Ep Ⅰ‐6 繁栄の歪み
こなれてきてからは、エリクは際立って優秀だった。
街での知識がある分、売れそうな物を持っている死体を正確に見分けることが出来たし、死体が捨てられる時間をほぼ正確に知っていたから他を出し抜けたし、何より引き取りにくる商人に『交渉を持ち掛けられた』のが大きい。
この場所に言葉を扱える人間はまず居ない。街の価値観を知る人間も殆ど居ないし、探り当てたモノの価値を知っている人間も、エリクの様にいよいよ行き場が無くなった街の人間くらいなものだが……そんな人間でさえ寄り付かないのが『冥府の街』なのである。それ故に、エリクは際立って優秀だった。
父親がそれに関わっていたことも大きい。彼は商人が欲しがる品物を心得ていたし、ここへ来る商人は汚れ仕事を押し付けられる下っ端である事も知っていた。常にうー、あー、言う奴から適当に全部貰って帰る、なんておざなりな仕事をする者たちばかりで、それほど賢いわけでもない。エリクには大変、扱いやすかったのである。
その内、エリク達が大量の食糧を貰っているのに気づいた者たちが彼らを襲う、という事も起きたが、その際には少年が力を発揮した。全身の腫れが引き、食べ物を十分に得るようになった為だろうか。少年はその身なりに見合わない膂力を見せた。それは時に、人間一人を軽く数メートル吹っ飛ばす程だ。
力だけではなく、直感も鋭かった。時に死体の下へ隠れて待ち伏せていた連中を見抜いたし、時に夜襲を掛けようと画策する連中へ先に襲い掛かったのだ。その度にエリクは度肝を抜かれ、手放しに彼を誉めちぎった。少年は無垢に笑った。素直に喜んでいる様だった。
ボロボロだった歯もいつしか綺麗に生え揃っていたが、エリクは特に気に留めることもなく、すさまじい回復力だな程度に捉えていた。徐々に呪いが現れ痛み始める自分の体に比べ、何故だか『呪いの一つも現れない』少年には多少の疑念も浮かんだが、この地に長く住んでいるから耐性でもあるんだろう、と思えば気にならない。
それよりも日々の暮らしを充実させて、少年を健やかに育てる事が、彼にはとても楽しかったから。
一か月も経つと彼らは死体置き場という世界ですさまじい権力を有していた。最早、彼らに手を出す者など居らず、むしろ隷属を願い出る始末だ。エリクは拾ってきた彼らの成果を商人と交渉し、彼らの倍以上の報酬を引き出して、しかもそれをそのまま与えた。
結果その求心力たるや凄まじいもので、この場所でエリクと少年の二人を知らぬ者は居なくなり、またその恩恵にあやからない者も居なくなった。
やがて彼らは協力して住居を作った。
団結して狙い目の物を探し出す事を覚えた。
エリクから言葉を学び、ほぼ全員が簡単な会話を習得した。
少年もいつしか会話を覚え、ククイという名前を貰った。
一方でそれがやがて商人の間で広がった。
街に『死体置き場の屍人村』という噂が広がっていき。
そして、それは国を挙げた一掃作戦に繋がっていったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます