Ep Ⅰ‐10 青き絶望


 宴も落ち着いた黄昏時、彼らは音もなく現れた。冥府の街の四方を取り囲み、ゆっくりとその体を物陰から表していく。美しく輝く青い鎧、対照的に鈍く艶めく鉛色の剣。そこに刻まれた鷹と蛇を模した紋章。


 彼らこそダルド帝国が誇る精鋭部隊、青光騎士団である。彼らはその堅固な見た目とは裏腹に、凄まじい速度で多々の起伏を滑る様に移動した。それは正に蛇である。


 本来であれば帝国民は彼らの奉ずる信仰故、死体に触れることは出来ないのだが、彼ら青光騎士団はその例に漏れる。彼らの鎧に刻み込まれた精緻な文様は、帝国の神官が施した呪い除けであり、それを纏う彼らには死者の呪いが通じない……とされているのだ。故に彼らはなんの躊躇いもなくこの場へ足を踏み入れる。


 騎士団が集落へ到着するまでにそう時間は掛からず、そして彼らは淡々と目的を果たしていった。そもそも優秀な戦士である彼らだ。酔い潰れ眠る彼ら全てを殺すのに、そう時間は掛からない。


 襲撃に気付いたのは、二人だけだった。中でも身なりの良い若い男と、異様に力の強い小さな男の子である。だが気づいた所でどうする事も出来ない。武器も経験も無い彼らに、精鋭である戦士の奇襲を防ぐ手立てなど有りはしない。


 集落の住人は全て、極めて迅速に惨殺された。

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