしく」

「……返事ないじゃん」

「気にしない気にしない。これはこっちの自己満だから」


 そう。あくまで自己満足でしかない。

 この配信も……。


「相手、R32だ」

「R32?」

「ほら、姉貴が前使ってたGTーRのR35ってあるでしょ?」

「うん」

「あれの数世代前のがこれ。最速をキめている」

「なにそれ」

「速いんだよ。まぁ、勝てるけど」


 そう語っている間に、バトルが始まる。


「あ、速い。ってか、ドリフト上手いね」

「これはドリフトじゃない。リアタイヤが滑っているだけ。このゲームでは本当のドリフトは激ムズになっている」

「そ、そう……」


 そう。ドリフトがメインのゲームにおいて、ドリフトが難しくなる。これ、テストに出る。


「前のあのリアルドライビングシュミレーターでは、ドリフトを難なくしてたじゃん」

「あれは、ドリフトのアシストなしのゲームだから。ちゃんとカウンターを当てられるんだよ。でも、これはハンドルを切った方向に曲がるというアシストが強いから、カウンターがあてにくい」

「え?どゆこと?」

「つまり、ゲームによって、難易度が違う」

「…………わかった」


 絶対わかってない。




「次は〜、このゲーム!!太鼓やっていくよ〜!!」

「私はやらない」

「え〜?なんで?」

「この前、バチのせいで手の皮が剥けたから……」

「あ〜。あの絆創膏、これが原因だったんだ」


 あれ、ペンすら持ちにくくなったんだよなぁ……。


「さて、それではやっていきましょ〜」

「あ、カメラさんはこっちから撮った方がいい」

「はい、じゃあ最初はこれ!!」

「東方のAppleやるんだ……」

「ハードモード!!」

「難しいよ、それ……」


 〜少女演奏中〜


「は〜。ノルクリしかできなかった……」

「まぁ、そんなもんじゃない?」

「あ、このユーザー、フルコンしてる……〈ミシャグジ〉……凄いなぁ……」

「…………」


 私のアカウントだ……。まだ誰も上回ってないんだ……。


「あ、その反応……もしかして音虎がやったの?」

「まぁ、昔に」

「へぇ〜……じゃ、次の曲!!これだ!!」

「最終鬼畜するんだ……」

「これはPS4で散々やったから、ある程度は覚えてるからね」


 〜少女演奏中〜


「はい、フルコン!!」

「オメデトー」

「いや、なんでそんなに棒読みなのさ」


 私は筐体の画面の一箇所を指差す。

 姉貴はそれをマジマジと見つめる。


「あ、〈ミシャグジ〉がトップだ……」

「私は全良したから」

「そな馬鹿な……」

「はい。次は私の番。湾岸やるよ」



 また、最初に来たコーナー近くの所に来た。

 しかし、すぐに始められそうにない。

 なぜなら、1人の男性がスマホ片手に何かを待ちながら、座っているのだ。


「姉貴、許可とってきて」

「ん?あ、はいはい」


 ここで姉貴を召喚!撮影許可をとりにいかせる。

 姉貴は数回男性と話すと、男性が嬉しそうにした。

 そして、その男性は私を見て、さらに喜んでいた。

 は?

 戻ってきた姉貴に聞く。


「何があったの?」

「いや、あの人、私たちのファンだって」

「なるほど。じゃあ、タイマンするか聞いてくる」


 ファンなら、仕方がない。やりたい人は待ってろと言ったからな。


「すみません。一勝負どうですか?」

「え?本当にいいのですか!?」

「いいですよ」

「やった!!音虎姉貴、よろしくおなしゃす」

「あ、あぁ……」


 何この人……てか、この人のスマホから見える……いや、コイツタブレットでも見てるな……てか、その画面からコメ欄が見えるのだが……。


[は?裏山][おい、そこ代われ][オメェ!!!!音虎姉貴との全国対戦したかったのに!!!??]


 ………まぁ、一戦した後は、全国に潜ろう。


「一戦した後は全国に潜るから」

「はい!音虎姉貴!!」


 また同じカード……いや、これじゃない。もう片方のカードを取り出し、筐体に読み込ませる。

 〈イリス〉……私は帰ってきたぞ。


「さて、それじゃ、しばらく無言なんで」

「あ、はい」


 アヴェンタドールの相手は、R35ニスモだ。

 そして、バトルスタート画面に移る。

 アヴェンタドールが後ろ。

 相手の〈音虎狗姫〉は、快調に最初は先行していた。

 しかし、私の〈イリス〉は、その後ろに張り付くこともなく、障害物の一般車の隙間をすり抜けていく。

 そっちは後々、つまりそうなんでな。

 そして、ついに来た。

 トンネル手前で、35側は、殆ど閉められている。そして、私の方はレーンが空いている状態。

 35は端の路肩を走り抜けるが、レーンチェンジで減速している。

 驚くなよ?


「は?アヴェンタドールが前だと……」


 そう。そりゃ直線だったもの、こっちは。

 このまま、ゴールさせてもらう。




 結果、タイマンだけでなく、全国でもある程度の戦績を残し、もうすぐで帰る頃。

 また別のコーナーに来ていた。

 ちなみに、ファンというあの男性は先に帰ってもらった。


「さて、最後はクレーンゲームやっていくよ〜」

「これは得意だな」

「え?そうなの?」

「そういえば姉貴は私の部屋、見たことないか」

「もしかして、ぬいぐるみが大量に……」

「全てフィギュアだけどな」


 そう。フィギュアをよく取っているのだ。

 理由は簡単。ぬいぐるみは取りにくい。ただそれだけ。

 ちなみに、フィギュア取りすぎて、家から1番近いところは出禁にされた。まぁ、クレーンゲームコーナーだけを、だが。


「これ欲しい」

「それを言われてもな……」


 姉貴が指さしたのは、大きなぬいぐるみ。

 いや、取れんて。


「音虎、こういうの得意でしょ?」

「ぬいぐるみは苦手だ。てか、ぬいぐるみのクレーンゲームは、ゲームセンターの稼ぎどころだと思う」

「そこまで取り難いの?」

「うん。やってみたら?」

「わかった」


 姉貴が100円を入れて、クレーンを操作する。

 クレーンはぬいぐるみの真上から掴みにかかり、ぬいぐるみの重さで1mmも持ち上がらなかった。


「……………」

「わかった?」

「…………うん。理由がわかった」

「さて、3時間も配信したので、私、音虎の独断で、今日は終わりにしたいと思う。それじゃあ。ほら、姉貴、挨拶」

「おわんこでした!!」


 配信を終わらせて、一息つく。


「前回の分のさ、最後の挨拶忘れてたよね?」

「え……あ……う、うん」


 やっぱり。駄々捏ねてたからか。

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虎っこになって配信生活 紙鳶音虎 @shienneko

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