アリス

チャールズとの議論で『適合者は如何にショゴスを召喚したのか』も大きなテーマだった。


チャールズは事件直後は、滝弁天が召喚に必要なファクターだと考えていた。また僕の潜在意識にフォーカスする必要も論じられていた。


しかしチャールズには1つ気になる点があった、ショゴスの容姿だ。

ショゴスは様々な形態をとって外側の世界から地球に召喚される。

今回、滝弁天に出現したショゴスは『体から幾つも触手が生えて、皮膚は黒くて染みのように茶色、緑色、赤、黄色、など混じっている。体は形を次々に変えて、染みの場所も変えたり消えたりしている』といった姿で、僕は事件直後の聴取で証言している。


チャールズは、この姿や不可視という特徴に類似点があるクリーチャーを知っていた。

吸血獣がそれだ。吸血獣は、召喚によって宇宙より飛来する。


しかし今回出現したショゴスの姿には吸血獣との相違点も幾つかあった、例えば『溶けたり破裂したりなどして、肉片を撒き散らし拾い集める』点は吸血獣の目撃記録には見当たらない特徴だ。

しかし協会が全ての吸血獣を把握している訳はなく、個体差の範囲内の相違点とも考えられる。


重要なのはアリスは吸血獣というクリーチャーを召喚使役できるという点だ。

となれば滝弁天で僕の前に出現したのは、ショゴスではなかったのでは?とチャールズは考えたのだ。


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そこで発狂したアリスへの催眠が施術され、いくつかの情報が入手された。


事件時にアリスは大神黄という年男の配下の精神科医を呼び寄せ、身を隠し潜ませていたことが判明した。

事件の時、あの場所に大神が隠れていたことを僕は知らなかった。


大神とアリスは、協会に露見しない形で年男を殺害する企てを計画していたのだ。

僕が召喚したショゴスに年男が殺されたように見せかけ、年男亡き後に協会内での適合者への発言権を強めようとアリスは画策していた。

やはり、あのクリーチャーはショゴスに見せかけた吸血獣だった可能性が高い。

年男は恐らく吸血獣を見たことはないし、アリスがそれを召喚使役できることも知らなかっただろう。


アリスの話では、年男は僕が誕生した以降にナイアーラトテップの御告げが聴こえなくなっていたという。

もちろん年男はそれを暴露するような愚か者ではない。

アリスは夫の仕草や習慣の変化を見逃さずに、それを看破したのだ。

そして夢を操る魔術を駆使して、細心の注意を払い、慎重に様子を窺いながら、焦らず確実に時間をかけて『偽の神託』を年男の夢に送った。


やがて神託を信じるようになった年男は、夢の誘導のままに、同じ夢を共有している大神黄を従えて、他に夢を共有する者を探した。

夢を共有するメンバーが集まると、年男は大神に命じて結社を組織させた。大神がアリスの刺客だとも知らずに。


あの事件も、僕の夢もアリスや大神のフェイクであり、滝弁天も怪物もナイアーラトテップの神託とは何ら関係がないと判明したのだ。


大神はあの事件の日以降、行方不明だという。


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こうしてチャールズは、未だ適合者はショゴスを召喚できていない可能性があることも考慮せざるを得なくなった。


可能性の域を出ないのは、いくつかの腑に落ちない点が残されているからだ。

フィクションの現場に滝弁天を選んだのは何故か?

使役可能な吸血獣にアリスが犯されたのは何故か?

吸血獣と出現したクリーチャーに相違点があるのは何故か?

大神は何処に消えたのか?


他にもアリスの自白で事件の全てを説明するために、足りない情報のピースはいくつかあった。

しかし最もチャールズが注視している点は『聡太郎の夢の中にクリーチャーが出てくるようになった』のは何故か?だ。


この情報は僕が発信源であり、アリスから出てきた情報ではない。

しかしチャールズは、適合者の能力が未知数の中で適合者本人から齎された情報には、アリスの企みなど粉砕する事実が、そこに隠されていても何ら不思議ではないと考えていた。


とはいえ、これ以上の詮索は難しくなってしまう。

それはアリスの衰弱が著しく、催眠による調査も中断を余儀なくされたからだ。


このアリスから得た情報を知るのは、催眠を施術したチャールズと僕だけだ。

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