Ep Ⅰ‐3 場違いな恩人


 少年が目を覚ますと、そこは小屋の中だった。外は夜の様だが、部屋の中はオレンジ色に明るい。彼の知る場所ではないことに驚き素早く起き上がると、そのまま激痛に襲われて体を硬直させる。傍らの小さな丸テーブルにつっぷしそれを見ていた青年は、くっくっく、と小さく笑った。


「こ汚いガキ、起きない方が良いぞ。全身が腫れあがってるからな」


 声を掛けられた事にびくりとし、少年はそこで初めて人がいたことに気づいた。

 気づいて、逃げようとした。そしてまた激痛に硬直した。


「くっくっく」


 青年は笑う。少年が知る他人は大抵殴りかかってきたものだが、どうも様子が違う。何かを狙う様な目の動きもない。どちらにせよ動ける状態でもないので、少年はそのまま体を倒した。


 そこで随分と床が柔らかい事に気づく。不思議なものだ、と思いながら、その寝心地の良さに心を緩めていく。加えてなんだか温かい。自然と瞼が下りていくのを感じた。体中痛むが、意識を失う前の熱は感じない。眠っていれば体もよくなりそうだ。


「そうだ。素直に寝ておけ。どうせ動ける体でもないんだしな」


 語り掛ける青年の声は、その顔と同様にとても穏やかだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る