継承

アリス首謀説が浮上する。

しかしアリスの容態が悪化してしまい、それ以上の詮索は困難になってしまった。

チャールズは、これ以上事件を深く掘り下げても得るものは少ないと考えた。

そこで僕の適合者としての可能性を探る意味でも、僕に魔術を伝授した方が効果が期待できると考えるようになった。

こうしてチャールズは、自ら指導者として僕に魔術を習得させる機会を設けた。


1997年1月から始まったチャールズによる魔術教練は、2000年1月の3年間続いた。


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チャールズは僕に魔術を伝授していた期間に、個人的にある危険な魔術を使用した。


それは『ナイアーラトテップとの接触魔術』だ。

4度目となる外側の神性への拝謁が成就したチャールズは、適合者の教育で生じた疑念を打ち明けたと話していた。

具体的な内容については話してくれなかったが、チャールズはその拝謁である確信に至り、決断した。


それは肉体を超越した存在になることが魔道を究めるためには必須の過程だという確信であり、肉体を捨て、精神だけの存在に昇華できる奥義の使用を決断したということだ。


この奥義を以前使用した協会員は1名いるが、それが誰なのかは総裁しか知らない。しかし協会内に精神だけの存在に昇華した可能性がある人物は、僕が知る限り1人しかいない。

僕でさえ判ってしまうのだから、奥義の存在そのものが極秘扱いになっている理由は容易に想像できた。


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兎に角、こうしてチャールズは肉体を捨て、協会を去る決断をした。


チャールズは影武者を用意しており、影武者の在命中は彼を総裁に立てて、僕は裏から協会の全体を把握して方針を決定すればよいとお膳立てしてくれた。


僕は協会の運営を引き継ぐに当たり、チャールズから何度かレクチャーを受けた。

協会上層部の腐敗、最高意思決定機関である議会の形骸化、ビリースタインに実質支配された協会の実態を教えてくれたのだ。

ビリーは協会の上層部を支配したが協会の仕組みからか、リーダーたちを支配するのは諦めた節がある。

飼いならされた参議子飼いのリーダーたちは、ビリーも意のままにできるが、それ以外のリーダーには手も足もでなかった。


チャールズは、ビリーが協会の支配に本気なら、リーダーたちの支配にここまで消極的になる理由が見当たらないという。

ビリーが協会運営を支配しているのは、協会支配が目的ではないと、チャールズは考えている。

露骨なリーダーたちへの干渉から、真の目的が露見するのを避けるための作戦だと考えていたのだ。


もちろんビリーの真の目的は判らないが、今となってはチャールズにはどうでもいい話だ。


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2000年2月

僕は本物のチャールズが、未知の世界に旅立ったことを知っている限られた人間の1人になった。(了)

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狩人の夜宴【適合者シリーズ7】 東江とーゆ @toyutoe

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